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ファンタジーRPGについて小考 その4 神々

なんとなく始めたこの企画、びっくりするぐらい好評なので第4回です。今回は少し危険球を投げます。私は子供の頃、戦争と宗教と政治の話は、なんとなしに、タブーなものだと感じていました。そのせいでむしろ何故ダメなのか興味が湧き、結果的に大学で宗教学をやることにしましたし、歴史好きになりました。ライターにならなかったら、なんの役に立っていたんでしょうね。というわけで、今回はファンタジー世界の宗教の話をしましょう。

さて、大昔。先史時代。まだ人類が文字を使っていなかった頃のこと。古代人は現代とは比べ物にならないほど不便な暮らしをしていました。ちょっとした怪我からの感染症で死んだりする、危険な毎日です。現代人は長い歳月をかけて蓄積された先人の知恵を継承することで、現代科学という叡智の下に暮らしていますが、そうした知識を持たない古代人は頭が悪かったと言えるでしょうか。おそらくは違うでしょう。現代人と同じように思考し、答えを導き出し、工夫して生きていました。大きな傷を負い、出血多量で死ぬ時は、血が失われたことが原因で死という結果に至ったと観察によりわかります。ですが、小さな傷が化膿し、細菌による感染症で死んだ場合、原因と結果の間をどう説明すればいいでしょうか。答えを考えながら読み進めてください。

まずは神はどうやって創られたかという、信仰にあつい人が聞いたらイラッとしそうな話から始めます。我々現代人は火が燃えるのは炭素などに酸素が結合し、エネルギーが放出されている現象だと知っています。しかし、古代人にはまだ原子の知識はありません。ですが、馬鹿ではないので因果関係を観察し、どうすれば火が起こるか、火にはどのような性質があるか、燃えた後の物体はどうなるか、そこはしっかり理解していました。燃えるものと燃えないものがあることや、火に触れればどうなるかといった経験から、こんな結論を出します。人よりも力あるなんらかの存在がいて、人には理解できない方法で自然現象を起こしているのだと。なので例えば、火が燃えるのは、燃えるものに火の精霊が働きかけ、熱と光を発生させる現象だと考えたりします。燃えるもの(炭素など)に火の精霊が働きかけ(酸素が結合し)、熱と光を発生させる(エネルギーが放出している)現象。現代科学による説明とあまり変わりありませんね。

現代科学との一番の違いとして火の精霊というものが登場しました。火に水を掛けると消えてしまいますが、水の精霊が火の精霊の働きを邪魔したのかもしれません。そんな水も、冬になると寒くなって氷となります。もしかすると冬の精霊が寒さをもたらし、水の精霊が動けなくなってしまうのかもしれません。冬が終わると暖かくなるのは春の精霊が冬の精霊を追い出したのかもしれません。春の精霊は植物が育つのを助け、冬の精霊が帰ってくると植物は殺されてしまいます。春の精霊と冬の精霊は仲が悪そうですね。毎年毎年喧嘩しているようです。というように、自然現象の因果を説明していくほどに、世界は様々な精霊の働きによって変化していることがわかります。そして、どうやら精霊には人間のように感情や人間関係(精霊関係?)があるようです。精霊に好き嫌いがあるのなら、お気に入りの品をプレゼントしたらお願いを聞いてくれるかもしれません。雨が降らず水が不足して困る時は精霊に贈り物をしてみましょう。10回中3回、雨が降ったとします。どうして7回はお願いを聞いてくれなかったのでしょうか。人間だっていつも人の頼みを聞くわけではありません。プレゼントが気に入らなかったり、頼み方が気に食わなかったり、忙しくてそれどころではなかったり。人間は精霊と違って雨を降らせることはできません。雨が降らなければ人間は生きていけません。人間が生きるか死ぬかは精霊の気持ち次第です。力関係として、精霊は人間の上位存在ということになります。対等ではありません。

精霊は人のように好き嫌いがあり、感情があり、精霊同士の関係も人と同様に力関係や相性があるようだと、自然を観察していればわかります。恋仲だったり敵対者だったり親子だったりしそうな精霊が見受けられます。きっと人間と同じように愛し合ったり争ったりするのでしょう。古代人はそうした場面を想像しました。自分たち人間に似た姿の方がイメージしやすいと思ったら人型に、恐ろしい存在だと思ったら相応しい姿に、空を舞うなら鳥のような翼を、思い描きます。世界の仕組みを語る時の描写や、時には絵を描いて、精霊のビジュアルを設定します。名前や性格や他の精霊との関係性も設定します。こうして、なんだかわからない自然のはたらきは、神というキャラクターになりました。

神は人間の上位存在です。権威があります。自分たちの一族が神から特別愛されていれば、他の一族より権威があることになります。その証拠に争いが起きた時、神は自分たちの一族を勝たせてくれました。自分たちの一族に加護を与えてくれる神にはお礼をしなくてはいけませんね。神に嫌われたら、もう勝利を与えてはくれないのですから。ある日、よその部族といざこざが起きました。よその部族なので自分たちとは違う神の寵愛を受けています。争いの結果、自分たちの部族が勝利しました。我らの神は彼らの神より格上だったのでしょう。より偉い、父や兄だったに違いありません。争いはその後も起こり、神々の関係も複雑になっていきます。多くの一族が合流し、大きな部族になれば、どの一族が偉いかで揉めます。神が自分の一族を愛してくれる理由は権威を主張するために重要な事柄です。色々な理由が考えられますが、実は自分の一族が神の子孫だったとするなら、無条件で愛してもらえるかもしれません。

神に由来する権威によって、支配者は統治を行います。このように王を戴く国が他にもあったなら、自国の神々と他国の神々の関係が考えられます。友好的なのか、敵対的なのか。不倶戴天の敵なら、あの国の連中は邪悪な神の力を借りていると罵ったりするでしょう。具体例を挙げるなら、ペルシアの神々とインドの神々は互いを悪魔としていました。ペルシアの悪魔ダエーワはインドの神々ディーヴァですし、インドの悪魔アスラはペルシアの主神アフラ・マズダです。そんなわけで国の興亡は神々の争いと言っても過言ではありませんでした。ある部族は敗北を重ねて支配され続けましたが、自分たちの神こそが一番偉いのだと信じることで部族がバラバラになるのを防ぎました。世界は悪魔によって蝕まれている、自分たち以外が信仰しているのは神のふりをした悪魔だ。そんな偏屈な思考も生まれたりします。さて、現実世界の神がどうやって創られたか、自分なりのイメージはできたでしょうか。前置きが長くなりましたが、本題であるファンタジーの神々の話をしましょう。

そのぐらい知ってると言われるかもしれませんが、ざっくりと言えば宗教には一神教と多神教があります。つまり、すべてを創り統括する唯一の神が存在するという立場の一神教と、様々な事柄について司る多数の神々の存在する多神教です。他にもみたいな話は置いておいて、ファンタジー世界では多神教であることが多いです。これはおそらく、一神教文化圏の欧米人の思い描く異世界が、ギリシア・ローマ神話や北欧神話の世界観に由来する部分が大きいためだと思います。キリスト教に根差したファンタジーもあるのですが、全知全能にして善なる唯一絶対神の庇護の下、悪が懲らされる宗教説話の域を出ることが難しそうというのが感想です。作者の信仰心が薄くとも、肌感覚として、生まれ育った土地の常識として一神教は染み付いており、そこから外れた世界を描くには古典に頼る必要があったことは想像に難くありません。

話は脱線しますが、近代の創作であるクトゥルフ神話が一神教の裏返しであることは容易に想像できます。唯一の神は人を見守り、善を成すことを望んでいるという世界観の中で生きている人々にとって、そんな都合の良い神は存在せず、本当の神々は人間など存在の認識すらしてすらおらず、容易く踏みにじるという“真実”は発狂するほどの絶望をもたらすのです。頻出する冒涜的という言葉は、神を貶めるという意味なので、全知全能にして善なる唯一絶対神への信仰を揺らがせるということなのでしょう。逆説的に、娯楽である普通のファンタジーはあくまで荒唐無稽な夢物語でなくてはなりません。そこで都合が良いのが欧米人にとってギリシア・ローマ神話や北欧神話などのキリスト教以前の物語というわけです。

もちろんこれは西洋ファンタジーの話です。多神教文化圏の我々とは事情が異なる話です。『魔界塔士Sa・Ga』や『女神転生』シリーズで神を殺せるのは彼我の肌感覚の違いでしょうか。もちろん多神教だからといって気軽に神を殺せるわけではありません。映画『もののけ姫』を観ればイメージしやすいでしょう。そもそも神という概念の認識が根本から違うのですが、その話を始めると趣旨から外れるので、おとなしくファンタジーの話に戻ります。

先述のような理由により、ファンタジー世界は多神教であることが多いです。人間臭い神々が、それぞれの都合でそれぞれの欲望を持ち、人間の世界に干渉するから多くの物語が生まれるのです。中でも神同士の確執に由来する事件は少なくありません。ギリシア神話を例に挙げるなら、神々のドラマ、それも色恋沙汰に絡む話が多いのが実際のところです。面白いことにこれは東洋でも同じで、婚姻譚は普遍的な物語です。ですが、ファンタジーでは複雑な色恋沙汰よりも、わかりやすい勧善懲悪が主流です。単純に、敵が存在し、これを倒すという、目的の設定の問題だと思います。ごちゃごちゃと誰が敵で誰が味方なのかわからないドラマ性よりも、あいつを倒せば一件落着とした方が物語をコンパクトにできるのです。なので、主神に反逆する悪神や、そもそも対の存在として在る善悪の二神などが導入されることになります。

余談ですが、キリスト教のヨーロッパでも、実態は天使や聖人を信仰する多神教めいた部分がありました。だからこそ、昔の異教の物語も受容できたのかもしれません。聖母信仰は大地母神信仰の系譜と見ることができます。イベリア半島(スペイン)にイスラム帝国が攻め込んだ時も、アッラーを信仰せよと言われた領主たちが、それはどんな聖人かと尋ねたとかなんとか。

さて、ファンタジーの神々ですが、分かりやすいことが大事です。現実のように地域によって姿が違ったり、習合した神格の側面がいくつもあったりする必要はありません。太陽神は太陽だけ司っていればいいのです。とはいえ、神の名前をずらりと並べられても覚えられないので、複数の権能を掛け持ちすることが多いです。現実のようにごちゃごちゃとしていないというだけで、太陽神なら昼や生命や復活も司ればいいかなという感じで。この辺りは例えばリストラの進んだギリシア神話のようにオリュンポス十二神だけがいるというように単純化すると分かりやすいです。あとは神話で世界の成り立ちなどを説明すれば、世界観が組み上がります。あれ、なんでファンタジー世界を創作する話をしてるんだろう。この記事は創作論じゃありませんでした、軌道修正します。と思ったのですが、そろそろ良い文字数です。恒例の事典っぽい要素はありませんでしたが、次はその辺多めにしてみて閲覧数に差が出るか確認してみます。読者の皆さんはどういうものを求めているのでしょうか。正直、このシリーズが沢山読まれると思ってなかったので手探りです。

泉井夏風

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