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「アコースティック」ってなんだ?

以前はTwitterで音楽好きが集まってリアルタイムでSpotifyでプレイリストを作って1曲ごとに再生が始まると#NowPlayingとしてツイートされ、そのツイートにリクエストした人が解説ツイートを被せ、各自手元のデバイスで別々の場所にいながら一緒に聴く、という遊びをしていたのだが、イーロン・マスクくんのおかげでAPIが無料じゃなくなったので出来なくなった。(19boxというアカウントを作っていた)

その後、Twitterにいた音楽好きな人々がたまたま、Blueskyに続々と移住したのをきっかけに、19boxのアカウントを復活させた。遊びに関しては頑張るITエンジニアが仕事する間を惜しんで頑張って作ってくれたのが新生19boxで(現在はBlueskyのアカウントがないと見られないクローズド・ベータ)、週末になると「管楽器をフィーチャーした音楽」「映画音楽」「女性アーティスト在籍グループ」などのテーマを決めて自由参加で(フォロー関係にいない人も結構参加している)リアルタイムのプレイリストにリクエストしたり聴いたりしている。ちなみにSpotifyのアカウントは当然オープンなので、過去のプレイリストを閲覧したりダウンロードしたりは無関係者も可能です。


で、今日のテーマ、最初は「アンプラグド」とITエンジニアのおっさんが思いついたので、テーマを詰めていくことになった。つまりアコースティックな方向ですよね、はその時にTLにいた人々の同意はあった。「じゃあエレキ・ベースはダメ?」「エレキ・ギター入ってるのは?アンプ通してなければアリ?」「エレアコもダメなの?」みたいな話になってきたのだが、そもそも音源としてリリースしているものでアンプを通さずにレコーディングするという環境自体が特殊過ぎるし、エレキ・ベースやエレキ・ギターを排除したら選べるジャンルが限定されてくるか、またはアコースティック・ギター1本での弾き語りが延々と続くしょっぱいプレイリストになって絶対飽きるのは目に見えている。

そもそも「アンプラグド」という言葉が先に出てきたのが厄介で、MTVの一世を風靡した番組MTV Unpluggedという、普段ゴリゴリの音を出してるバンドにアンプのプラグを抜いてもらって、つまりアコースティックな生音を中心にして、それで演奏してもらおうというのがコンセプトの番組が昔あったわけです。MTV Unpluggedからは、特に有名なのはNirvanaの演奏で、ほぼ伝説として語り継がれるレベルのアレンジと演奏が2000年を超えても繰り返しMTVで再放送されていたのでもはやありがたみがないぞというレベルで誰でも見たことがある番組であり、Nirvanaの演奏であった、までいくほど伝説の神回として語り継がれているし、


その後も様々なバンドが音楽史に残るような名演奏をしていた、のは事実なのだが、人気番組に付き物の、本来あったはずの素晴らしいコンセプトがいつのまにか風化し、トレンドの変化もあって、2000年を超えると「みんなが見たいと思うような人気バンドで元々のサウンドがゴリゴリな感じの」というネタが出尽くした感が出てきて、とりあえず「MTV Unpluggedに出演出来ると売れたって印象になる」みたいな、存在意義も変質してしまい、売れ始めたバンドはとりあえずブッキングされるようになったため、そうなると意外性もどんどん薄れていく。その結果、惰性や凡庸の香り漂うUnpluggedの音源が量産されるようになり、番組も訴求力を失っていくわけです。

そもそも、「アコースティック・バージョン」「アコースティックなアレンジ」をコンセプトとする場合、必ずしも「電気を使わない」にこだわる必要はない。MTV Unpluggedという番組が始まった1990年代のテクノロジーは今よりもっとシンプルで、「アコースティック?じゃあプラグ引っこ抜いて生音で」くらい発想で「アコースティック」をコンセプトに出来たけれども、そこから30年も経つと、テクノロジーの進化と共にクリエイターの意識も変化していき、「電気を使わないからアコースティック」でもなければ「DTMで処理しないでちゃんとギターはギターで音出してるからアコースティック」でもない、もっと複雑でもっといろいろ、アコースティックの形がある。

どんな音楽を中心に聴いてるかでも「アコースティック」の捉え方は振り幅が大きくなる。なんでもDTMで作ってる人にとってはリアルな楽器、ギターやベース、ドラムを使って人間が演奏して録音していくスタイルはもうそれだけでアコースティックな音楽だし、MTV Unpluggedにかぶりついてた世代にとっては「電気使わないのがアコースティック」みたいな話になる。もっと言うと、DTMだけでベートーベンやショスタコーヴィッチのコンチェルトを再現するという変態的な趣味の方も見つけたので秒速でフォローしたんだけど、じゃあDTMで奏でるショスタコーヴィッチはアコースティックではないのか?問題さえ発生してしまう。もはやアコースティック・サウンドの定義は「聴き手が立つ場所」と「作り手の姿勢」でなんぼでも変わってくるのだ。そのためには各自が考える「アコースティック・サウンドってなによ?」
をきちんと定義していかないとプレイリストがThe First TakeとMTV Unpluggedの音源と長渕コブクロゆずで埋まるという地獄の2時間になる可能性が発生し、

私は驚愕しつつ「The First TakeとMTV Unpluggedの音源と長渕コブクロゆず禁止でオナシャス」と申し出たのだが、MTV Unpluggedおじさんたちは「じゃあどういう定義で選べばいいんだろうね」と定義するところからやり直しを始めた。それをやらないと、リアルタイムで再生しつつ、ポスト(Blueskyではツイートのことをポストと呼ぶ)で解説を入れるにしても「これってアコースティックなんですか?審議」みたいなことが頻発しかねないし。

エレキ・ベース、エレキ・ギターが入ってるのは問題じゃない。例えばウィーザーは、レディオヘッドの名盤OK ComputerへのアンサーとしてOK Humanという、アコースティカルな楽器とサウンドにこだわるアルバムを出している。


弦楽器なども入っているが、アコースティック・ギターをフィーチャーしているわけではなく、アンプラグドでもない。エレキ・ギターはがっつりフィーチャーされている。だけど、コンセプトはアコースティック・サウンドである。

という例を出したら「それ一般人には難しいっす」と言われてしまったので、各自が考えるアコースティック・サウンドでなおかつThe First TakeとMTV Unpluggedの音源と長渕コブクロゆず禁止くらいでいいんじゃねーの?と規制を緩める方向で提案してみた。まあ探せばライブ音源でギター弾き語りとかも、スリップノットのコリー・テイラーだって別プロジェクトのストーン・サワーのライブのアンコールの時にやっていたので、

グランジとかメタルとか聴いてるような人でも手持ちの音源確認しなおせばなんかしらあるだろうし、中高年世代はExtremeのアルバムでも引っ張ってくるんだろう知らんけどくらいに予測している。こういうのあるし。

私は、というと当初考えていたのが最近のTikTokerを中心としたDIYシンガー・ソングライターとかである。DIYのシンガー・ソングライターの多くは、TikTokで画面に向かって曲作りのプロセスを小出しに見せながら曲を作って、それをレコーディングしリリースするというスタイルが多いため、自然とアコースティック・ギターを弾きながら曲を作っていくからアコースティック・ギターをフィーチャーした曲が多い。だけどその分、全部自分で作るから、他のパートはDTMで打ち込みだし、最近のトレンドではアコースティックサウンドでも必ず、エレクトロニカ的な電子音リフが入れ込まれてる。それが全く入ってない曲を探すのが難しい。だってそれがトレンドなんだもの。

トレンドは刻々と変化するし、テクノロジーも刻々と進化する。音楽とテクノロジーは切っても切れない関係であり、テクノロジーの進化によってパラダイム・シフトがガンガン起こる。それが音楽の世界なので、「アコースティック・サウンド」の概念を共有するというのはとても難しいな、というのが本日の学びでした。

まあTikTokerじゃなくても元々アコースティック楽器とサウンドに拘ってるバンドも、私は聴いているのでネタに困ることは全然ないのだが。Blueskyのアカウントをお持ちの方は19boxのアカウントを覗いてみてください。参加自由なので。持ってない方はSpotifyで19boxのプレイリストを覗いてみてください。誰がどの曲を入れた、とかはSpotifyだと確認できないですが。


今日の1曲

これはアコースティック・サウンドに該当するか否か


今日のパンが食べられます。