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博士取得後の海外での研究(国際共同研究強化)

(2023年9月5日修正:DCに関して,その身分を持って応募資格を有しています。ご指摘いただいたAaさん,誠にありがとうございました。誤った情報を記載し,申し訳ありませんでした。)https://www.jsps.go.jp/file/storage/kaken_3501_g703/r5kyoka_kouboyoryo.pdf

先日の発表の際,海外での滞在に関して尋ねられ,とっさのことでうまく答えられなかったので,制度の紹介も含めて,動機や行動を書いておこうと思いました。
ただ,長くなりそうだったので,今回は制度の紹介だけになりそうです。


国際共同研究強化(A)

上記の制度を利用し,海外での研究を行っています。正直,応募前までその存在を知りませんでした。下記の通り,少し特殊な位置づけにある研究費です。

以下,2023年度の公募ページからの引用です。応募を検討される際には,必ず当該年度の最新の情報を確認してください。例えば,微細ですが,名称そのものが変わっていたりします(2023年度から国際共同研究強化(A)の(A)が削除)。

趣旨:「科研費採択者が現在実施している研究計画について、国際共同研究を行うことでその研究計画を格段に発展」させる,「国際的に活躍できる、独立した研究者の養成にも資する」「留学等単なる海外派遣を推進するも のではありません。」(実際に太字で強調されている)

資格:「「基盤研究(海外学術調査を除く)」、「若手研究」又は「特別研究員奨励費」に採択されて」いる研究代表者,45歳以下

応募総額:「1,200 万円以下(1,200 万円の範囲内で「渡航費・滞在費」「研究費」「代替要員確保のための経費」の各経費を計上することができます。)」

渡航期間・研究機関:「6か月以上とし、6か月から1年を原則」
「渡航先や所属機関との調整・準備を終了し、令和7(2025)年3月31日までに交付申請を行い、交付申請を行った年度の翌年度中までに渡航を開始」

https://www.jsps.go.jp/file/storage/kaken_3501_g703/r5kyoka_kouboyoryo.pdf

科学研究費助成事業(科研費)の中だと,若手研究者海外挑戦プログラム海外特別研究員(海外学振)特別研究員-CPDなどが代表的な選択肢だと思います。この中で,国際共同研究強化を選択した理由,メリット,デメリットは以下のとおりです。



これはあくまで個人の感覚によるもので,かつ徹底的な比較検討はしていない,相対的な評価だけではないことはご了承ください。

メリット

- 博士取得後に応募可能
- 職を維持したまま課題の遂行が可能
- 採用から渡航までの猶予が長い

博士取得後に応募可能/職を維持したまま課題の遂行が可能

私が海外での研究を志向したのが博士取得後であり,若手研究者海外挑戦プログラム等の博士課程学生を対象とした助成には応募できませんでした。
それに対して,国際共同研究強化はそもそも大学院生は応募不可能*,研究課題を持っている研究者が対象であり,さらに代替要員の経費も計上することができます。大学院生,博士取得直後に比べると,徐々に海外で滞在しながら研究をできる機会は限定されていきますが,この条件のお陰で職場や大学からの許可が得やすいです。

*DCも応募可能ですが,「大学院生等の学生ではないこと」とも記載されています。ややこしいですが,「大学教員や企業等の研究者など)で、学生の身分も有する場合」は応募可のようです。また,その上でも研究者番号の取得等にも障害があると思うので,要確認してください。(本記事の冒頭およびいただいたコメントを参照してください)

また,海外学振とは異なり,日本での職を維持したまま滞在ができます(あくまで留学ではなく共同研究のため)。そのため,一応帰国後に職場に復帰でき,海外からの就職活動が絶対ではないのもメリットだと思います(私の場合は職場で色々あったのでどうなっているか分かりませんが)。

採用から渡航までの猶予が長い

採用決定が応募した年度末で,「渡航先や所属機関との調整・準備を終了し,翌年度末までに交付申請を行い,交付申請を行った年度の翌年度中までに渡航を開始する」ことが条件のため,渡航までに最長1年以上の猶予がある点も個人的にはポイントでした。
個人的な問題ですが,この申請中に子どもが生まれ,また海外長期滞在が初めてだったため,身辺の整理や家族も含めた渡航の準備を考えると,可能な限り渡航までの期間が長いほうがありがたかったです。
個人的な経験や周りの話を聞いていると,特に以下の点に時間がかかったり,長期的な調整が必要で,準備期間が半年程度だと,私の場合は正直厳しかったなと思います。

  • English proficiency証明のためのテストの機会が限られている

    • DS2019の取得にはIELTSやTOEFLの一定以上のスコアが必要なのですが*,受験には地域格差を感じました。子どもも生まれたばかりで遠征も厳しかったです。コロナのお陰と言っては何ですが,TOEFLにHome editionが導入されていて,正直助かりました。ただ,Home editionを認定しているかどうかは大学によってばらつきがあるようです。

  • VISA取得のための受入校からのDS2019発行が非常に時間がかかる(場合がある)

    • 私の受入校(University of Denver)は1週間くらいで出してくれましたが,知り合いは半年くらい音信不通になっていました。

  • 子どものワクチン接種スケジュールの調整

*必要となるスコアや受け入れているテストは大学・学部によります。また,テストではなく「受入予定教員が面接を行い,英語力を保証する」という方法もあります。

デメリット

- 滞在期間が比較的短い
- 申請時からの状況の変化が大きい可能性がある
- 就職活動を行いづらい
- 同行家族への援助はない

滞在期間が比較的短い

このプログラムの場合,半年から1年以内(延長は可能,ただ追加の滞在費はない)なので,海外学振やCPDより短い滞在となり,本腰を入れて新たな実験を計画・実施するのは難しいと思います。
私の場合は,共同研究者のコホートに参画しながら,一部の解析を新たに導入しているという感じです。

申請時からの状況の変化が大きい可能性がある

また,メリットにも書いた渡航開始までの猶予の長さですが,私が申請したのが2021年で,研究経費(現地でのサンプル解析費用)を当時のレートで計算して計上しました。しかし,2023年現在円安が急激に進行しており,当初予定していた解析がストップしています。

就職活動を行いづらい

他の課題ではそれを持ちながら機関を移動することも普通だと思いますが,この課題の場合日本の機関に所属しながら海外での滞在を行う必要があるため,異動直後にそういった動きをするわけにもいかず,すぐに就職活動の時期を見計らう必要がありました。上記の渡航開始までの猶予の長さも,すぐに就職活動を行いたい身からしたら動きづらい要因になりました。

同行家族への援助はない

他のプログラムも同じようなものだと思いますが,家族に帯同してもらう際,その援助は含まれていません。日々の生活費に加えて,航空券代,保険料,家族で住める家の家賃など,自腹となる部分が多く,特に近年のインフレが進むアメリカで,かつ円安状況では,正直非常に厳しいです。

まとめ

留学ではなく,基課題を発展させるための共同研究という名目のため,一般的な留学の選択肢とは異なるかも知れません。また,科研費以外の国内の制度,民間の助成,海外の助成,海外での採用等を含めると,選択肢はかなり多くなると思います。その中で,職場や私生活との折り合いのつけやすさの点から,メリットの多い制度であると思います。まだ折返しにも到達しておらず,振り替えれるほどの経験もありませんが,何かしらの参考になれば幸いです。

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