帝王切開の傷をグチグチ言われて育った子どもの話

 日曜朝。
 はぐプリすごいところ切りこんだ!ってツイッターでめっちゃ回ってきて、帝王切開って字を見て、まとめ見て、世界はそこまで進んだかってほっとした。
 何がホッとするって、帝王切開だから愛情が薄いとかお腹を痛めて産むべき論が一掃されたなら、次は、次こそは、帝王切開で生まれた子どもが親に申し訳なく思う必要なんかないって、その段階に進める気がする。
 進める、進めるよね?

 私は、帝王切開で生まれた子どもだ。
 生まれた日にちは病院の都合で設定された手術日だから、運命を占うとかそういう話をするとよく母に運命は病院に決められたと言われた。だって、帝王切開だから。
 それはもう耳にタコができるほど聞いた。耳タコどころではない。
 だって、保育園児が逆子(さかご)の意味をしっかり理解して、どういうことか、わかっていて、それでなお帝王切開なんて、そんな単語を知っている時点で、いくら私が本を読む幼児だったからって、それはもう異常だ。
 母とお風呂に入る度、母のお腹の傷を見せられて、「ここ、ここをお前を産んだ時に切ったの。痛かったんだから」「こんなに痕残って」などなど、言われていた。
 ここで私の母について紹介しておこう。
 私の母は親に怒鳴られる家庭で育ち、料理が得意で、短気で、わけもなくヒステリーを起こすというはた迷惑な特徴を持っている。
 関わりたくないだろう。
 ところがこの人外面はよいのだ。
 料理が上手で優しくて元気なお母さん、で周囲には通ってしまっているからたちが悪い。
 ごはんはおいしいけど、食卓の空気が最悪だったよお母さん!
 鍋って飛ぶんだね!

 子どもの私はそんなに怪我の多い子どもではなかったが、身内で針で縫うような怪我をするやつがいたもので、縫うような怪我がどんなにやばいか、というのも感覚で知っていた。
 それを私が知る前、知った後に関わらず、小さな頃、お風呂に入る度言われたものだ。
「ここを切ったの」「痛かった」「傷がこんなにも残ってる」
って。
 恨めしげに言うそれは「お前が生まれたから遊べなかった」って零すのとそう変わらない。
 実際この母は再婚相手と仲が悪くて離婚しない理由に「子どもを育てていくのに金が要るから」とか子どもの前で言った。
 本当に、クソ。

 それでは十六夜の、毒親ジャッジ始めるよ!(もうそれくらい気分上げていかないとダメだからさ、テンション寒いとか言わないでね)
 まず当たり前ですが、身籠ったのは、誰の責任ですか?
 セックスしたカップル、十六夜の両親のせいですね!

 では逆子になったのは十六夜のせいですか?
 違いますね! そんなことまで責任請求されるなら生まれたくない!

 最後に一つ、帝王切開という技術で産むことを決めたのは誰ですか?
 十六夜の両親ですね!

 はい、十六夜悪くない。
 だいたいこんなの、婉曲で、「お前なんか産まなければよかった」って風呂入る度に聞かされてるようなもんだからね。
 毒親です。
 紛うことなき毒親だ。
 帝王切開の痕が気になるなら、消せないか調べてみりゃいいじゃん。調べたかどうかもしんないけど、それ、私のせいにしないでくれよ。
 本当はさ、昔だったら生まれてこられなかった逆子の私が帝王切開っていう医療のおかげで生まれてきてくれて嬉しいって、まともな親はそう言うんだってさ。
 友人に聞いて初めて知ったよ。そんな考え方。

 多少なりとも親に傷を残した自分が生まれるべきでなかったなんて刷りこまれたから、そんなの初めて知った。

 帝王切開で子どもを産むお母さんへ。
 帝王切開だから、愛がないなんてことはないです。帝王切開にも、普通分娩にも、無痛分娩にも、どんな分娩にも、同じだけ毒親になってしまう可能性があります。
 毒親になるかと、分娩の方法は独立です。無関係です。
 どんな方法であれ、生まれてきてくれてよかったとそう言ってあげてください。
 お前を産んだからこうなったって言いたくなったら、子どもの前から離れてください。
 子どもの前でそれを言ったら取り返しがつきません。

 帝王切開で生まれた人へ
 親の傷は、あなたのせいじゃない。
 あなたのせいではない。絶対に。

 帝王切開の傷をグチグチ言われて育った子どもだった大人、十六夜雪のお話でした。
 こんなひどい時代があったなんて、と言える社会になりますように。

生きる糧になります。