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100の読書記録

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自分で読んだ本についての備忘録です。本選びの参考にどうぞ。既に読んだものを含めて百冊分になる予定。
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#読書

見捨てられた絶望:『1984年』

小説は自由である。過去の黄金時代を描いてもよいし、来るべき暗黒を表現しても許される。『1984年』はまさに後者であった。現代の監視社会に対する「予言の書」などど評されることも多い。 しかし一方でこれを単に社会的な寓話として扱うのは間違いである。オーウェルはそのもう一つの代表作である『動物農場』から最後の『1984年』に至るまで芸術を忘れなかった。 オーウェルの巧みなところは「禁じられた恋愛」という、芸術においては定石ともいえるテーマを用いながら、全体主義という政治的に新し

何万回読んでも、いい本

枕頭の書、ということばがある。読んで字のごとく枕元に置くほどに何度も読み返すほど気に入っている本ということである。さて自分にとっての枕頭の書とは何ふだろうか。 以前の記事で自分の読書遍歴を公開したことがある。教養をひけらかすように思われても仕方ないが、後悔はない。自己犠牲だと腹をくくった。 掲載している本に関してはそれぞれ記事を書く予定である。それは自身の整理のためもあるし、それを機に原書を手に取ってくれる人が増えてくれれば、との思いがあるからだ。 しかしなかなか記事が

今まで読んだ本を全て公開します

本のリストリストの本は基本的に私が読んだことのある中で、今手元にあるものを掲載しています。読んだことはあっても図書館などで借りただけのものは省略しました。本の記事についている文章は、私のマガジンに投稿する予定の下書きです。 使い方など検索やフィルタリングが可能なので好きな分野から本を探すことができます。グループ化、サブグループ化のボタンから並びを変更することも可能です。 文庫版が存在する本は「文庫本」のタグをつけています。ほとんどの本は一般的な書店やネットで手に入るもので

自分に満足しきった人々:「大衆の反逆」

どんな本かこの本はスペインの哲学者であるホセ・オルテガ・イ・ガセットによって1929年に書かれたものである。日本語訳も行われていて、文庫版も販売されている。 2020年に出版された岩波文庫版は本文に加え、「フランス人のためのプロローグ」および「イギリス人のためのエピローグ」も収録されているこのふたつの章は内容的に興味深いものでもあるので、いまから購入する方はぜひこの版をお勧めしたい。 全体で400ページ以上にもなるため、決してすぐに読めるわけではない。しかし、細かい章立て

サモア島の生き方に学ぶ:「パパラギ」

「パパラギ」とは何かこれは書店のフェアで偶然見つけた一冊だった。これはサモア島の酋長ツイアビの演説集という形で現代文化の見直しを図った作品である。変わったタイトルだが、「パパラギ」とは主に白人を指す現地の言葉である。 ちなみに、語り手である酋長はヨーロッパで暮らした経験があるといっているが、実際はこのような人物は存在しなかったというのが定説らしい。ただし著者のエーリッヒ・ジョイルマンがサモアに一年滞在していたのは事実である おそらく自分のヨーロッパでの生活を話したときの島

いま『責任と判断』について考えること

責任は誰にあるのか。判断はどのようにされるべきなのか。これは世の中の問題についてよく問われるところです。政治についての記事なんかを読めば、この2語が登場しない時はないといってもよいでしょう。 現代では、さまざまな報道や情報発信が個人でもできるようになりました。それにともなって、無責任な言動や判断の甘さが指摘されることも増えています。インターネットの発展は、責任と判断を問うような状況を増やし続けているのかもしれません。 ハンナ・アレント『責任と判断』という、まさにそのままの

「意識と本質―精神的東洋を索めて」を読んで

物事の「本質」というものは時代を問わず哲学の主題のひとつとして扱われてきました。プラトンのイデア論は言うまでもなく、またこれに対する考察だけでも数多くあります。 しかし、同じ「本質」についての議論で言えばイスラーム哲学や中国、日本などでのいわゆる「東洋」の思想について触れた本は比較的少ないものです。「東洋」という分類が正しいかはひとまず置いておくとしても、やはりこれらの思想は馴染みがないという人が多いのではないでしょうか。 また、最近はマインドフルネスや瞑想ブームで禅の考