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上京して最初に住んだ町

上京して最初に住んだ町は特別だ。
初めての行き先ばかりで生活のルーティンも定まらない変化の中で毎日同じところに帰宅して、その景色が近付くとほっとする。
その後何回引っ越しても、年が経っても、行かなくとも、その親しみは変わらない。もちろん町は変化しているわけだが、町も私も変化していくものなのだからお互い様だろう。

初めて住んだ東京は世田谷線沿いの松陰神社前の商店街。商店街は素敵だ。
朝は遅くまで寝てちゃいけない気分になる。
魚屋さんは午前3時に一度来る。
八百屋さんは年中無休。稀にしれっと休む。
角の洋菓子屋のおじさんは注文を受けてからシューにクリームをこれでもかと絞り入れてくれ、年末にはその顔が印刷された手帳を毎年くれた。
階下のカフェは喋り友達で、サクラとしてお客さんが入るまでの間通りに面した席に着いてお喋りした。
世田谷線のミニマムさが良かった。
だがあまり乗らず歩くか自転車かバイクで移動した。
雀荘のマスターはいつも徹夜明けで青白い優しい顔をしていた。
近隣3件の銭湯を使い分けた。
台風の日に屋根が飛んだ。(みんな心配してくれた)
近くの無国籍料理屋の昼カレーが好きだった。
同時に話しかけられた八百屋とカフェの中の人との間でキョロキョロしながら買い物しているの見た友人が「商店街のマドンナ枠か」と笑った。
夜でも朝方でもオレンジ電灯はついたままガラス窓の模様を煌めかせた。
冬は夕方から夜が一気に寂しい。

契約と愛着と経済的事情の結論、数年で別の町に引っ越した。
ずっとあの人々の営みを感じながら生活するのは良かった。商人から溢れる人情があの空間の大きな因子だと思う。

どの町にもその年の自分にしかない思い出がある。そういう自分にしか見えない亡霊みたいな思い入れが点在していて町はおもしろい。

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