電波戦隊スイハンジャー#204 邂逅
第10章 高天原、We are legal alien!
邂逅
あれはユミヒコ王子1400才の誕生日の前日。
コロニーの空調に睡眠ガスを仕込んで女王をはじめ居住者全員を眠らせ、予てより王子が恒星間探索用に改造なさっていた戦闘機に主従二人乗り込んでコロニータカマノハラを脱出してからおよそ100年後。
45回めの冷凍冬眠から目覚めた思惟は開いたカプセルからゆっくり起き上がり、ぼうっとする意識と視界が次第に明瞭になっていく中で、
二人の侵入者を確かに確認した。
─それから48時間後、
ユミヒコ王子も冷凍冬眠から目覚め、カプセルからゆっくり半身を起こす。
「んー…んんっ!?」
カプセル足元の作業机の周りでは、見た目1600才位の金髪金眼の甲冑姿の少年と、もう一人1300才位の褐色の肌の半裸の少年がお茶を飲みながら思惟と談笑しているのだ!
「だ、誰よっ!?このガキどもはっ」
「ユミヒコ王子完全覚醒。意識血圧脈拍筋反射共に冷凍冬眠の影響なし、ですね」
侵入者を指差す主を無視して0.00009秒で主の体をスキャンした思惟は客人の少年二人に「『いちおう』高天原族の王子ですからちゃんと挨拶して下さいよ」と自己紹介を促す。
「やあ僕は金星の須弥山に住む医仏、薬師如来ルリオ!
君達の船を金星の軌道内で確認してさ〜インドラ(帝釈天)の奴が
『知的生命体だろうと異物だから灼け』
と物騒なこと言いやがったのを説得してこの僕がご挨拶に来たって訳さ!」
と褐色の少年ルリオが肩から胸を飾る玉石の首飾りをじゃらじゃらいわせて胸をそびやかし、
「僕は大天使ミカエル。君達高天原族の間では天人の『光』と呼ばれる存在だ…」
とそこではじめて金髪の少年が純白の翼を広げ、おかっぱの前髪をかき上げドヤ顔をする。
「つまりは我々の脳内の視覚野にこう見られたい、という姿で視覚情報を流している高エネルギー体なのです」
正確すぎるヒト型コンピューター思惟のいきなりの物語の世界観ぶち壊し発言に
「それだけはそれだけはやめてよおぉぉっ…!!!」
とパニクって慌てる様子はまさに思春期の少年そのものだった。
思惟と少年二人の背後のスクリーンには100年かけてやっと探し出した居住可能な青い惑星が大写しになっている。
とにかく灼かれたくはないので金星に降下し、当時の須弥山の主であるインドラ(今思えば傲岸不遜な奴だった)を地球降下の目的は調査であり移住の為ではない、と地球時間で72時間かけて説得し、やっと許可を得た上で…
「惑星探査船、アメノサグメ大気圏突入!」
と藍色の鳥の形をした宇宙船、天探女が地球のとある島国に降下した。
それから400年後…
「決めた、この国を芦原中津国と名付ける」
と言って護送天使ウリエルの元から駆け出したオトヒコ王子は頬に当たる風や夏の香りがする新鮮な空気や、柔らかい大地の感触を存分に楽しんで思う存分走った先の森で懐かしい人に出会った。
「兄上!」
「今は姉上、でしょ?」
今は女性化しているユミヒコ王女とオトヒコ王子は実に5百年ぶりの再会に固く手を握りあった。
「この惑星の大体の調査は済んだし今からあんたにここで生きる術を教えてあ・げ・る!」
と高天原族王女ユミヒコは採集用の竹籠を担いで弟に向かってお茶目にウインクした。
あれから15年、
オトヒコはこの地での水や食糧の探し方などの生存術、現地の邑に住む住人との付き合い方などを一通りユミヒコから教わり、今では近隣の邑人に害を及ぼす獣を狩る役目を引き受け、今では
狩人オトヒコ
の二つ名を貰って害獣を狩った報酬代わりに邑人から食糧を貰って生計を立てている。
顎のあたりまで高い草が生えている草原を分けて走りながら、
今度の獣は凶悪だ。なんでも8つもの頭を持ち、人語を解し、たまたま喰らった人肉の味を覚えてしまい
定期的に若い娘を餌に差し出せ、さもなくば邑を潰す。と脅し続けている化け物だ。
今度は邑長の娘御が狙われた。こいつを始末出来るのはあんたしかいない、と思って依頼してるのさ。
と邑と邑とを渡り歩く野臥(この物語では情報屋)が持ってきた話の内容からすると…人語を解する大蛇だなんてこの星の生物ではない。
おそらく他星系から落下してきたキメラ生命体であろう。
相手が何であろうと依頼を受けたら戦うまでさ!
草むらを抜けて比較的大きな集落の一番大きな竪穴式住居である長の家の筵をめくると長夫婦と思われる初老の男女は頭から山犬の剥製を被ったオトヒコの容貌に悲鳴を上げた。
あ、またやってしまった…とオトヒコは防寒用の帽子を脱ぐ。
山犬の頭の下から銀の髪と目をした美丈夫が現れたので長はほう、と息をついて狩人の容貌に見入った。
「実はこの子で邑の若い娘は最後です。娘まで食われると邑で子が生まれなくなり滅びてしまいます。助けてください!狩人」
長の哀切な叫びをよそにオトヒコは、
夫婦の間に挟まれ震えている娘の黒目がちな瞳と可愛らしい顔立ちに一瞬にして惹きつけられた。
どうしよう、心拍数を調節出来ない。これがタケミカヅチが言っていた…
恋。
という制御できない感情なのか?
「解った、その大蛇を退治してくれましょう」
それが後のスサノオ大王のその妃、クシナダヒメとの出会いだった。
後記
自ら世界観ぶち壊しの思惟。
恋なので仕方ありませんでしたbyオトヒコ