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会話についての会話

Aさん:私は会話が苦手なんですよね。

私:会話ですか?

Aさん:はい。私の会話のイメージは、スポーツのテニスなんです。

私:あー、テニスですか。なんだかわかる気がします。それってもしかして硬式ですか?

Aさん:そうですね、硬式のイメージでした。

私:硬式だと球が速いから。早く打ち返さなきゃって焦りますよね。今は、会話というか人と話すことは好きなんですけど、元々は苦手でした。会話してると、今話してる会話そのものよりも、この会話が途切れたら何話そうって、そういうことばかり考えてしまって。話しているとただただ緊張して、すごく苦手でした。

Aさん:焦る感じ、わかります。私はボールばかり見ちゃうんです。打ち返さないといけないのに、気づいたらボールばかり目で追ってしまって、打ち返すのを忘れちゃうんです。だから無言になっちゃうことが多くて、話してる相手に申し訳ない気持ちになります。

私:ボールばかり見ちゃうんですね。でもそれってすごくいいことのように聞こえますよ。だって相手の話を集中して聞いてるってことですよね。それってすごく素敵だと思うな。きっとAさんのことを理解してる人なら、それは嬉しく思ってたりするんじゃないかな。

Aさん:そう言ってもらえるのは嬉しいな。

私:そうだな。僕がもしAさんとテニスをしていて、Aさんがボールばかり見ちゃうんだとしたら、なんていうか、多分ボールは、コートの隅の雑草が生えてる辺りに転がっていくと思うんです。そしたらその転がっていったボールを一緒にしゃがんで眺めながら話をしたいな。

Aさん:端に転がっていったボールを一緒にしゃがんで見るってなんだかいいですね。

私:でもテニスか、わかるなぁ。相手がボールを打ってきて、よしこっちはやる気満々だ!ってしっかり構えてて、いざ来たボールを打ち返そうとしたら、ラケットのガットがない、なんてこともありますよね。でもガットがないのに、たまにまぐれでラケットの端っこに当たって打ち返せる時もあるんですよね、でもその球はどこかわかんない、相手とは違う方向に飛んでいっちゃったりして。

Aさん:わかります、そういうときよくあります。

私:なんていうか、僕らはルールみたいなものから外れているんですかね。

Aさん:そうかもしれないです。私は本当に会話が下手って思うことが多いので。

私:下手ですかね。少なくても僕はAさんと会話をしていて、楽しいと感じますよ。でもそう感じてしまうのは、社会の中で生活していると、どうしても、「一般的」とか、「普通」とかを意識してしまうし、無意識的に比較してしまうからなんですかね。でもやっぱり僕は、端っこでしゃがんで話をしていたいと思いますよ。ラケットにガットがついてなくて、フルスイングして、空振りしたときも、一緒に笑えたら、それはとても素敵だと思うな。

Aさん:そうですね。私もコードの端っこでしゃがんで、ボールをつつきながら一緒に話をしていたいです。

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