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2人称の問いで会話の質を深める

2人称の問いの留意点について考えていきましょう。

相手の感情や、相手との関係性

2人称の問いでは、相手の感情や相手との関係性を考慮する必要があります。これを会話の中でどのように観察し、調整していけばよいのでしょうか? ここで、会話の質を“深度”という概念で整理するモデルをご紹介します。

会話の質-深度

図1

表面的なレベル

1番上のいわば表層は、“表面的”なレベルです。日常の挨拶や他愛もない世間話がこの領域に入ります。ご近所や他部署だけれども、顔見知り程度の関係はあるという場合の会話のレベルといえます。

事実のレベル

2つ目の層は、“事実”のレベルです。何が起こったのか、何が起きたのか、何をしたのか、結果がどのようになったのかといった、情報のやり取りが行われるレベルです。通常の仕事などでやり取りされる情報として、最低限必要なものとも言えます。

感情・認識のレベル

3つ目の層は、“感情・認識”のレベルです。モデルの絵では水面下に描かれていますが、事実レベルでは頻繁にコミュニケーションを取る相手でも、それに対してどのように感じているのか、好きなのか/嫌いなのか、これからどうしていきたいのかなどは、意外に共有できていないことも多いものです。

価値観のレベル

一番奥底の4つ目の層は、“価値観”のレベルです。価値観は、実はある事実に対して、さまざまな感情を引き起こす根源となっています。例えば、縦割り組織で、他部署への依頼はいちいち上司を通さないと進まないというルールが存在するとします。そのとき価値観のレベルで「オープンコミュニケーションでフラットな仕事の進め方が最もよい」と考えていたら、このようなルールは「イライラした」感情を引き起こすでしょう。

しかし、価値観のレベルで「伝等的なルールは効率化を進めた結果、慣習となっているのだから変えるべきでない」と考えている人はどうでしょうか? むしろ、このルールから逸脱するような言動が見られたときに、怒りの感情を抱くでしょう。

ただ、残念なことに、人はこのような価値観について、それほど多くの他人とは共有していないのです。あなたも、あなたの価値観について、深く話したことがある相手というのは、何人くらいいるでしょうか?

さまざまな会話の内容を観察し振り返る時に、相手(や自分)の会話が、表面的なレベルなのか、事実のレベルなのか、感情・認識のレベルなのか、あるいは価値観のレベルなのかを気にかけることは、とても重要です。

相手との信頼関係を深める問い

もう少し相手との信頼関係を深めたいと思っている場合に、そもそも事実レベルで、お互いに何も知らなかったら、先に進めませんね。まずは、事実レベルに関する問いが有効そうです。例えば「どちらにお住まいですか?」などは事実レベルの問いの代表的なものです。

しかし、さらに踏み込んだ深い会話を求めるなら、感情・認識のレベルの問いも投げかけてみたいものです。例えば「今、住んでいる場所は気に入っていますか?」などになります。

そのような問いがきっかけとなって、お互いの価値観のレベルの共有ができるような、関係になれるかもしれません。例えば「本当は、どんな場所に住みたいと思っていますか?」などは、価値観に触れる回答が得られる可能性のある問いでしょう。

相手には回答しないという選択肢がある

ただし、ここで注意したいのは、相手にはあなたの問いに対して「回答しない」という選択肢があるということです。つまり、その場の感情や関係性によっては、答えが得られない、つまり問いが適切に機能しないこともあるということです。なぜでしょうか?

自分の情報を明かすというのは、“自己開示”と呼ばれます。一般に、会話の質-“深度”が深ければ深いほど、自己開示への抵抗感は大きくなります。
表面的なレベルの情報は、相手にそれが知れたところで、あまりリスクがないと考えられるでしょう。「最近、雨が多いですね」と自分の一般的な認識を開示したとして、そのことを知られても、あるいはそれを否定されても、それほどの痛みや危険はないということです。

しかし、事実レベルの「私は〇〇に住んでいます」という情報は、それが細かければ細かいほど、(ストーキングなど)さまざまなリスクを引き起こすのではと、感じる人もいるかもしれません。

また、感情・認識や価値観は、人の深いところに根ざしているからこそ、開示することで否定されてしまったら、とても傷つくことになりかねません。
したがって、このような不安を理解し、感情や関係性の問題を解決していかないと、問いが機能しないということが起こってしまうのです。

2人称の問いを考える上では、この会話の質-“深度”を常に心に留めておく必要があるのです。

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