商品が棚に並ぶまでの物語こそ、これからの時代に大切なことだ。
2018.3
日頃使っているモノは、「どこで、誰が、どうやって」作っているか考えたことがあるだろうか。知らないことって、意外と多いものだ。
仕事をすればお金を稼ぐことができる。お金があれば、「完成」されたモノを買うことができる。この状況のなかでは、どのように作られているかを知ることはあまり意味のないことである。
それは他人の仕事で、自分とは無関係なことだ。
しかし他人の仕事への無関心は、自分の暮らしへの無関心と同じこと。
いつの間にか、自分をも苦しめることになるという話をする。
【世の中は物流で成り立っている】
自分が消費しているモノがどのように作られているのかがわからない。これは、都会で暮らしているとよく感じること。
どこもかしこもお店だらけなのに、その一つ前の背景がみえてこない。僕も東京で暮らしながら、このことを不安を感じてきた。
その結果として、漁村で「生産者」として暮らし始めたいまがある。
田舎にある生産現場から、人の住む町へモノが運ばれている。そうやって物流によって繋ぎ合わされることによって、現代社会は成立している。
この物流を最近では、サプライチェーンという。
現在、物流を改めて見直す動きが盛んに行われている。サプライチェーン・マネジメント。お客さん(消費者)にモノが届くまでの過程を一つのチェーン(線)とみなして、そのチェーンに関わる人たちが協力することによって、より「良い」モノを生産できるようにする経営のこと。
どうして届くまでの過程にこだわることが「良い」商品を作るのだろう。
【モノの価値を判断する】
日本ではあまり見かけないが、海外ではよく値札のない商品が店頭に並んでいる。こういう商品に出くわすと、それにいくら支払う価値があるかということを考えるようになる。そのモノの価値を自分の頭で判断しようとする。
モノの価値を判断する基準。まずは自分がどれくらいそのモノが欲しいか(商品の魅力度)が関係してくる。どうしても欲しいと思えば、多少値が張っても買うだろう。それと、もうひとつの考え方がある。
そのモノを作るために、どれくらいの労力がかけられたか?
機械で大量生産されたモノよりも、ハンドメイドの方が高く売れる。それは単に品質の良さだけでなく、そのモノが作られる過程を想像するからだ。
その結果モノの価値というものを理解して、その対価としてお金を支払う。そのモノの表面だけではなく、作られる過程までこだわりが込められているモノ。これが消費者にとって「良い」商品の定義ではないだろうか。
【生産と消費の現場がかけ離れている】
モノがどのように作られているのかがわからない。これが現代社会の特徴だとすれば、消費者はモノの価値を判断することができない。
なぜなら「良い」商品になるための必要条件である「手間暇」を考慮した買い物ができないからだ。
そもそも生産者の姿をイメージできない消費者は、相応の対価を支払いたいという気持ちさえ湧いてこない。売買に人間関係がない。だからできるだけ「見た目」が良くて安い商品を、消費者は要求していくことになる。
生産者としても、必ずしも「良い」商品が評価されない。さらに、消費者の顔がみえないから、誰かのために働いている実感がもてない。良い商品を作ろうというモチベーションが湧かなくなっていく。
【都会が田舎を搾取する構造】
物流(サプライチェーン)の末端にいる生産者は、消費者から一番遠い存在。だから生産者の気持ち・努力がどんなにあったとしても、それを消費者に届けることが困難だった。結果として、正当に評価されないことによって生産者の努力が報われない時代が続いてきた。
そして生産現場としての田舎は、作られたモノが都会に流れていく。都会のために働く田舎。こんな関係性が田舎を搾取し続けてきた。
モノの対価としてお金を支払われたところで、お金の必要度が低い田舎ではたいして使い道がない。むしろ漁村で魚が食べられなくなるような、モノ不足が発生している。
【消費者が搾取しているのは、自分自身だ】
物流が引き起こしている「生産者搾取」は、本当に深刻だ。
ひとつ、これだけは伝えたい。
モノ・サービスを使うことが生活ならば、消費者であることからは逃れられない。それと同じようにモノ・サービスを生み出すことが仕事ならば、職をもつ者すべてが生産者であることからは逃れられない。
消費者として生産者から搾取することは、生産者として仕事をする自分の首をも絞める行為だ。
消費者として本当に「良い」商品を選ぶことは、仕事が正当に評価される社会をつくる。そのために生産者も、その価値を判断してもらえるように自分から価値を届けていくことが必要になる。伝えるツールを片手で持ち歩くことのできる時代で、生産者が辛酸を舐める必要はないはずだ。
生産者と消費者双方が、物流を見直すことによって歩み寄れることができれば、持続可能な消費のカタチがみえてくるのではないだろうか。
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