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愛月ひかるのティボルト

2/16に星組公演「ロミオとジュリエット」A日程を観てきました。
すごく楽しみにしていたのが愛ちゃんのティボルトでした。凰稀かなめさん時代の宙組ファンなので、愛ちゃんがかつてかなめさんが演じた役をどう演じるのか、何か近い空気があるのではないかと思ったからです。結論としては全然違ったけど、愛ちゃんのティボルトはまた新しいティボルトのイメージを作ってくれました。


今回観て感じたのが、ティボルトって真面目なんだということ。真面目に、大人の期待に応えて、でも本当はジュリエットが好きで気性も荒いわけじゃなくて、自分の中にいろんなものを抱え込んでしまって、もう暴れるしかなかった。子供のままの、ヒーローになりたかった自分、囚われのプリンセスを救い出すことを夢見た自分を心の中に飼いながら、抑えきれずにキレることしか覚えられなかった。

キャピュレット夫人の危ない真似はやめてほしいという願いに対して「無理だよ」と彼は答える。その「無理」は自分を抑えられないという意味の「無理」じゃない。自分は元々喧嘩なんてしたくないのだから。大人たちの期待に応えているだけなのだから。彼の「無理」は喧嘩をやめられる日なんてキャピュレットである以上一生来ないという意味の「無理」なんだ。戦の神マルスがついていることだって、自信のようにも思えるけれども実際は自虐なのではないかな。

それくらい、愛ちゃんのティボルトはものすごく真面目で優しそうに見えた。真面目が故に大人たちの期待に応え、ナイフを味方につけ、法律なんて気にしない自分を作ってきた。でも本当の俺じゃないから、アイデンティティの揺らぎを持て余して、喧嘩をしてしまう。「いつ切れるともしれない」というのはきっと、彼の中の大人になりきれない少年が暴れ出してしまい、自分のコントロールが効かなくなってしまうということなのだと。

そしてきっと彼は、ジュリエットが手に入らないから他の女で遊んだわけじゃない。もっと根本的な、アイデンティティの部分の揺るぎを埋めるために女に溺れ、喧嘩の日々を送ってる。ジュリエットへの恋心も事実なのだろうけど、それは彼の心の傷のうちの一つであって、それだけが原因じゃない。




ここからは深読みしすぎかなという内容ですみれコード的にもよろしくないかなと思うんですが。



「実のおばとできてるって話だぜ」

愛ちゃんのティボルトを見ていると、あれは事実だったのではないかと思った。本人の意思ではなく、しかし事実だったのだと。

彼はいわゆる性的虐待の被害者だったのではないかと。そしてジュリエットはそんな自分に対して清らかさの象徴だった。けれど彼女はロミオと結婚してしまった。敵だと教えられ、憎むべき相手だと幼い頃からインプットされ続けた相手がジュリエットを汚した。そう考えた時、彼は悲しみを怒りに震えたのだと。もちろん、ジュリエットに対してきちんと恋心を持っていたのだろうとも思う。でもそれは清らかさに対する憧れのような気もする。

そし自暴自棄になった結果として、彼は喧嘩と女に溺れたのではないかと。(実際に虐待を受けた人は自分を大切にできなくなるといわれる)
なんでこう思ったかっていうと、たぶんキャピュレット夫人のあんるちゃんのお芝居の影響が大きい。だって夫人めちゃくちゃティボルトに寄っていくんだもん。それに対するティボルトがすごく嫌そうで、でも無下にもできない姿が痛々しくすらあった。


私の知っているティボルトは、生まれながらに軍神マルスを味方につけ、大人たちに正義を歪められたと言っても、なるべくしてそうなった人、キャピュレット夫人を自ら誘惑するような人でした。でも愛ちゃんのティボルトは全く違った。演者が変わると物語の見え方が変わるということを改めて感じた観劇でした。

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