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コーチェラ拾い物(女性ラッパー)2000文字

ヒップホップを聴かない私が、最近は好きなラッパーが増えてきている。ヒップホップばかりではなく、もはやラップが入る音楽がヒップ・ホップに限定されなくなってきているので私にも身近なものになってきた。特に女性ラッパーの変化が著しい。20世紀に勃興したラップという表現、そしてラッパーという存在は長いこと、その発信地であるストリートのカラーが強く、ファッションも含めてストリート・カルチャーの象徴のような位置付けで発展してきた。男性ラッパーと同様に、女性ラッパーの頂点に立つミッシー・エリオットのような、ストリート・カルチャーを体現しているようなスタイル、それはファッションも含めてだけど、女性ラッパーの台頭は性別を超えた個の表現みたいなものが発展の中心だったと思う。

ニッキー・ミナージュ


ニッキー・ミナージュの登場が、「女性」を意識したラッパーという存在を私が認識した最初かもしれない。だけど元々、ヒップ・ホップやダンス・ミュージックを積極的に聴かない私にとってはニッキー・ミナージュはそびえ立つアイコンのような存在だった。


Noga Erez


しかし昨年辺りから繰り返し聴くようになったNoga Erezで私の中の女性ラッパーの認識は完全に塗り替えられた。Noga Erezはテルアビブを拠点に活動するイスラエル人で、プロデューサーのROUSSOと常に共同作業をしている。初期の音源を聴くとヘブライ語で歌ってるものもありそこにはラップは入ってないが、ラップを始めてから大きく飛躍したアーティストであり、今は完全に女性ラッパーと呼んでいいと思う。彼女が公開している影響源を集めたプレイリストにはユキミ・ナガノ率いるリトル・ドラゴンからPJハーヴィー、レディオヘッドなどと並んでエリカ・バドゥやカニエ・ウエストなども連なっていて、彼女の引き出しの多い音楽性がそこから伝わってくる。

ストリート系のファッションではなく、スーツを着てステージに立つNogaの個性は鮮烈で、今までにない新しいものを感じた。


ミュージック・ビデオのセンスにも独特の個性が光る。

森山未來さんがイスラエルにダンス留学したことで日本でも注目されるようになったが、イスラエルにはモダンダンスの世界トップレベルのダンサーが揃っていて、欧米とは一線を画す個性的なダンスシーンがそこにはある。そのイスラエルで、多数のダンサーたちを従えてのライブのフルセット動画がこれだ。


オーケストラとのコラボレーションなど、独特の世界観をビルドアップしている。


Spill Tab


Noga Erezをきっかけに、ヒップ・ホップ以外のフィールドの女性ラッパーに興味が湧くようになった。フランスから米国に移住して、フランス語の楽曲から英語の楽曲にシフトしたSpill Tabも、自身で英語でラップを取り入れるようになっている。


Greentea Peng


UKネオソウルのGreentea Pengも、ネオ・ソウルの女性シンガーという一言で括れないクロスオーバーな音楽性が気になっている。


noname


と、前置きが長くなりましたが週末の3日間開催されたコーチェラ・フェスティバルで、たまたまつけたチャンネルで予想外の拾い物をして私はとても得した気分になっています。3日目のモハビ・ステージに出演していた女性ラッパー、noname。ネオ・ソウル/エレクトロジャズにフリースタイル・ラップを乗せていく彼女のスタイルはとても新鮮で、キメキメに仕上げずとりあえずフローで帳尻合えばいいか的なフリー・スタイル感と彼女自身のアップリフティングなヴァイブで、観ているだけで楽しくなってくる。

それと目を引いたのは彼女のファッションである。ステージに立つ彼女はとりたててセクシーさを強調するでもない、普通のミニ・ワンピースにスニーカーという、どこにも気負いがないファッションだった。


モハビでのライブの様子

Noga Erezにしてもnonameにしても、男性ラッパーとの垣根のないファッションでもなく、女性という性を意識しているでもない、そのどちらにも属さない自分自身のアイデンティティを体現し、音楽性にもそのスタイルは投影されていて、ヒップ・ホップへの敬愛を持ちつつそれとは違うフィールドに立つアーティストである。10年前には女性ラッパーのフィールドがこんなにも地平線を広げてくるなんて、私は想像すらしていなかった。それこそ「長生きはしてみるもんだな」と実感する。もっともっと、ヒップホップ以外の音楽を吸い込み吐き出すラッパーを掘ってみたくなっている。

ちなみにコーチェラ・フェスティバルは来週末も同じラインナップで開催されるので、この週末に見逃した方は次の週末の配信で観られます。



今日の1曲
ベルギー出身の黒人モデルが中心で構成されてるLous And The Yakuzaのフレンチ・ラップもクセになります。

今日のパンが食べられます。