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『スター』とは何か 2024年5月21日

朝井リョウ氏の『スター』を読みました。

「どっちが先に有名監督になるか、勝負だな」
新人の登竜門となる映画祭でグランプリを受賞した立原尚吾と大土井紘。ふたりは大学卒業後、名監督への弟子入りとYouTubeでの発信という真逆の道を選ぶ。
受賞歴、再生回数、完成度、利益、受け手の反応――
作品の質や価値は何をもって測られるのか。
私たちはこの世界に、どの物差しを添えるのか。
朝日新聞連載、デビュー10年にして放つ新世代の長編小説。

『スター』あらすじより

この本、クリエイター志望なら必読の本のような気がしました。

『スター』が出版されたのは、2020年。
現在では「YouTuber」も立派な職業として認められる風潮がありますが、当時はまだ、「YouTuberなんて趣味の延長線上」「テレビの方がクオリティが高い」「所詮は素人」といった意見の方が根強かった気がします。
今そんなことを言ったら、「時代に取り残されている」「老害の戯言」などと袋叩きにあいそうです。
実際に、尚吾も考え方が古臭いと色んな人から言われていましたね。
かく言う僕も、映画監督とYouTuberを比べた時に、映画監督がプロフェッショナルで、YouTuberがアマチュアという前時代的な考え方に未だに囚われています。

尚吾と絋はどちらもプロフェッショナルとして、映像制作に臨むクリエイターだということはよく分かります。
しかし、そのふたりだけを描いていても、「スター」の本質には迫れなかったと思います。
個人的に物語に厚みを持たせたキーパーソンとなる存在は大樹です。
朝井リョウ氏は所謂「拝金主義YouTuber」にもしっかり焦点を当てています。ここで重要なのは大樹の意見も筋が通っており、大樹のやり方で成功しているYouTuberもいるという現実。
作り手の見せたいものと、受け取り手の見たいものに相違がある時、どちらを優先させるべきか、正解などないと思います。

朝井リョウ氏の作品は、主人公に共感させておいてから、主人公も読者ももろとも攻撃するのが大好物なのでしょうか。
絋も尚吾も自己矛盾を突かれます。
自分自身がポリシーを持って創作している自信があっても、自身の作品が正統、本流だと思い込んで、そこと外れるものを亜流だと断ずる権利は持っていないのです。
数多を包含するような根源となる創作物など存在せず、全てが別の場所で光り続けています。

人と人との繋がりによって、創られたもの。
あなたの思い描く星はどのような形でしょうか。

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