お口の中の厄介者のバイオフィルムとPMTC
今週は口腔内のトラブルである虫歯、歯周病につながるお口の汚れについてご紹介します。お口の汚れでよく耳にするのがまず歯垢(しこう)(プラーク)と歯石(しせき)、それから最近耳にする機会が増えてきていると思うのが、バイオフィルム、この3つが挙げられます。ではそれぞれの違いについてご存じでしょうか?
まずは歯垢です。歯垢は食後8時間程度経過するとできる微生物の塊です。食べかすが細菌の栄養源となるので食後に発生します。
次にバイオフィルムです。バイオフィルムは歯垢が口腔内に長時間溜まって膜の様になったものです。食後に付く歯垢は歯ブラシで落とすことができますが、バイオフィルムを形成してしまうと歯ブラシでは落とせなくなり歯科医院で歯のクリーニングを受ける必要が生じます。
最後に歯石です。歯石は歯垢が唾液中に含まれるカルシウムやリンと反応して石灰化したものです。歯石もまた歯磨きでは取り除くことができず、歯科衛生士による歯石除去をしてもらうなど歯科医院で歯のクリーニングを受ける必要があります。
歯垢が形成され、その後順にバイオフィルム、歯石へと進行して行きます。この中でも歯ブラシで落とせなくなる厄介者のバイオフィルムついて少し詳しくご紹介します。
バイオフィルムは水に濡れている固形物の表面に形成される物質です。身近なところでは台所や洗面台、ふろ場などの排水口や花瓶の内側に付着したヌメヌメの物質がバイオフィルムで、細菌や細菌が産生する菌体外粘性多糖体が集合体となった物です。口腔内では歯垢(口腔内細菌の集まり)からバイオフィルムへと変化します。
食後に歯を磨かないと口の中に存在する無数(1,000億個以上)の口腔内細菌が徐々に増殖して歯の表面に集結して8時間後には歯垢となります。さらにその48時間後には菌が急速に増殖(1兆個とも)し、72時間後には完全なバイオフィルムが形成されます。
このバイオフィルムが非常に厄介な存在なのです。口腔内常在菌やう蝕原性細菌(虫歯菌)が歯の表面に形成するバイオフィルムや歯周病原性細菌等が歯周ポケット内に形成するバイオフィルムは相互に影響したり、栄養を融通しあったりして共同体として増殖していきます。バイオフィルムは膜に覆われているので薬剤の効果が及びにくく、歯垢には効くような抗菌剤や抗体が効きにくくなります。しかもバイオフィルムが形成される場所は歯ブラシの届きにくいところなので、どんどん強固なものに成長してしまいます。
バイオフィルムが厄介者とされるのは薬剤も効かず自身の歯ブラシだけでも落とせなくなってしまい、歯科医院での処置が必要になるからです。
さらに怖いのは、歯垢やバイオフィルム、歯石を放置すると歯周病が進み、歯ぐきが下がって、歯ぐきを支える骨(歯槽骨)まで溶けてしまい、最終的には歯が抜けてしまいます。しかも、これらの細菌は歯周病や虫歯を引き起こすだけでなく、誤嚥性肺炎や糖尿病、その他血流に乗って全身に悪影響を及ぼすことも明らかになってきました。歯周病の進行を止めるには歯周病原性細菌が好む栄養を断ち切ること。細菌は血と鉄分とタンパク質が好物なので、歯ぐきからの出血を止め、歯周ポケット内の歯垢、バイオフィルム、歯石を取り除くことが大切になります。食後の歯ブラシで口腔内の食べかすなどをできる限りきれいに洗い出して、いかに歯垢、バイオフィルム、歯石の形成を抑えるかがとても重要になりますので、食後の歯ブラシはできる限り丁寧に行うようにしましょう。
薬剤などが効かず、歯ブラシでも取れない、なのに歯周病の進行にもとても大きな影響を及ぼす厄介者のバイオフィルムを取り除くには歯科医院での処置が必要になります。
バイオフィルムや歯と歯の間の歯垢(プラーク)など、普段のセルフケアでは取り除くことができない細菌を除去すること、それが歯科医院で行われるPMTC(Professional Mechanical Tooth Cleaning:専門家が専用の器具で歯をクリーニングする)です。定期的に施術を受けている方は歯磨きなどのセルフケアだけの方に比べ虫歯の予防効果が70倍も高いというデータもあるそうです。
いずみ中山歯科では定期的なメインテナンスがPMTCに該当し、8名の歯科衛生士さんによる丁寧で徹底的なクリーニングを行っています。虫歯、歯周病などの予防につながるPMTC(メインテナンス)は現在、多くの歯科医院で行われていると思います。少しでも多くの方が口腔内の健全性を達成して維持していけるようにできる限り多くの方がPMTCを受けていただくことを望みます。口腔内の健全性を目指して、是非お近くにご自身のかかりつけ歯科医をお持ちになることをお奨めします。