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電波戦隊スイハンジャー#187 応報

第9章 魔性、イエロー琢磨のツインソウル

応報

ヒノヒカリイエローに変身した及磨が福明に斬りつけたナイフに塗られた薬。

それは本体の観音族形態の福明の傷口から血流に乗って全身の細胞をくまなく巡り、彼の細胞内にある葉緑素を容赦なく活性化させ続ける一種のホルモン剤であった。

それは医学博士である野上聡介が従兄弟の藻類学者、ミシェルから「信じられるかい?火山地にある高温の源泉内で棲息している藻を見つけたんだ!」とSkypeで話している時、

Q・もし、ヒトが細胞内に葉緑素を持っていたらどうなるのか?

A・光が当たると葉緑素が増加して代謝が過剰な状態になり、人体の特に皮膚・神経で炎症を起こし循環器を酷使し続け消耗するであろう。

と閃きのような自問自答が頭に浮かび、「友達にサトル・カツヌマという植物学者がいるんだが」とわざと知らない者はあまりいない酒と清涼飲料水のメーカー、世界の勝沼酒造のご令息、勝沼悟の名を出してみた。

「サトル・カツヌマ!?植物学会で彼の名を知らない者はいない」

ほら、やっぱり食いついた。

「彼は興味があれば何処へでも出向くフィールドワークの鬼、と呼ばれている男だよ」

あいつ…お坊ちゃん面してそういう奴だったんかい!と呆れながらも聡介は決してデータを盗るような事はしない、という約束をしてその生命力の強い藻のデータをネット経由で貰い、USBに落とし込んだデータを勝沼生命科学研究所所長、勝沼悟と助手の西園寺真理子に渡して自分が思い付いた対観音族用の生物兵器の事を話すと…

「全ての物質を素粒子化する絶対滅を喰らわせるような敵を倒すためなら致し方ないね…」

と急ピッチで細胞内の葉緑素を飛躍的に活性化させるホルモン剤を開発したのだった。

「但し、これが効くのは相手が観音族形態の時だけ。制限時間15分の、一か八かの賭けだったんだよ」

と言って悟は真理子が作った薬のアンプルとラットを使った動物実験の結果のデータを聡介に見せた。

観音族クローンラットに薬剤を使用した結果の写真を見て聡介は自分で考えた事とはいえ…とあまりのおぞましい画像に口元を覆った。

「じゃあ、いま福明の体にいま、『これ』が起こっているという事なんだな…」

「成功してればそうなる」
悟は無表情で眼鏡をずり上げた。

救急処置室の強い光に照らされた福明は、途端に心拍数が増加し、全身の皮膚に焼けたような激痛が走る。

ぎゃああああ!と叫んでいるつもりだが喉が腫れて声が出ない。

人工呼吸器のチューブを喉に差し込まれて吐き気がする。

やめてくれ、やめて!
と治療に当たる医師たちを振りほどこうとする自分の腕…それが濃い緑色の藻に覆われて爛れているのを見て福明は気を失った。

次に目を覚ましたのは集中治療室の中だった。

モニタリング機器の音がぴっ、ぴっ…と耳元で煩わしく鳴り続け、透明なアクリル板を嵌め込んだ壁の向こうでは医師とシンドバッド共同経営者である6人の仲間が医師の説明を受けているのを福明は観音族の力を使って聞き耳をたてた。

「つまりはこうです、何らかのアレルギーで重篤な自己免疫疾患を起こしている。そうとしか言えないのです」

「で、福明はいつ頃死ぬのか?」

と医師の説明を遮ったのは大学時代からの親友ジェイク・リュウの声。

「極めて危険な状態ですがそのような質問には答えられません」

と少し怒ったような声で医師はきっぱりと言った。

「全身の前面40パーセントにII度の火傷、それにあの訳の解らないアオミドロに覆われた姿!あれじゃ企業の経営は無理だ」

「本人には気の毒だけれど」

「それに現場の農場で消えた息子たちを返せ!と家族が騒いでいる」

「金で黙らせられる内に福明を追放した方がいい」

というのが共同経営者6人全員の意見だった。

ふん、僕の描いている理想を理解しようともせずとことん利益を優先する俗な奴らめ。

全身の皮膚を毒性を持った藻に覆われ、人工呼吸器を付けられた姿で福明はこの期に及んでも、人間たちを嘲笑った。

壁の向こうに彼が最も信頼する人の姿が無い。

明倫、明倫?

彼は愛する女性の姿を思念波で追い、彼女が当局の幹部である父親に自宅軟禁されている姿を発見した。

福明、福明…一体どうしたっていうの?今すぐあなたの処に駆けつけたい!だけれどお父様が「農園からデータが流出した。福明の不祥事だ」と言うばかりで何も教えてくれない。

ああ、明倫…君だけは人間の世界に汚れていない。藻に侵食され、見えなくなった眼から福明は涙を流した。

そして、明倫自身が気付いていない彼女の変化に気付くと、
そんな…!と最初は混乱したがやがて、自分の命が残り少ない事を自覚した彼は実に思い切った事を実行した。

机の上で泣き腫らしていた明倫は、自室の鍵がかちゃりと音を立てて開くのを確かに聞いた。

そして何かに導かれたように廊下を歩いて父親の書斎に行き、取り上げられた自分のパスポートとクレジットカードと携帯電話を持って服のポケットに入れて自宅を出た。

不思議な事に明倫は誰にも見つからなかった。何で自分がそうしているのか解らない。でも、何処かで生死を彷徨っている福明がそうさせているのかもしれない。

明倫の脱走が発覚したのはそれから二時間後で、彼女の行方はようとして知れない。

大地から赤黒い靄が立ち上る。それはひとつ、ひとつがソフトボール位の塊になってああう、だとかおおう、だとか自分に向かって怨嗟の声を上げている。
あれは農場で死んだ青年たち?魂ってものは本当にあるのだな。しかし、何とも鬱陶しい。

自分にいくら責め苛まれても抵抗し続けた黄色と緑色の戦士。彼らの脳内からは流れるようなピアノの旋律が響いていた。

あれは、何と言う曲だろうか?

「日本の合唱曲で大地讃頌と云うのだよ」

聞き覚えのある柔らかいけど高慢な響き。

「やあ紫芳」

彼女がどうやってここまで入ってこれたか?親戚と言って堂々と入って来たのか、それとも看護師に変装したのか…

「私が飛行機に乗っている間になんてしくじりを犯したんだ…しかも私が入って来れないように自ら結界まで張って。愚かな」

おい、おい!と呼びかけて紫芳は福明の胸ぐらを掴む。そんな相手に福明は気管切開されで何も言えないので

(踏まれ続けた者の意地、って所かな)
と心で言うと彼女の顔あたりに強く唾を吐きかけた。

目に入った唾を拭った紫芳はこんな屈辱は初めてだ!と予め用意していた物を福明に握らせた。

「既に観音族の力を失ったお前に用は無い」
福明は握らされ、こめかみに突き付けられた物体が何か解っていながらも恐怖は感じなかった。

ただ、自分が無になることだけが救いだったのか。と思うと虚しさが彼の心を蚕食した。

賛美歌にも似た力強いピアノ演奏に合わせて
母なる大地をああ
讃えよ大地をああ

と心の中で唄いながら福明は人差し指に力を込めた。
ぱん!と乾いた音がし、医療スタッフが慌てて中に入って中の惨状を見てまず思った事は自分たちはずっと入口近くにいたのに何で?

という事だった。

後記
福明に下された罰。そしてパートナー明倫は失踪。




































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