子どもを眼科へ連れて行く

今日は子どもを眼科に連れて行くと決めていた。通っている小学校での視力検査に引っかかり、一度確認してきてくださいねとのお便りをもらっていたからだ。眼科というものはいつ行っても混んでいるので想像するだけで気が重くなり、えいやと気合を入れておかなければいつまでもずるずると先延ばしにしてしまう。事実、本当は去年も同じお便りをもらっていたのだが、本人が特に困っている様子がないのをいいことに、そのまま行かなかったという前科がわたしにはあるのだ。

しかし、さすがに昨年に引き続き二度目のお便りともなると、これは眼科へ連れていかねばならないのではないか。日々時間制限はしているものの、ゲームやタブレットで動画を見るなどそれなりに目を使う遊びをしている。心当たりがないわけではない。強度の近眼であるわたしも、ちょうど今の子どもと同じ小学2年生のころに視力低下がひどくなりメガネをかけるようになったという過去の判例もある。

できるだけ混み合う前に着きたいと思い、近所の眼科へ車を走らせたが、時すでに遅し、待合室は人であふれていた。仕方がないかと思いつつ、こんなこともあろうかと子どもには本を持ってくるように言っていた。わたしも読みかけの文庫を持ってきており、待ち時間を有効に過ごす気合は十分だ。しかしふと子どもを見ると、持ってきたのはなぜか花の図鑑であり、案の定、早々に飽きていた。子どもは鳥が好きであり、鳥の図鑑であればそれなりに時間を潰せたであろうに、なぜ花の図鑑なのか。そして重い。「母ちゃん持ってて」とわたしの膝の上に置く。

受付の際にあれこれと尋ねられる。何気なく「実は去年も学校からお便りもらってたんですが、行かずにいまして、へへへ」と付け加えたところ、あらそれは、という反応をされ、「他の病院に行ったりはしませんでしたか?」と尋ねられてもちろん行ってはないのでそう答える。責められるわけではまったくなく、ただの確認でしかなかったのだが、少し決まりが悪い。

そうして、待つ。皆が名前を呼ばれては待合室から検査室へ吸い込まれていく様子を親子で見ている。しばらくすると看護師さんがやってきて問診であれこれとまた尋ねられる。「去年も学校の検査で引っかかったんですね」と確認され、あ、いや、はい、そうです、へへ……とまたも決まり悪く返事をする。

ようやく子どもの名前が呼ばれ、われわれ親子も検査室へと吸い込まれていく。しかし待合室と同じく、たくさんの患者さんであふれていた。さらに時勢もあり、長椅子は一定の距離を保って座ることを促す張り紙が座面に貼られており、容量の半分ほどの人数しか座れない。わずかに空いていたスペースに子どもを座らせ、わたしは少し離れた場所に立っておくことにした。

子どもはまったく人見知りをしないことでわたしたち家族や祖父母などに知られ、誰にでも話しかけようとする。子どもが座った近くに、おそらく子ども好きであろうおばあさんが座っており、わたしの場所からは聞こえないものの、二人で何か会話をしている。最終的にはお互いの足を押し合いへし合いしながら遊んでいた。こんな短時間で世代間交流が行われるとは。ATフィールドとかないタイプなのかな。

滞りなく検査を終え、小2から目が悪く眼科に通い慣れたわたしは一連の流れを完全なる先輩目線で見ていたのだが、最後にまったく見たことのないタイプの検査があり驚く。特殊なメガネをかけ、絵本を見て「飛び出て見えるところを掴んでください」というもの。あれだ、昔に雑誌の付録にあった赤と青のセロファンの貼られたメガネをかけたら飛び出て見えるやつみたいだ、と思う。看護師さんが昆虫の絵が描かれたページを開き、「虫の羽を掴んでみてください」と言われ、子どもはおそるおそる掴んでいた。しかし、メガネをかけていないわたしから見ると子どもの指は虚空を掴んでおり、一体どう見えているのだろう、そのメガネをわたしにも貸してほしいという思いでいっぱいだった。そしてまたここでも「去年検査で引っかかって、病院には行かなかったんですね?」と確認される。そうです、へへへと笑う。

残りは診察のみとなり、検査室にはもはや座る場所がなくなってしまったので、待合室で待つ。先ほどまでいっぱいだった待合室はずいぶんと人が減っていた。午前の診察時間が終わりに近づき、新たな患者の受付がなくなったからであろう。どこでも座れるというちょっとした解放感によろこびを覚え、とはいえ、診察の前に名前を呼ばれてもすぐ聞こえるように、と検査室にほど近い場所に座る。すると、先ほど子どもの相手をしてくれていたおばあさんがちょうど帰るところだった。子どもの顔を見ると「相手をしてくれてありがとう」とおばあさんが言い、いやいやこちらこそです、すみませんとわたしは答える。そして、手を上げ、子どもとハイタッチをして「またね」と言って帰っていった。ハイタッチするおばあさんはなかなか貴重ではないのかなと思う。そうして、診察したところ、子どもの視力には特に問題はなかった。





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