【感想】『ちびちゃんはとってもかわいいんだよ!』を読破

 とても面白かったです。子育ての苦しさやそれを中心にした周りの他者との関係性は現実世界にも通じるものがあると思います。

 おねえさんの監督(という名の放置)の下、れいむとありすが自分の子供を甘やかしてしまい、制御不能になりながらも愛情を注ぐシーンはイラつくというよりも悲しく思えました。

 一通り読んでみて思うのは、やはりおねえさんの飼い方に最初から問題があったということです。おねえさんはれいむにそれなりに愛情を注いでいたのでしょう、しかしその愛情はれいむの心を無視していた独りよがりなものだったのです。

 れいむがおねえさんがほとんど構ってくれない日々の生活に毎晩枕を濡らしていたことを知らないはずがないのですから。また、おねえさんはれいむに母親としての問題があることを知りつつも、放任していました。飼い主なら適切な指導をするべきですよね。結局はおねえさんは「れいむのことだからどうせ早々に諦めて私のいうことを聞くだろう」という毒親チックな考えで、事態を最悪の方向に導いてしまったのです。

 公園のむれ編でのれいむとありすの狂気とも言える愛情は、間接的にですがおねえさんによって作られたものなのです。結果的に追い込むだけ追い込んで、実質何も手を貸さないおねえさんがれいむとありすを狂気に追いやってしまったといえます。

 おねえさんは近年話題の「毒親」そのものなのです。作者がこのことを意図して描いたかは分かりませんが、この構図は実に悲しくもあり、滑稽でもあり、作品の良い隠し味となっています。

 さて虐待パートですが、れいむとありすのこれまでの教育の賜物と言える結果がこの哀れなナマモノたちに降りかかることになります。スカッとジャパンなら“スカッと”のシーンではありますが、上記の前提をみると不思議と悲しいシーンに思えます。

 最後にれいむとありすたちがおねえさんの前に現れて、自分たちの子供を教育(とは名ばかりの虐待)を施しますが、これはこのれいむとありす、そして作者による、毒親おねえさんへの復讐と見ることができます。

 ただのスカッとジャパンとは本質的に異なる、ブルージーな話のように思います。イギリスの小説みたいだよね。

 

 

 

この記事が参加している募集

#読書感想文

191,896件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?