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第51回「山崎まゆみさんのこと~ケニアのサファリから来た美人ライター」

 12月5日(土)、僕の住む伊豆下田で、温泉エッセイスト山崎まゆみさんの講演会が開催される。

https://www.facebook.com/events/1067582470364597

 この講演会には、下田の元湯である蓮台寺温泉を舞台に、いまではすっかり寂れかかった蓮台寺温泉を、今後どう活用しようかというワークショップも含まれている。午前中には、地元の杉坂太郎氏によるまち歩きツアーもあり、弁当付き、温泉入浴料込みで1,000円という破格の企画だ。

 財団法人地方活性化センターの助成を得られたおかげで、こうした格安のイベントが開けることになった。

 下田が観光地であり、温泉地でもあるので、以前からずっと山崎さんの話を、下田の人にも是非とも聞いてもらいたかったのである。役に立つことうけあいである。

 僕が山崎さんと出会ったのは、もう二十年以上も前である。

 当時、僕は東京は品川の旗の台に住んでいた。

 よく一緒に飲んでいたのが富永省三さんで、彼は90年代に、まだガイドブックが未整備だった中近東などで、旅をしながら旅行者用の地図を描いていた。その地図は、後に「スーパーマップ」として、旅行雑誌「旅行人」に掲載されたのだが、おかげで、旅行人の編集長である蔵前さんに、富永さんを紹介した僕は、さんざん恨み言を言われた。

「大五さんのせいで、海外旅行出発がすっかりのびのびになっちゃったじゃないですか。まさか、日本で世界の地図を書く羽目になろうとは。参りましたよ」

 そんなときでも、富永さんは、たまには海外に行っており、ケニアのサファリツアーで、ものすごい美人のライターに出会ったと電話してきた。

「でね、大五さんのことを彼女に話したら、ぜひ会いたいと言うんです。アパートに連れってってもいいでよね。ビールでも飲みましょう」

 ケニアのサファリツアーに女一人旅で参加するような美人ライターとは?

 なんとなく僕にはイメージが付き兼ねた。

 ただ、富永さんの人物評は、地図と同じく正確であるともわかっている。

 約束の時間に合わせて、坂道を下って、駅に向かった。

 すると、富永さんがちょうど踏切を渡って、こちらに向かって歩いてきている。隣には、真っ白なワンピースを着た女性……。

 まさか……。

 僕は目を疑った。

 海外旅行好きといえば、しかも女一人旅といえば、ざっくばらんで、パンツ姿の人が主流だ。

 それをハイヒールに、真っ白なワンピース。

 僕はつい、どうやって口説こうか考えた。

 しかし脳裏をかすめたのは、付き合い始めたばかりのK子の顔である。

 ああ、人生とはこんなものである。彼女が見つからないときは、人混みの中にいても砂漠にいるほどに出会いがないが、いざ彼女が見つかると、ひと目で気に入る人に出会うのだ。

「はじめまして、山崎です!」

 線路を渡ったところで、彼女は破顔一笑、僕にあいさつをした。

 僕は、作家デビューして、そこそこ売れていたので、旅仲間内では、顔が知られていたのだ。

 この日、僕は、肉が食えない富永さんのために、魚と野菜を中心にした料理をこさえていた。それをおんぼろアパートに行って、三人で箸を突きつつ、ビールを飲んだ。

「私、モデライターをやっているんです。タオル一枚体に巻いて、混浴レポートをするんです。モデル兼ライターですね」

 彼女にそんなことをあからさまに言われると、変なことを想像して、こちらがくらっと来てしまう。

 連載している雑誌はアウトドアマガジンの「Be-Pal」だった。

「プークプクって?」

 エッセイの中の文章を表記を指摘して僕はたずねた。

「ブクブクじゃなくって?」

「いやです。ブクブクじゃだめです。プークプクです。流行るかな?」

 その後、プークプクは、たいして流行りもしなかったが、山崎さんはいまでもプークプクと言い続けている。

「あの人は根性があるからなあ」

 後年、山崎さんと出会った旅行人編集長蔵前仁一さんの山崎さん評である。

「岡崎さんは、男だからいいですよね。安いアパートに暮らせて。私なんて、女だから、そこそこのお値段の、管理のしっかりしたマンションに暮らさないと、危ないんです」

 まだ駆け出しのモデライターだったが、メディアにタオル姿でさらしているので、ストーカーまがいの悩みはつきない。

「かといって、大して稼げているわけでもないですから、食事はデパートの試食で済ませることもあるんです」

 それだけ、当時から着道楽でもあった。

 僕はこれまで、旅行系女性ライターの中で、彼女ほどの着道楽を見たことがない。中でも温泉を取材するだけあって、和服姿は有名である。

 それから数年後、彼女はついに念願の本を出版し、好著「白菊」(小学館)では、小学館ノンフィクション大賞にノミネートされている。

 以降も、年々書籍を出版、NHKラジオの「ラシオ深夜便」ではすっかりお馴染みとなり、Yokoso Japan大使も務め、日本の観光、温泉地に造詣も深い。跡見女子大で講師も務めるなど、大出世した友人である。

 そんな彼女を下田に呼べた。

 会うのは2年ぶりだが、今からとても楽しみである。

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