第12回『なにせにせものハムレット伝』
4幕1場(その2)
今回登場する人物
ハムレット・・・・・・・・・・ クマデン王国の王子
クローディアス・・・・・・・・ クマデン王国国王、ハムレットの叔父
ガートルード・・・・・・・・・ クマデン王国王妃、ハムレットの母
レアティーズ・・・・・・・・・ オフィーリアの兄
ホレーシオ・・・・・・・・・・ ハムレットの親友
墓堀A
墓堀B
森の妖精: ハムレットさまが、さっそうと登場してきました。外国にいるはずだったので、なおのことカッコよかったですね。でも、今はオフィーリアの葬儀の最中なので、ちょっと危機です! いや、かなりの危機かもしれません。ヒーローらしく切りぬけることができるでしょうか。それでは、またあとで!
(前回の場面から続く)
レアティーズ: いや、まて、もう一度だ。もう一度、その顔を見せてくれ。(レアティーズ、ふたたび棺のふたを開ける。)ああ、妹よ、最愛の妹よ、おまえを一人だけで、逝かせることなど、とてもできはしない。おれも、ここで死ぬ。一緒に死ぬのだ。おい、そこの墓堀、棺とともに、おれも 一緒に埋めてくれ。すぐにだ。
墓堀B: いや~、そう言われましても・・・。
レアティーズ: おれはここで死ぬ、妹とともに死ぬのだ!さっさと土をかけろ。
(ハムレット、物陰からでてくる。)
ハムレット: レアティーズよ、ずいぶん大仰に嘆いているではないか。 悲しいのは、おまえだけではないのだぞ。
レアティーズ: (ハムレットを見つめながら、傍白)い、いかん。幻覚が見える! ハムレットの幻覚が見えるではないか。落ちつけ、落ちつくんだ。あいつは今、タヒネ王国にいるんだ。ここにいるはずがない。涙で目がかすんでいるせいか、おれも焼きがまわってしまった。(自嘲気味に笑う)フッ。冷静にならねば。あれは幻覚なのだ。無視していれば、そのうちに消えるはずだ。無視、無視。(皆に向かって)取り乱して、葬儀を中断してしまいました。でも、もうだいじょうぶです。さあ、つづけましょう。
ハムレット: おい、レアティーズよ。
レアティーズ: (傍白)ああ、一体どういうことだ。まるで本物のハムレットのように、動き、話しているではないか。ずいぶんリアルな幻覚ではないか。だが、まどわされてはいけない。心の迷いを消して、無視するのだ。無視していれば、そのうち消える・・・はずだ。しかし・・・あいつは汗をかいている。はたして幻覚が汗をかくだろうか。しかも臭い汗だ。ここまで匂ってくる。しばらく体を洗っていないにちがいない。そうだ、分かったぞ! あれは幻覚などではない。本物なのだ! まちがいなく本物だ。 おのれハムレット、貴様がなぜここにいる。
ハムレット: 一体、何をおどろいているのだ、レアティーズよ。正真正銘、このクマデン王国の王子ハムレットではないか。
ガートルード: ああ、ハムレット。無事に帰ってきたのね。
ハムレット: (レアティーズに向かって)よく聞け、おれは心の底からオフィーリア愛していたのだ。おまえの何千倍、いや何万倍も愛していた。だ。
レアティーズ: さんざん悪事をはたらいておきながら、いまさら恋人気どりか? 腐りきった奴だ! 今すぐ殺してやりたいところが、残念ながら葬儀の最中だ。終わったら、すぐに決着をつけてやるから、ちょっと待っていろ。
ハムレット: いや、オフィーリアを弔うのに最もふさわしいのは、このハムレットではないか。
レアティーズ: 黙れ! おまえなどに参列する資格などない。
ハムレット: (レアティーズを無視し、オフィーリアの棺をのぞきこむ。)ああ、まだ生きているかのようではないか。それにしても、オフィーリア。なぜ死んでしまったのだ。
レアティーズ: もはや我慢の限界だ。ここがおまえの死に場所だ。オフィーリアのお墓の前で殺してやる。(ハムレットを殴る。)ビシ、もう一発だ、ボコ。
ガートルード:(クローディアスに向かって) あなた、早くあの2人をとめてください。このままでは、2人とも大けがをしてしまいそう。
クローディアス:(ガートルードに向かって)なあに、2人とも節度あるりっぱな宮廷人だ。放っておいても、すぐに仲なおりするだろう。
ハムレット: レアティーズよ、なかなか手荒いあいさつではないか。だがまあ、良しとしよう。ところで、おまえは本当にオフィーリアの棺とともに土のなかに埋められる覚悟があるのか。
レアティーズ: おまえにはあるのか。
ハムレット: その気になりさえすれば、オフィーリアとの愛に殉じることもできる。
レアティーズ: そうか、ならば、この場で首を絞めて、試してやろう。死ぬまでがまんできたら、おまえの勝ちだ。いさぎよく負けをみとめよう。のたうちまわって悶絶して死んだら、おれの勝ちだ。さあ、決着をつけよう。(レアティーズ、ハムレットの首を絞める)死ね、死ね、死ね!
ハムレット: (苦しそうに)おい、首から手を離せ!いいから、その手を離せ。
レアティーズ: 苦しいか。だが、もう少しだ。すぐに楽になるからな。
ハムレット: 首から手を離せ。
ガートルード: レアティーズ、よしてちょうだい。ああ、ハムレット・・・。
レアティーズ: オフィーリアの葬儀の場こそ、おまえの死に場所にふさわしいのだ。さあ死ね!
ガートルード:(クローディアスに向かって)ああ、あなた、とめてちょうだい。
クローディアス:(傍白) 仕方ない、止めるとするか。(大きな声で、従者たちに向かって)誰であろうと、厳粛な葬儀の場をけがすことは許されない。皆で2人を引き離すのだ、すぐにだ。
(ハムレットとレアティーズが引き離される。)
ハムレット: ずいぶん乱暴なあいさつではないか。レアティーズよ、もう少しで三途の川を渡ってしまうところだった。おれは君を立派な人間とみなして、尊重してきたつもりだ。なぜこんなことをするのだ。
クローディアス:(さえぎるように)もうやめろ、ハムレット、今日は帰って寝ろ。いいか、おとなしく寝るんだぞ。万事は明日だ。ガートルードよ、ハムレットを連れて、早く向こうに行ってくれ。皆も、帰って休んでくれ。ああ、すべてが台無しではないか。
ガートルード:(レアティーズに向かって)ハムレットは、今、気がふれていて、まともではないのよ。
クローディアス: おい、ガートルードよ、申し訳ないが、ハムレットを連れて、早く向こうへ行ってくれないか。
ガートルード:(ハムレットに向かって)ハムレット、今日は部屋にもどって、ゆっくりお休みなさい。
(ハムレットとガートルード退場。クローディアス、レアティーズ、墓堀ABが舞台に残っている。)
クローディアス: やっと行ったか、無礼者め。レアティーズよ、気を静めてくれ。チャンスはまたやってくる。
レアティーズ: もはや、怒りを抑えることができません。
クローディアス: おまえの気持ちは、よく分かる。だが、まずは、オフィーリアの弔いが先だ。おまえのかわいい妹が天国にいくことができるよう、この場所に立派な記念碑を建てようではないか。記念碑なら誰も文句は言わない。どの墓も及ばないような、大きな記念碑を建てるのだ。(傍白)それにしても、ハムレットがこんなにも早く帰国してくるとは思わなかった。かくなる上は、確実に息の根を止めなくてはいけない。(レアティーズに向かって)ところで、ハムレットについてだが、よい計画があるのだ。
レアティーズ: ぜひ、お聞かせください。
クローディアス: いいか、ハムレットは、おまえにつよい対抗心を抱いている。いや、立派なおまえに嫉妬しておるのだ。最近、おまえの人気は急上昇しているからな。そこでだ、まず、わたしの方で、2人の和解のためのイベントの手はずをととのえる。わが国に伝わる、あの伝統のクイズ対決だ。
レアティーズ: え!あの、呪われたクイズ対決ですか。開催しようとすると、毎回かならず大惨事がおこり、多くの死者がでたため、不吉な行事とされ、長らく封印されてきた、あのクイズ対決をまた開くというのですか。
クローディアス: そんなものはただの迷信だ。たまたま、不運が重なったにすぎない。都市伝説のようなものだ。それとも、おまえ、おじけづいたのか。
レアティーズ: いいえ、そんなことはありません。しかし・・・。
クローディアス: 皆が立ち会うクイズ対決こそ、公明正大な復讐の場にふさわしいとは思わないか。
レアティーズ: そうかもしれませんが、どうやってハムレットを殺すのでしょうか。
クローディアス: まず、前もって、私のほうで強力な毒入りワインを用意しておく。そして、ハムレットが1問正解する度に、そのワインで乾杯させることにする。一口飲んだだけで、間違いなく死に至る猛毒であるから、確実に死に至るはずだ。
レアティーズ: なるほど。ようやく納得できました。さすがは陛下、悪知恵の宝庫ですね。
クローディアス: おまえは、まだ、おれを誤解しているようだ。すべては、おまえのためなのだ。おまえのために知恵をしぼっているのだ。
レアティーズ: いえ、まったく脱帽です。まさしく権謀作術、悪のデパートですね。それでは、さらに念には念を入れて、私は毒を塗った剣を隠し持ってゆきます!そうすれば、どんなことが起こっても、父のための復讐を達成することができます。
クローディアス:(傍白)父のための復讐か、胸に突き刺さる言葉だな。とっさに思いついた計画ではあるが、今度こそハムレットを始末できそうだ。成功すれば、この胸の不安もおさまることだろう。(レアティーズに向かって)それでこそ孝行息子だ。ぜひとも、復讐を達成してほしい。わたしは常におまえの幸せを願っているのだ。
レアティーズ: すぐにでも対決を始めたい気分です。
クローディアス: では、部屋にもどって、くわしい相談をしよう。(墓堀にむかって、金貨の入った袋を投げる。)おい、そこの墓堀、代金だ、受け取れ。かなり多めに入っている。いいか、この棺をていねいに埋めるんだぞ。
墓堀B: (袋の重さを確かめて)かしこまりました。心を込めて埋葬させていただきます。
クローディアス: よろしくたのんだぞ。レアティーズよ、行くぞ。
(クローディアスとレアティーズ退場。)
墓堀B: 行ったか、みんな行ったか。
墓堀A: もうすこしです。あの角を曲がって、見えなくなったら、オッケーだと思いまーす。あ、見えなくなりました。もう戻ってはこないでしょう。
墓堀B: よーし、いつものように、あっちこっちの骨を、みんな放り込んで、土をかけて、さっさと終わりにしようぜ。
墓堀A: 了解!それにしても、葬式ってのは、いつも、なんやかやでもめますね。何やら、よからぬ相談もしていたようですし。
墓堀B: いいか、お上のことは俺たちには何の関係ないんだ。おれたちにとって重要なのは、お上ではなく、お金だ。なにも聞こえなかった、なにも見なかった。そうだろ。チップもたっぷりもらったんだから。(袋をあけて、中の金貨をみせる。)だから、そこら辺の骨をぜんぶ放り込んで、土かけてさっさっと終わりにしようぜ。早く家に帰ってビール飲みたいだろ。
墓堀A: 賛成ー!ちょうとっきゅうで終わらせましょう。
(ダーク・ダックス「雪山讃歌」、あるいは唱歌「茶摘み」のメロディで)
墓堀A: ♪ 墓よ、墓場よ、ほとけーの宿り
墓堀B: ほれ、ほれ
墓堀A: ♪ おれたちゃー、
墓堀B: まだ、
墓堀A: 墓には住めないからに
墓堀B: まだ、まだ
墓堀A: ♪ 墓よ、墓場よ、ほとけーの宿り
墓堀B: ほれ、ほれ
墓堀A: ♪ おれたちぁー、
墓堀B: まだ、
墓堀A: 墓には住めないからに
墓堀B: まだ、ほれ
森の妖精: だんだん盛り上がってきましたね。でもクイズ対決って一体何なんでしょう。本当に開催されるのでしょうか。つぎもかならずアップするから、気ながにまっててね。