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『スター・ウォーズ 続3部作』の楽しみ方 (序文)

来年は「エピソード7 フォースの覚醒」公開から10年を迎えます。

現在も世界歴代映画興行収入では過去作を越えてランクインしている続3部作シークエル・トリロジーについて、振り返りつつ私の楽しみ方を紹介したいと思います。

前段として、何かと論争の種になってしまっている3作をとりまく状況について、明らかになっている情報に私の個人的な“推測”を交えて紹介します。
「エピソード7・8・9は俺の中では存在しない」という人や「マンダロリアンのクリエイターに作り直させろ」という人にも、まずは冷静に読んでいただけたら嬉しいです。

かくいう私も最初は正直戸惑いがありました。それまで予想していた展開と違うであったり、ディテールが加わる事への抵抗はあるにはありましたが、特に新3部作プリクエル・トリロジーに関しては年を重ねるごとに作品への理解が深まり、アニメやその他のスピンオフで補完されるほどにその価値を感じるようになりましたから、続3部作シークエル・トリロジーも長い年月を掛けて冷静にじっくり見守って行こうというスタンスです。

続3部作シークエル・トリロジーの成績

続3部作シークエル・トリロジーにはサーガ完結篇という立場以上に担わされていた役目があり、それがこの成績だったのだろうと個人的に考えています。北米歴代興行収入に限れば、「フォースの覚醒」は「アベンジャーズ/エンドゲーム」に大差をつけて現在も1位です。


ジョージ・ルーカスは嫌われていた

2005年の「エピソード3 シスの復讐」でサーガの完結を宣言し、2008年からの「スター・ウォーズ」はアニメでの展開がメインとなります。

しかし度重なる映像の改変や新3部作プリクエル・トリロジーに不満を抱くファンによる原作者ジョージ・ルーカスへの猛烈な批判と反発は依然続いていました。

ルーカスを揶揄した映画作品が作られたり、アニメは不人気。
3Dバージョンは順次公開予定だったが不振でお蔵入りに。
「ファンボーイズ」ラストカットの無粋な一言。
「ピープルVSジョージ・ルーカス」における当時の空気感。

残念な事にルーカスと彼のスター・ウォーズはファンに嫌われていました。新3部作プリクエル・トリロジーの評価は低く続くアニメも不人気。ジャー・ジャー・ビンクス役のアーメド・ベストがバッシングや悪評が原因で自殺も考えていたと言う話はとてもショッキングでした。

もちろん若い世代を中心に歓迎しているファンも多くいましたが、いつの世もノイジー・マイノリティの声は大きくて踊らされてしまった人たちもいたのだろうと回想します。
こうした経緯もあってルーカスはスターウォーズを手放し、次世代のクリエイターたちに続編の製作が委ねられることになった、と思っていたのですが実はプロジェクト序盤にルーカスが関与していた事が明らかになっています。


フォースの覚醒前夜

2015年のルーカスの「奴隷業者に(スター・ウォーズ/ルーカスフィルムを)を売ってしまった」発言(下記リンクの動画50:00〜/後に謝罪している)や、2023年のアイガー社長の「ハイペースで作りすぎたのが間違いだった」という話。そして少なくとも2012年にはエピソード7の企画が動き出していてルーカスがクリエイティブ・コンサルタントの役職にあったにも関わらず最終的にほぼ関わり無い事になっていること。
こうした事実からルーカスフィルムが「求められたこと」を推測します。

A. ジョージ・ルーカスをプロダクションから外す
B. ジョージ・ルーカスの続編に関するアイデアを棄却
C. 旧3部作オリジナル・トリロジーの焼き直し(リブート)にする
D. 短期間で複数の周辺作品スピンオフをリリースする

A」と「B」についてはルーカス本人が「(ディズニー側が)ファンのための映画が作りたいと言った」「元々彼らは、私に関わって欲しいとは思っていなかった」「私は去って、彼らに好きな作品を作ってもらうことにした」「私が僅かでも関われば問題が起きることが自分でも分かっていた」とトーク番組で語っています。(下記リンクの動画の46:10〜)
そうなってしまったのは、やはり当時ファンの支持が低い=歓迎されない可能性が高いと思われていたからではないでしょうか。ルーカスの自腹だった新3部作プリクエル・トリロジーとは異なり、製作費を出して回収する側に理があります。

2012年の10月にジョージ・ルーカスがルーカスフィルムをウォルト・ディズニー社に売却するも、ジョージ・ルーカスがクリエイティブ・コンサルタントである事がウォルト・ディズニー・カンパニー プレスリリースで発表されています。

この直後にダグ・チャン(当時は退職していた/現在は副社長)がケネディ社長に接触、監督未決定の状況で企画に参加します。
※メイキング本「アート・オブ・スター・ウォーズ」シリーズによる

12月にはチャンはルーカスフィルムのアーティスト陣と後述のストーリーグループを募り、J・J・エイブラムス(この段階ではまだ監督ではない)とマイケル・アーント(トイ・ストーリー3の脚本家)を加えたチームを編成します。

2013年のヴィラン検討アート。
「アルツマン、1/13」のサインが確認できる。

翌2013年1月9日に最初のミーティングが開催されますが、参加者にジョージ・ルーカスの名前はありません。その場でチャンは有識者を企画会議に招集しヒアリングを行っています。1月13日には後のカイロ・レンにあたるヴィランの検討が開始されていて後述のルーカス案が既に棄却されてしまっていることが解ります。

整理すると2012年中にルーカスがコメントしているような出来事があり、急遽ダグ・チャンがルーカスの不在を補うのに必要なスタッフを集めたのではないでしょうか。

「アート・オブ・スター・ウォーズ」シリーズやエンタメ記事の情報をまとめるとこう

意外とファンに知られていないようなのですが、1月の会議参加者たちは更に構成を変えてルーカスフィルム内で非公式組織「知的財産開発グループ」(通称ブレイン・トラスト)として結成され、以降続3部作シークエル・トリロジープロジェクトの中心付近でアドバイザー的に関与しています。

彼らに頼ったケネディ社長のジャッジも素晴らしい。
来年のセレブレーションジャパンには彼らの来日と登壇も期待される。
ガッカリしたファンも多かった老ルークについて。
(過去のスピンオフ作品では結婚して子供もいた)
R・ジョンソン監督就任前に既に構想があった。
フィローニはマンダロリアンの原案&製作総指揮。

「C」についてはこちらのファンサイト「スター・ウォーズ レンメイ」の記事で詳しく紹介されていますが、当初は復活したダース・モールをメインの悪役とするジョージ・ルーカスの続3部作シークエル・トリロジー構想に基づいて制作が進められていました。

2010年頃からRed Fly Studioで開発が進んでいたゲーム向けのアートとされるイラスト。
2012年の「クローン・ウォーズ」での復活以前から彼の台頭が計画されていた?
ルーカス案は廃案になり、モールの最期は「反乱者たち」で語られる形に。

しかしながらディズニーはこれを棄却します。最終的な内容は、特に「フォースの覚醒」と「最後のジェダイ」はあたかも旧3部作オリジナル・トリロジー焼き直しのようなスタイルが取られます。

大部分が新要素ながらぱっと見で誰もが「スター・ウォーズ」と認識できるキービジュアル

ルーカスの構想とは相反する部分や世間の反応を受けての改変と思しき箇所、キャストの急遽といった事情もあってトリロジー全体に多少なり歪みが生じているのも事実だと思いますが、マスマーケティング的には成功であり結果として3つの映画は抜群の興行収入記録を出しました。

この大成功は打ち切りだった「クローン・ウォーズ」の完結や新たな(本来ルーカスが望んだ「家族をテーマとする」「子供に向けた内容」に重きが置かれている)映像作品群リリースに還元されているように思えます。

興収の結果次第では悲惨な事になっていたかもしれませんが、幸い遺産は意志を継ぐスタッフらによってしっかり守られています。

ネットミームになっている「どういうわけか、パルパティーンが復活した」
(字幕と吹替では「パルパティーンは生きている」)
その「わけ」は主にアニメとドラマで明らかになりつつある。
かつてのスピンオフではパルパティーンはクローン技術で復活。
昨今この設定が形を変えてサルベージされているように見える。

そしてこれもあくまで推測ですが、アイガー社長が明かした「D」の要求を逆手に取ってルーカスフィルムが行ってきたのが「複数媒体の連携による映画作品の設定補完/歪みの補正」なのではないかなと感じています。

結果的にですが新3部作プリクエル・トリロジーはこれに対する当時のスピンオフ群や「クローン・ウォーズ」によって作品の補完・補強が成されました。その踏襲をある程度計画的に実行しようとしたのではないかというものです。


クロスメディアの時代

映画の製作と公開の期間中も、そして今なお映画に関連する様々なスピンオフ小説やゲーム、コミック、アニメ、ドラマ作品がリリースされています。

まだサーガ作品が3つしか無かった時代、ファンのスター・ウォーズ欲求を満たしてきたのは後発の小説&コミック作品やラジオドラマ、ウエストエンドゲームズのTRPG向け設定など、拡張世界エクスパンデッド・ユニバース=EU と呼ばれるスピンオフ作品群でした。スピンオフは映画で描かれる様々な要素の見え方を変え、世界観に奥行きをもたらしました。

反面、多くはジョージ・ルーカスが積極的に関与していなかった事もあって多元宇宙的に「作品間の設定相違」の問題も生じていたり、新3部作プリクエル・トリロジーや「クローン・ウォーズ」の物語構築においては設定改変と取られバッシングの一因にもなっていました。

新3部作プリクエル・トリロジーのアナキンはファンの予想より遙かに若かった。
私の記憶ではクワイ=ガン・ジンやジャンゴ・フェットには設定改悪という批判もあった。

2012年頃には既にルーカスフィルム内にストーリーグループが形成されており、翌2013年に「正史」という括りを設けて6つの映画作品とアニメ「クローン・ウォーズ」を基軸とした「スター・ウォーズ世界のタイムライン」が公式な形で再整理・管理されていく事となります。

この10年で正史の映像作品の量は爆発的に増えた

この動向は過去(EUの時代)の問題回避の施策であることに加え、クロスメディアによるコンテンツ展開を基本方針としたように見えるのです。(ただしそれでも管理は完璧ではなく、主に映像作品での描写を神聖時間軸として剪定が見込まれる小説などの設定もチラホラ・・・ハイペースのリリースを強いられていたり、所詮は人が作ったフィクションということで)

2015年から2021年にかけて、日本でリリースされたスピンオフ。
映画で描かれた物語を補完する作品が多数リリースされた。
翻訳されているものはごく一部に過ぎない。



続く記事では、2024年4月時点で明らかになった映画本編では語られていない、でも知っていると続3部作シークエル・トリロジーがより楽しめるかもしれないキャラクターや世界観の設定情報などを紹介したいと思っています。

noteで既に紹介記事も見受けられますが、あの作品にも触れます。



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