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夕ぐれのエスケープ

1000年以上前から「秋は夕ぐれ」だと相場は決まっており、令和4年の秋もそれは変わらないらしい。

急ぎで買わなければならない物が特にあるわけではないけれど、暮れていく街の様子を眺めたいがためだけに近所のドラッグストアへ車を走らせる。マイクラに夢中の子どもたちにしばしの留守番を頼んだ。

ちょうど時間の頃は帰宅ラッシュ。すれ違う車はどれもライトを灯し始め、暮れゆく空と対照的に煌々と道を照らす。遠くの信号灯は一直線にその色を告げている。

雲のかけらのようだった白い月は少しずつ輪郭を取り戻し、静かな空で存在感を放ち始める。すっかり沈んだ夕陽はその光だけが西の雲にこだまする。

昼と夜をつなぐ夕方の時間帯はどこか不安定で、気を緩めると時空のエアポケットへすこんと落ちてしまいそうだ。

形だけの買い物を終え車に乗り込む。早く帰らねば夕ごはんの準備が間に合わない。子どもらも家で待っている。感傷に耽っている暇などないなと思い帰途についた。

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