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「骨の消滅」 エピローグ 【手紙】

俊太へ

あれから4年の歳月が過ぎた。

順当にいけば、君は高校生になっているころだね。今も出雲神話の真実を追求しているのだろうか。

今まで、ずっと連絡を取らなかったのは、ほんとうに悪かったと思っている。君に出雲いずくもさんのことを、どう知らせていいのか迷っていたからだ。

新聞やテレビのニュースで騒ぎになっていたから、君も知っているかもしれないが、君たちと別れてすぐに出雲さんが謎の失踪を遂げた。警察や刑事が大勢来て、大学や自宅、その周辺になんども足を運んだが、結局、何の手掛かりも見つからなかった。ほんとうに突然、消えるようにいなくなってしまったんだ。

なんだか今でも信じられないんだ。あのとき、ぼくらは確かに、君と一緒に大きな何かを手にしかけていたような気がする。

最近、ふと思うんだ。
きみと出会ったあの2日間は夢だったんじゃなかろうか、って。いや、ほんとのことをいうと、夢だったらよかったのにと思っている。

でも、あれは確かに現実だった。
そして、ぼくにとっても、君にとっても、とても大切な時間だった。
いや、時間でさえないのかもしれない。

昔の人は「こころ」というものが心臓付近にあったと信じられていたのを君も知っているだろう。20世紀になると、「こころ」は脳にあるといわれるようになり、21世紀は遺伝子の中に「こころ」があるといわれるようになるんじゃないかな。

でも、ぼくは「こころ」というものは、身体の外にあると思っている。だから、インターネットにも「こころ」が生まれる可能性があるのかもしれない。

ただ、ぼくらの身体の中には「たましい」があると思うんだ。「魂」に時間は存在しない。だから時代を超えてそれに触れることができる。どこにいても、どんなときもだ。

そして、あのときぼくら3人は、確かに「魂」が触れ合ったと思っている。
それはなにものにも替えがたく、貴重な体験だったと今も思っている。

なんだか難しい話をしてしまったね。今の話は忘れてくれ。


ひとつだけ、君に伝えておきたいことがある。
あのとき、須我神社の竹林の中でぼくは奇妙な音を聞いたんだ。
その禍々しい雑音は、いつか君をも蝕んでしまうかもしれない。
くれぐれも気を付けてくれ。その音というのは、


そう手紙を書きかけたとき、隣の部屋から何か物音がした。

ぼくはCDプレイヤーから流れていたマル・ウォルドロンの「レフトアローン」を一時停止した。


あれから4年間、出雲さんが失踪してからは、嫌なうわさも広まって誰も隣に引っ越してくることがなかった。

ぼくは留年することもなく、なんとか無事大学を卒業でき、就職も先輩のつてで地元の水道局に決まった。もう、荷造りも済ませ、引っ越しの準備も完了したところだ。午後には運送業者が来てくれるそうだ。だからそれまでにこの手紙を書き終えて、ポストに投函しないといけない。

しかし、さっきの隣の部屋の物音が気になる。誰もいないはずの部屋なのに。ぼくはそっと壁に耳を近づけてみた。

そのとき、聞こえてきたのは・・・・。


【おわり】


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