ゴッホ展③ 収穫


豊かに実った作物を前に、少し前屈みの農夫が後ろ姿で描かれている。
オランダ時代のゴッホの「収穫」は、おそらくミレーの「種蒔く人」のオマージュだ。

ミレーの『種蒔く人』は、背筋をぴんと伸ばし、まだ何もない畑を前にステップも軽やかに生命の種を蒔いている。農夫が蒔いている種は、もちろん穀物そのものの種であるが、同時に我々自身の生命の種でもある。広大な未来を前に種を蒔く。粛々と、そして堂々と。

ゴッホの「収穫」は、「生きることの崇高さ」という点でミレーに共鳴しながら、正反対のものを描いている。
何もなかった眼前の畑は豊かに茂り、正面を向き胸を張った若い農夫は老人を彷彿させる少し屈んだ後ろ姿で佇む。

ミレーの絵が未来への賛歌だとすれば、ゴッホの絵は過去への賛歌だ。
それはいかにも、老人の刻まれた皺ーその生き抜いた証をこよなく愛したゴッホらしい。

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