適度に馴染むということ。Ly 《PARK'S GRAY》(原宿)
原宿という街はファッション! 若者文化! といったイメージが先行しがちだが、改めて歩いてみると複雑で多様な生態系が折り重なってできている。
その中で、上手く街で生きていると思わせる作品が、ペインターのLyによる《PARK'S GRAY》*1 だ。
原宿でも少し落ち着いたエリアにある《PARK'S GRAY》は、San Francisco Peaks というアメリカンダイニングカフェのミューラルとして描かれた。
現在は2体描かれているが、元々は1体のみであった。Lyが個展を行う際にギャラリーの近くにあるこの店に許可を取り、まず左側が作成される。その後、原宿の他のエリアでもミューラルを手掛け、2体目は1体目が描かれた4年後に追加され現在の形となった。
徐々に更新されていくところが移り変わりゆく街と重なり合い、気持ちが良い。
Lyによると、左側は「HATEくん」、右側は「LUVくん」というモンスターである。「HATEくん」は 作成時に"I HATE EVERYTHING" な気持ちとなっていた作者の心情を投影したモンスター、「LUVくん」は立ち直った作者がペイントを続けていく覚悟を現したモンスターとなっている。
通りがかりの私たちが上記の意味を調べずに直接わかる訳ではないが、華やかさや快活さとは遠いどこか内省的な印象を抱かせるその様は、インパクトがありつつもこのエリアの空気に上手く溶け込んでいる。
場所・空間にあったアートを作ろう、という話は大事だと思うが、その実現は一筋縄ではいかない。あまりにも文脈を無視した独りよがりのものを公共空間に置く訳にはいかないが、かといって当たり障り無さすぎて場に寄与しないものを作っても意味がない。
《PARK'S GRAY》は、高層ビル街にあるよりも風光明媚な山間部にあるよりもここにある方が映える良い作品である。
住所:東京都渋谷区神宮前3-28-7 San Francisco Peaks
*1 作成された当時の作品名。2体目が書かれた現在もこの名称で良いかはわからないが、便宜上この名称を作品名として扱う。
【参考】
Takeshi Koh・Mizuki Aragaki. 「“オモハラの黒いモンスター”の生みの親。ペインター・Ly氏が語る、この街の壁にペイントを描き続ける理由」. OMOHARAREAL
AKIRA TAKAMIYA. 「ネガティブな気持ちを原動力に、進化を続ける Ly」. i-D
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?