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第46回「(株)しもズブ誕生!彼女たち若きチャレンジャーは、下田ドリームをつかめるか」

 昨年、下田にLiving anywhere commons(LAC)という宿泊施設ができた。そこに、若きフリーランスの人たちが足繁く通い、中には数週間から数カ月に渡って、滞在している人達がいる。

 ネット時代を反映し、ノートパソコンとスマホを駆使して、仕事や遊びをする彼らにとって、地方の町、下田にいたところで仕事は動くのだ。コロナも手伝って、オンラインを使うのが当たり前になり、下田にいても何ら障害がなくなっているようである。

 そこで、ついズルズルと、下田で働きながら、遊びながら暮らしているうち、LACや下田市などがイベントを立ち上げたり、ワークショップや勉強会が度々催されている。その中で、自然と下田の人たちとも接する機会が与えられ、仲良くなって、さらにズルズル居続けてしまうのだった。

 僕も、彼らと知り合って、いつの間にか1年が経っている。中には、うちのNPO事務所を訪れてくれる人たちもいて、いろいろと話をした。

「下田って、いいところですよね。のんびりしていて」

「なんか、受け入れてもらっている感じがうれしいですね」

「日本の地方は、課題先進地域です。下田も課題がいっぱいありそうで、それをみんなで知恵を絞って、解決していくのって、とても楽しいそうですよね」 

 あるワークショップで、下田は発信力が足りないと指摘されていた。当然なのだが、解決策が面白かった。

「毎朝、通勤時間帯に、家から職場にすぐついちゃった話とか、渋滞ゼロの話とか、下田の快適通勤生活話をツイートで毎日流すんです。すると、満員電車に乗っている都心のサラリーマンが、満員電車に揺られているのが馬鹿らしくなってきちゃう。それでつい、下田に行きたくなっちゃう作戦です」

 なかなか面白い。

「あと、こういうのはどうでしょう? 下田は人口減と過疎化で悩んでいる。よその地域から人を呼び込まなければ未来は作れない。そこで、市長が毎日ツイートするんです。下田を助けてほしいと、外部に向かって、ぼやくんです。こんなことをやったが、うまくいかない。こんなことでもだめだった。みんな、助けてくれと。助けてくれ下田大作戦です」

 この大作戦には僕は唸った。

 そして市役所の担当のHさんと「助けてくれ下田大作戦」に乗ることにした。僕はメールで、Hさんは直談判で直接市長に提言したが、残念ながら実現しなかった。

 しかし、実現する、しないはともかく、こういう提案が表沙汰になり、現実とぶつかったことが面白かった。

 課題満載の現実に立ち向かうには、課題を明確にし、楽しくチャレンジしていく。一度だめでも、二度、三度とぶつかっていく。するといつしか現実のほうが、変容していることもあるのだ。

 僕は失敗続きの作家人生で、不断のチャレンジャー精神だけは学んだ。

 そして、LACに集まって、ワイワイやっている人達を見ていると、かつて僕が、海外の安宿で、旅行者たちと集まって馬鹿話に興じていた昔を思い出すのだ。実に楽しく、尊い時間であった。

 そんな仲間の輪の名から、雑誌「旅行人」が生まれ、一斉を風靡し、漫画家のグレゴリ青山、エッセイストの宮田珠己、今は大学で教鞭をとる作家の田中真知、作家岡崎大五も誕生した。

 だからLACに集まる彼らも、旅行人と同じように、遊びの中から何かが生まれる予感がしてならないのだ。

 今週そんなLACに集う人の中から、藤井瑛里奈さん(24)と角田たかし君(29)が、新しく会社を興した。設立パーティーの写真が上記のものである。

「会社名は(株)しもズブです! みなさん、どんな意味が込められているか、わかりますか?」

 瑛里奈さんが質問した。その背後では、大きなモニターに、オンラインで数名の参加者たちがいる。

「下田にズブっとハマった!」

 下田の先人、Uターン組の電気屋の森さんがズバリと言った。

「近い、けど惜しい!」

 この社名を考えたのが、取締役の角田くんで、社長の瑛里奈さんが承認したということである。

「わかった! 下田にズブズブにはまった!」

 誰かが言った。

 ご明快である。

 二人は、下田にズルズルい続けるうち、ズブズブにハマってしまったのだ。

「しもズブをさらに増やそう、と考えています。この町には余白が多い。だからきっと何かできるはずだと確信したのです。しもズブが増えれば、この町ももっと良くなる。楽しくなる」

「都会にいて、やりたいことを実現したい人たちを呼んできて、この町の足りない力、技術力だったり、人材だったりを、マッチングさせるんです。よろずやみたいなものかな?」

 瑛里奈さんに続いて、角田くんが説明した。

 手探りながら、明るく未来を作り出そうという二人の姿は頼もしい。

 翌々日、このパーティーでお会いしたEさんが事務所に来た。

「下田には、WIFIができて、朝食が食べれるところがないんです。だから友人とやってみようかと思うんですけど」

 この1年、下田は水面下でめざましく動き始めている。

 彼女たちの活動を、どう育てられるか。

 それがこの町の大人たちの責務だ。

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