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理由なき反抗 ー 風に吹かれて ー

 

最近、反抗期を迎えつつある三男坊だが、子供の頃は3兄弟の中でも最も笑わせてくれる子供だった。いつもおしゃべりしていて、いろんなことに関心があり、思うままにしゃべっているような子供だった。特に思い込みによる間違いが多いのも特徴で、例えば、コンビニに出かけるとき、

「ついでにかぜふねガム買ってきてよ」とお願いしてくる。

「・・・」

「あ、風船ガムね!」

妻はそこで笑い転げる。しかし、僕は笑うに笑えない。

というのも、思い込みによる間違いは明らかに僕の血を受け継いでいるからだ。



まだ若い時に、はじめて隣保の葬儀に参加した。

出雲では自治会内同士で葬儀を手伝う習わしがある。昔は丸2日続けての手伝いだったので、仕事を休んで参加する必要があった。ご当家の食事を作ったり、帳場の受付をしたり、いろいろとこまごまとした仕事があった。今ではずいぶん簡素化し、帳場の手伝いくらいだが、あの頃はすべて終わるとどっと疲れが出たものだ。

さて、僕がこの葬儀に参加したときに、この手伝いを「しばづとめ」と教えられた。なるほど、面白い言葉を思い付いたものだと思った。


出雲神話に登場する神様の中で最も悲劇性が強いのは、大国主命の御子である事代主命だろう。「国譲り」に登場する悲劇の主人公・事代主命は大国主命の命を受けて、高天原から来た武御雷(たけみかずち)神との国譲りの交渉を行う。

そこで、事代主命は大国主命に「この国は謹んで天の神の御子に献上なさいませ」と仰り、乗ってきた船を踏み傾け、逆(さかしま)に手を打って青々とした神籬(ひもろぎ)を作り、その中にお隠れになった。

事代主命は美保神社に祀られている神様で、恵比須様としても有名。

この神社には有名な神事が2つある。諸手船神事と青柴垣神事である。12月の諸手船神事は、大国主神が国譲りの是非を相談するため息子の事代主命に使者を送ったという故事を再現している。そしてもう一つの、4月の青柴垣神事は、国譲りを決めた事代主命が船を青柴垣に変えてその中に身を隠し、再び神として甦る様子を再現している。



ここで「しばづとめ」に話を戻す。

なんとも粋な(葬儀に粋も何もないけれど)名前を付けたものだと、僕は膝をうった。

そう、「しばづとめ」とは「柴勤め」と書くのではないかと思ったのだ。

事代主命の故事にちなんで青柴垣神事から「柴」の一字をいただき、葬儀の手伝いを「柴勤め」と呼んでいる。なんて、詩的な出雲人達ではないか。僕はその手伝いをしながら、出雲人の心意気を誇りに思った。


「しばづとめ」も無事に終わり、帰る道すがら、

ちなみに「しばづとめ」ってどんな漢字をあてるのと聞いてみた。


なんなら、その青柴垣神事の故事でも話しながら神話の舞台に思いをはせ、今日の疲れを綺麗さっぱり洗い流したい、そう思った。

すると、一人の先輩が、


死場勤めと書くよ」と教えてくれた。

・・・・その夜、どっと疲れが出たのは言うまでもない。




といった話を、反抗期の三男坊に話すと、

「フッ」と軽蔑したような薄笑いを残して、自分の部屋に去っていった。


・・・・僕の心には風に吹かれたかぜふねが浮かんでいる。




今回も最後まで読んでくださり、ありがとうございました。 
 
よかったら、美保神社にもいらしてください。

諸手船神事と青柴垣神事は一見の価値ありですよ ♪

お待ちしています。



こちらでは出雲神話から青銅器の使い方を考えています。

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