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電波戦隊スイハンジャー#198 黙示録の始まり、嘆きの青

第10章 高天原、We are legal alien!

黙示録の始まり、嘆きの青

それは、二学期の期末試験を終えた藤崎光彦がコートの襟を正して意を決して

気になっている女子に告白する。

という人生初の試練だった。

学校裏の枯れて落葉したポプラの樹の下に野上菜緒を呼び出した光彦は「あっあのっ、野上は付き合ってる奴とかいんの?」といきなり13の女子中学生相手に失礼な質問をした。

はぁー、とぐるぐる巻いたマフラーの下で菜緒はやっぱりか、とでい言いたげなため息を漏らした。

「いません、もし居たらソッコー停学にされます」

「じゃっじゃあオレが第一志望に受かったらさ…」

「付き合って下さい。ってか?ノーや。うちは『藤崎さん』を友達としか思うてへんもん」

いつもはミッツくんと光彦を愛称で呼ぶ中1女子のガードは堅かった。

中3の冬、藤崎光彦はコクって1分で振られた。

その様子をポプラの木の陰で見守っていた大人二人、光彦の担任教師の七城正嗣と菜緒の叔父の野上聡介は…

はぁ〜、恋愛事情でモヤモヤするなら受験前に告白してスッキリすべき、とアドバイスしましたが、玉砕しましたね。

光彦…なんか済まん、うちの姪っ子が失礼かまして本当に済まない。だがこれで良かったんだ。これで交際スタートなんて事になったら応援するどころか邪魔しかねない大人気おとなげない大人なんだ俺は!

とそれぞれの思いで光彦の初恋玉砕を見届け、菜緒が立ち去ったら光彦を甘味処にでも誘って慰めるか。と頷きあった時、

「そこのノゾキのおっさん達バレバレやで」

と菜緒に指摘された。 

それは、先月の戦いで重症を負ったイエローとグリーンの手術を手伝ってくれた百目桃香をお礼の食事に誘い、とりとめのない話をいくつかしてから

「でさー、モモさん。彼氏とかいるの?」とかるーい口調で聡介が尋ね、いない、と言われたら速攻コクろう!と意気込んでいた時。

「いる、4年付き合ってる男でお前も知ってる人だ」

鉄板の上のもんじゃ焼きがじゅーじゅーと白い煙を上げた。

「え…箒木さん?」

「阿呆か、あの人妻子持ちだ。不倫する趣味はない」

「じゃあ荻生さん?」

「馬鹿か、私の親父と同い年のおっさんだぞ」

はぁー、鈍いな。と固まりかけたもんじゃをヘラで掬って皿に取り分けてから桃香は定期券入れに仕舞ってある写真を取り出して「彼だ」と聡介の目の前に突きつけた。

「意外…」

きっとレンジャー訓練を終えた直後に撮ったのだろう、写真の中で顔に青くペイントを入れた青年、都城及磨の笑顔を聡介は文字通りあんぐりと口を開けて見つめた。

こうして野上聡介23回目の恋は探りを入れて秒速で破れた。

その時のもんじゃの味は覚えていない。

舞台の上では桃色の振袖の裾を膝丈まで短くしたTDL(東京伝統ランド)の看板娘(マスコットキャラクター)、桃姫が庭園の池を除きながら「なんっか退屈だなあー」と伸びをしている。

その時、
「てぇへんだてぇへんだてぇへんだー!」と飛脚さんが文箱抱えて走り込んで来た。

「まあどうなすったの?飛脚さん」
「とにかくてぇへんなんですよっ、お姫様と話してる暇はねぇ!」

とそのまま飛脚が池の中に飛び込み、足を滑らせた桃姫も池に落ちてしまった。

場面転換、鯉の国。
水中を表した青い波間のスクリーンの中ワイヤーに釣られた桃姫はゆったり水中遊泳する。側を泳ぐのは巨大な紅白の鯉。不意に鯉が話しかける。

「やんごとないお姫さんがなんで鯉の国に来たがや?しゃーねーなー、おらの背に乗ってちょー」

実は鯉が巨大化したのではなく桃姫が小さくなったのだ。舞台の上では錦、浅黄、丹頂、写りもの、べっ甲、衣、そして光りものと様々な種類の鯉のオブジェが交差している。

「すっごーい、ここは鯉の楽園なのねっ!」
と桃姫は錦鯉のニシキちゃんに乗ってお喋りな蛙のカワズちゃんを肩に乗せてこのイベント「倒錯の国の桃姫」の代表曲の一つ、「井の中は最高」を綺麗なメゾソプラノで歌いだした。

世間知らずと 皆はバカにするけど
守られて安心 私はお姫様
でも誰が想像すーるのぅ?
お家の池で大冒険が始まるなーんてぇー♪
(だんだん底に潜ってく)


「こら、この場面桃姫シリーズの山場やで、ちゃんと楽しまんかい!」

たまりかねた桃姫コスプレの榎本葉子はトロッコの後ろの席で虚ろな目で舞台を見ている野上聡介&藤崎光彦のふられ男コンビに向かって「辛気臭い!」と叱りつけた。

突然巨大なカワウソが焦茶色の肢体をうねらせて桃姫を喰らおうとする。姫を守ろうと鯉たちが応戦するが逆にカワウソの群れに囲まれて絶体絶命のピンチ。

「ひゃーはっはっはっは!お前ら魚類と小人なんか生物界では所詮俺達のエサだぜい」

カワウソが牙向いて桃姫危うし!という所にカワウソ達の体に幾筋もの光線が走り、縫い針を刀にした若侍が名乗りを上げる。

「やあやあ我こそは一寸法師さまの一番弟子、梅平義時!獰猛なカワウソどもよ、成敗致す!」

何おう、と十数匹のカワウソが義時を襲うが雷光剣という名の電気針を押し付けられたカワウソ達は電撃でダメージを喰らい「覚えてやがれ!」と退散した。

「大丈夫ですか?姫君」
「お侍さまありがとうございます…お名前は?」

見つめ合う桃姫と義時。  


「あーあーここから恋が始まるパターンですなっ。鯉の国で恋なんてダジャレかよ!
見せつけんなよ義時!」

とヤケクソになった30男と中学生は舞台に向けてヤジを飛ばした。

あーもうやだやだ。僻み根性丸出し。けっ!と口に出して葉子は諸事情あって今は別のアトラクションで遊んでいる親友の菜緒にそれにしても、憎からず思ってた男子に対して冷たすぎる振り方するなあ。

菜緒ちゃんドライ通り越して酷薄やわ。

と親友に対して小さな反感を抱いていた。

一方その頃、戦隊リーダーレッドの魚沼隆文は七城正嗣と共に特別アトラクション「村上水軍の秘宝」で聡介の姪っ子の野上菜緒、ホワイトきらら、そして新参天使サンダルフォンとメタトロンを引率しつつイベントを楽しんでいた。 

黒い鉄甲船を操る塩飽代官こと村上水軍の長、村上隆勝が右目に青い眼帯、青い陣羽織という出で立ちで、

「はーっはっはっはっは、未来から来た小童どもよ。この『黒い亀甲号』で俺様と共に伝説のお宝ゲットする覚悟はあるか!?」

と「お大尽コース」の上客たちに向かってテンションアゲアゲで軍配を振り回した。

「ありまーす」「なあにぃ?聞こえないなぁ」「ありまーす!」「夜の波の音で伝わらないなぁ」

「あるっつってんだろうが!!」

ふはははは、と嗤った船長が軍配を振り上げ、「では今宵海の覇者になるのは誰か?TDLカルトクイーズに答えて貰い正解数に応じて宝箱を開くぞっ!!問題その1、このランドが開園したのは何年か?」

「2001年でし!」
「ふっ…みんな知ってる問題なんて序の口、だが正解は正解だから米5キロくれてやる」

やったあ〜と双子姉弟天使ははしゃいでぴょんぴょん飛び跳ねた。

「では第2問、よっしー侍を密かに守る5人の隠密の名を答えろ」

「陣内、さより、近松、お幹、小菅こすげ
「ぬぬっ!そこまで知っているとはな…よし米10キロくれてやる」
「え…また米?」
答えた正嗣は少しがっかりした。

結局、カルトクイズと
急流の岩の中からヨッシー侍を見つけよイベントと
隆勝船長にスポーツチャンバラで勝ったら豪華宝箱やるぞイベントで

TDLのチケットポイント1万円分、さとりカフェSin-zeiのお食事券、下仁田ねぎみそ1キロと米20キロ、和歌山の職人な作った7玉棕櫚箒(またがっても宙には浮けません)3本を全て現物支給で貰い、

「送料はタダにしてやるから受付で宅配手続きをするがいい、未来から来た部下共よ、さらばだ!と」

最後までツンデレだった船長に見送られ、重い米やら長くてかさばる箒などを入口のバギー3台に分乗してもらって隆文たち一行は最後のアトラクション、

輝くお城を背景に主人公よっしー侍と彼の伯父である悪の将軍、梅平義房の一騎打ちイベントの為にテーマパークのシンボルである黒鳥城に向かっている途中、隆文は並走してくるバギーの後部座席から戦隊ピンクの紺野蓮太郎に、

「今夜は楽しんだ〜?」と声を掛けられた。

「れ、蓮太郎さん。あんた発表会で忙しいんでなかったか?」

「あーそれがね、最後のアトラクションだけは絶対に来いってそこのメタちゃんに強制転送させられちゃった。何が起こるんだろうね」

ライトアップされた黒鳥城前の舞台にはいつもなら桃姫とカワズちゃんと彼女らを守る主人公よっしー侍こと義時が居るはずなのに今夜は誰もいない。

観客は勝沼悟に招待された戦隊メンバー七人と榎本葉子、野上菜緒、藤崎光彦ら戦いに貢献してくれた子供たち。
そして人外代表、サンダルフォンとメタトロンの双子天使が特別観客席に集められているのみ。

「今月始めからラスボス義房役の俳優が代わってね、その人の意向で今夜だけ内容を全変更している」
と上杉鷹山コスプレの悟が説明してくれた。

以前のラスボス俳優は伝説のスーツアクター椛葉蓮司もみじばれんじで昭和終わりの特撮ヒーローには欠かせない俳優だったため彼を見にこのランドを訪れる子の親世代や大きいお友だちも多かったのだが、

60過ぎでのワイヤーアクションはさすがにキツかったのだろう、自分から降板を申し入れ俳優交代となった。

世代交代、新しい黒幕(悪役)は椛葉の後継者足り得るか?
とマスコミも注目していたその俳優は「妙にアクが強くて新鮮」と評判が良いのだ。

パンフレットに印字されたラスボス役の俳優の何に目を落として聡介の中の誰かが
(ま、まさか…!)とやな予感しかしない声を上げた。 

やがて舞台は暗転し、
俳優と思われる人物の影だけが舞台中央に立った。

舞台も観客席も真っ暗な筈だが何故かその人物の髪をと目だけが銀色に輝いているように見える。

「奇しき運命の糸に導かれし人の子らよ、我隠遁すべき身である筈なのに邪なる現世の者たちの働きでしぶしぶ表に出ることになれり」

急にスポットライトが彼を照らしたので観客たちは眩しくて一瞬目を伏せてから改めて彼を見た。

年の頃は四十絡みの背が高く端正な顔立ちをした銀髪銀眼の男。上半身に義房役の黒い陣羽織を纏ってはいるが、その下の装束はかつて2億年前の銀河三十星系を支配した高天原族の元老長の装束そのままだった。

「元老長アメノコヤネ!」

いきなり聡介の体が輝き彼に憑依しているスサノオが聡介の体借りて高天原族形態になった。

「おやおや、お久しゅうございます王子」

「お主はまたもや何を企んでいる?」

とんでもない、と現世に現れた天照女王の側近アメノコヤネは舞台の狂言語りよろしく大仰にお辞儀してから、

「ここから先は、宇宙の果てに栄華を誇り、大災禍を経てこの地球ちだまに降り立った一族の物語。我アメノコヤネが最期まで語らせて頂きます。心の準備はよいかな?」

と彼の思い出の思念を背後のスクリーンに投影させながら語り出した…

後記
著作権に触れないよう腐心した結果、倒錯に満ちたテーマパークが生まれた。








































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