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第41回「Izukoはいずこに?~MaaSとは?~テクノロジーとは思いやりである」

 先週の会合で「MaaS戦記」講談社刊(写真)の著者、森田創氏と初めてお会いした。すでにこの本は読んでおり、9月30日に行われるオンライン講演会「未来の街を創る 『MaaS』とは何かを語る会」にも申し込んでいる。

 著書に顔写真はあるので、わかってもよさそうなものなのに、会議で森田さんが発言するまで、斜め前に座っていながら、ご本人だとは気づかなかった。というのも、写真ではベビーフェイスで、ラフな服装だったからである。

 ご本人は、たしかにその顔なのだが、十分大人で、背が高く、ビジネスマンらしくシャツにスラックス姿だ。発言も堂々としたもので、さすがに東急電鉄で、伊豆の未来のまちづくりを任されただけのことはある。有能さと人柄の良さを兼ね備えた人物だと察した。

 それ以前に、彼は5年前に初の著作でミズノスポーツライター最優秀賞を受賞している。この賞は、旅行作家の下川裕治さんも、八重山高校野球部のことを書いて受賞しており、下川さんとは一緒に仕事もしたし、新宿二丁目で飲んだりした仲だったので、勝手に縁を感じて、僕は親しみを覚えていたのだ。

 森田さんが、東急の野本社長(現会長)からMaaSを立ち上げるよう直接言い渡されたのは、2018年春のことである。MaaSとは、「モビリティ・アズ・ア・サービス」のことで、スマホで公共交通機関等が、客の要望に応じて乗りこなせるようになるサービスのことだ。Suikaなど既存のカード・サービスの一歩も二歩も先をゆくサービスである。

 働き方が多様化する中、満員の通勤電車で儲ける鉄道会社のビジネスモデルは、近い将来変わらざるを得ない。同時に高齢化が進む社会では、交通困難、買物困難地域が生まれ、新しい公共交通のあり方が模索されている。

 そのためには、MaaSを定着させることで、より利用者の都合に応じたサービスが提供できれば、新たなビジネス展開も見えてくるはずである。これは鉄道会社にとって、10年、20年先を見据えたプロジェクトであり、その実験場として選ばれたのが、伊豆半島だった。

 伊豆は伊豆急の開通で、一気に観光地として花開いた。その花は今や枯れかけており、しかし東急が開発した伊豆を、今一度蘇らせる起爆剤として投入されたのが、観光型MaaSなのである。この指揮を執っているのが森田さんだ。

 MaaSを展開するには、スマホ用のアプリを開発しなければならない。先進のフィンランドやドイツで学んで、東急で生まれたのが「Izuko」というアプリだ。このアプリ(WEBプラウザに切り替わった)に接続すれば、列車のチケットや観光施設の入場料が決済でき、お得なサービス商品(周遊チケットなど)も買えるようになっている。アプリがガイドブックとチケット売り場を兼ね備えているわけである。またオンデマンド交通とも連携し、下田市内の特定の場所に限っては、利用者の都合で事前に配車予約できるようになる。

 この実証実験を、2019年4月~6月までと12月~3月までの計190日間行った。結果、チケットの販売枚数は6,166枚と、国内では圧倒的な利用規模になったという。

 しかしそれでも、地元での認知度はいたって低かった。観光型だけあって、観光客にはアピールできたが、地元民には何のことだかわからない。

 たしかに諸外国で、スマホでチケット購入などが済み、ロンドンなど地下鉄もロンドンバスも、スマホで事足りる。中国でもそんなキャッシュレス社会が進む。その日本版だとはわかっていても、地元での便利度はないに等しい。

 そして、多くの人の興味も惹かないままだった。

 唯一僕が興味を惹かれたのが、同時期に行われた、静岡県と東急などによる無人運転バスの実証実験である。これは静岡県の作戦で、つまり、MaaSと無人運転バスを、同時期に市民に認知させることで、公共交通の利用を促進し、MaaSと組み合わせれば、買物困難地域の人も、自分の都合で買物などができるようになる。救急医療にも使える、こんなイメージを植え付けたかったが、全く浸透しなかった。

 スマホが使えて、Izukoが使えないと、今の所このサービスは使えないが、そのうち、オンデマンド交通は、テレビのリモコンでもできるようになるらしい。Izukoがテレビのリモコンでも使えれば、お年寄りも使いやすくなり、オンデマンド交通が、一気に進むかもしれない。

 今年も11月16日から3月31日まで観光型MaaSの実証実験が始まる。森田さんの頭の中には、観光型のみでは留まらない未来予想図が描かれている。

 それをぜひとも、伊豆の住民には、知らせてほしい。

 テクノロジーとは、人に対する思いやりではないか。

 MaaSとは、きっと困った人たちの役に立つものなのだ。

 僕には、地元のお年寄りと旅行者が、和気あいあいと、同じ無人運転バスに乗り合わせる光景が頭に浮かぶ。

 何年後にこの夢が実現するのだろうか。

 森田さんたちの挑戦は、まだ始まったばかりだ。



 

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