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バカリズム・ドラマと音楽


先日放送終了したドラマ「ブラッシュアップ・ライフ」は良作の多かった今期のドラマの中でも特に秀逸で、なおかつ人気もあり、リアタイ視聴者がTwitterでさまざまなキーワードをトレンド入りさせていた。私もとても楽しみに観ていた一人で、ユーモアたっぷりな中に哲学的な要素も盛り込まれていて、輪廻転生が信仰の中にない国の人たちを含めて世界中の人に見てもらいたい、世界に発信したいドラマだと思った。

「来世のために徳を積むとはどういうことか」、より良い来世を掴むために人生2周目、3周目とやり直す主人公。宗教によっては来世はない。でもその代わり「天国に行くために現世で徳を積む」という考え方があるから違う宗教観を持った人にも共有できるものがあるのではないか。

そして最終的には、来世のために徳を積むより大事なものを見つけてしまうし、「来世が人間フェーズ」に差し掛かった時にもそれより大事なものを優先する主人公。それでも「徳」のことは完全に捨て去ることができないのが人間の持つ揺らぎなわけだが、「徳」を考える時にトロッコ問題が出てきたり、「そもそも現世を何のために生きるのか」という問いも投げかけられる。まあその辺は多分、細かくレビューしてる人が山ほどいると思うので、私は音楽面からアプローチしようと思う。

バカリズム・ドラマは今までも、どれを観ても「ほぉ・・・」と感嘆するような骨子がしっかりしてて丁寧に作られた作品がいくつもあって、その中であまり話題にならなかったがミステリとしてもコメディとしてもとても秀逸な「殺意の道程」というドラマがある。こちらはバカリズムさんが脚本だけじゃなくキャストとして出演もしている。

WOWOWで全7話でドラマ化され、劇場版も制作された「殺意の道程」、ドラマ版がWOWOWオンデマンドで配信されている。

「殺意の道程」と「ブラッシュアップ・ライフ」、どちらも劇中に、登場人物たちがカラオケに行くシーンがある。そのカラオケのシーンがどちらも、選曲の妙味から登場人物の振る舞いまで、セリフでの表現とは異なる様々な表現が盛り込まれていて面白い。「 ブラッシュアップ・ライフ」ではレミオロメンの「粉雪」やオレンジレンジの「いけない太陽」など、劇中設定の時代的に鉄板というか、ベタな楽曲を選び、微妙な歌唱力で熱唱するシーンがある。「殺意の道程」では当時大ヒットしていた星野源の「恋」をセレクト。

カラオケボックスに連れ立っていくという経験は誰でもあると思うのだが、そういった場面でどんな振る舞いをするか、登場人物ひとりひとりがそれぞれ違うリアクションをしているのにその全てが「あるある」とものすごい既視感と共に同意したくなるものであり、そしてそれらのリアクションを見ただけでその人物の人となりがなんとなく理解できてしまう不思議さに着目しているバカリズム氏の凄さに唸るしかない。

「粉雪」を熱唱、されてしまった側の微妙な感覚、「いけない太陽」を微妙な歌唱力で歌われた時にヤケクソ気味にみんなで盛り上がる一体感、真面目に話し込んでるところでも、「恋」のポイントポイントで合いの手を入れてしまう人の良さなど「誰かが歌っていてそれを聴いてる人たち」の、セリフじゃない、歌とオーディエンスが支配するその空間から伝わってくる人間模様。もちろんそれは俳優陣の演技力や演出など制作陣の力が結集された結果なのだが、脱帽である。

最終回でチョイスされたチャゲアスとそのパフォーマンスまで含めて、カラオケボックスで表現される人間模様、何人居てもひとりひとりの個性が伝わってくる場面になっている。

そしてエンディングに流れたMy Little Loverの「Hello,Again〜昔からある場所〜」まで、ベタな選曲に見えて実は考え抜かれたセレクトであると実感する。「Hello,Again〜昔からある場所〜」は登場人物たちの青春時代のヒット曲というだけでなくその歌詞に、ドラマとシンクロする部分がいくつも含まれているからだ。

ヒット曲というのはその後、その時代を反映する音となり、好き嫌いを問わず人々の間で共有される何かが生まれる。その共有されているものを具体化、具現化していくバカリズム氏の作品は、今後も全部観ていきたいというか次の作品を早く観たいと待ちきれない思いで待ってしまう。

ちなみにアマプラで配信されているバカリズム脚本ドラマ「素敵な選TAXI」の第二話は私のお気に入りです。


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