電波戦隊スイハンジャー#137
第七章 東京、笑って!きららホワイト
劇薬3
悟は聡介から聞いた住所をメモに記して電話を切るとすぐに、自らが経営する不動産会社「KS不動産」に勤める秘書、福嶋くんの携帯に連絡を入れた。
「ああ僕だ、仕事中悪いんだけどね。今から言う住所とカナメという会社について調べて欲しいんだ」
かたかた、とパソコンのキーボードを打つ音が受話器から聞こえる。
「あー、うちが所有する第3葦ビルに本社がありますねー、2階の203号室です」
「やっぱりか。できるだけ早く『どんな会社か』調べられるかい?」
社長がどんな会社か?と聞いた時は大体問題がありそうな会社だ、ということを福嶋くんは心得ていた。
「僕なりに調べてみます…30分ほどお待ちいただけますか?」
「頼むよ」
福嶋くんの調査能力は私立探偵並みにずば抜けている。
自分が社長になってすぐの頃、葦ビルに入りたがっていたIT企業の不審な動きを洗い出し突き付けて、賃貸契約を断った事がある。
数か月後、IT社長は脱税で逮捕された。とにもかくにも葦ビルのブランドイメージを汚さずに済んだ訳だ。
福嶋君にはその後、似たようなパターンで何度か助けられた。ここは信じて待つしかない。
待っている間に聡介が寿司の折詰とパンフレットを持って店にやって来た。
急いで走って来たのか興奮しているのか、息が乱れている。
悟に折詰とパンフを渡すと「奥座敷は空いているか?」と聞いてきたので空いている、と言うとすぐに聡介は奥座敷のカーテンの中に飛び込んで、
2、3分で出てきてカウンター席にどっかと座った。
「何があったんだべ?」と熱いおしぼりとお冷やを出す隆文ににやっと笑って見せてから
「さっきニンフルサグらしき錠剤をラファエルに渡した。すぐに鑑定結果が出る」
と言ってお冷やを一気飲みした。この店の奥座敷の壁は熊本の聡介の家にあるエンゼルクリニックと直結していてクリニックには医療天使ラファエルが常駐している。
「聡介先生、今パンフレットの会社を部下に調査させてる」
と悟が報告すると
「本場江戸前寿司はどうだ?」と聡介が折詰の蓋を開けてカウンターの上に広げてくれた。
とろけるように旨い寿司を隆文、悟、聡介でつまんでいる内に福嶋くんから報告の電話が来た。
「社長、カナメは『かなりダークに近いグレーな』健康食品会社ですね。昭和57年創業。創業者の諸山カナメは資産家未亡人。最初は健康食品の個人輸入業でした」
「おじい様の代から葦ビルに入っていた訳か…」
「お金持ち夫人が暇つぶしに事業を始めたってところですかね。最初は高麗人参、クマザサエキスなどの加工品を自分の友達、まあお金持ちのご婦人がたを顧客にして利益を上げていたようです。
平成4年にカナメ氏は亡くなり、息子の隆三郎氏が跡を継ぐ訳ですが…」
「バブル崩壊の煽りで顧客減っただろうね」
「まあにわか金持ちの不動産業者や株式ディーラーなどの顧客は消えたようですが、商品を海外サプリメントに変えたり、マカなどの滋養強壮サプリを選挙前の政治家に売りつけたりしてなんとか生き延びてます。
この頃に、顧客数を維持するために取り入れたのが、いわゆる」
「マルチ商法?」
そうです、と受話器の向こうで福嶋くんが律儀にうなずく様子が想像できた。
「なんかアヤしい御用聞き学者に説明会開かせたり、自宅で食事会と称した商品説明会やって大量に商品売りつけたり、法律ギリギリですよ…
最近じゃ都内の工場で自社サプリ作って自然派、なんて謳い文句にしてる」
都内にサプリメント工場?学者?悟の頭の中で「あるネットワーク図」が化学式のように浮かび上がった。
「福嶋くん、もうひとつお願いがあるんだが」
「話しの流れから行くと、そこを見張れって事でしょうか?」
優秀な秘書は探偵業の真似事を依頼されると、急に生き生きと声を弾ませた。
無理もない、福嶋くんは元々刑事になりたかった男なのだ。
警視庁の試験に落ちて庁舎前でしょぼくれている所を兄の基が拾って、悟の秘書兼お目付け役にとKS不動産にねじ込んだのが福嶋くんだ。
「うん頼むよ。少しでも動きがあればすぐ報告して欲しい」
「ええ!警察が踏み込んだらそこはもぬけの殻だった、なんて陳腐な結果出さないようにしまっす!行ってきます!」
とやけに嬉しそうな声で福嶋くんは電話を切った。大急ぎで不動産事務所から出て行く彼の姿を思い浮かべて悟は可笑しくなった。
奥座席のカーテンを押しのけ、緑色の髪と瞳をした白衣の若者が出て来た。ラファエルである。
「鑑定結果、ニンフルサグでし」とゴム手袋をした手で錠剤の入ったビニール袋を、カウンターの上に置いた。
「やっぱりか、やっぱりかよ…」
聡介はおしぼりをきつく握りしめた。
「そーすけ怒ってましね?」
「ったりめーだよ、自分の母親がヤク食わされそうになったんだぜ!」
聡介の拳の下でカウンターがみしっ、といやな音を立てた。
このままキレた聡介の怪力で店を破壊されてはたまったもんではない!
「野上先生っ、暴れるなら敵の前で暴れて下さい!今は我慢っ」
と椅子持って暴れそうな悪役レスラーにこれ以上やったら退場だぞ!と説得するレフェリーの如き厳とした口調で聡介を諫めた。
「だあ~っ!なんでテレビの特撮ものみたく暴れらんねーかな?
と思ったの、生まれて初めてだぜ!
花龍!?カナメ!?リアルな悪ってなんでこんな巧妙で胸クソわりーんだよ?
何もかも消してスッキリさせてぇー!!!」
と暴れたい衝動を暴言で表現して聡介は肩で息を付いてカウンターに突っ伏した。
その様子を見たラファエルは
やっぱりマザコンでし。
と思った。
「まさかニンフルサグがネットワークビジネスで広がってるなんてな…とりあえず帚木警視に相談してみよう」
と悟はメモ帳に書かれた帚木警視のプリペイド携帯の番号を確認した。
「今朝看護師が自供したよ。サプリメント工場の夜間パート従業員から入手したそうだ。
学習塾の経営者も、目の前の儲けに目が眩んだ、ドラッグと知ってて売ったと吐いた」
とニンフルサグとカナメの接点を警察が既に掴んだ事を哲治は明かした。
「でも、花龍との接点は?」
「全ての答えはそのパンフレットにある。2ページ目の監修者を見ろ」
悟たちは「監修者」称した分厚い眼鏡に小顔の中年男の顔写真を見た。
薬学博士 柳敦之
「警察はこいつがニンフルサグの開発者なんじゃないか、と睨んでいる。なあ、今夜隠のメンバーと戦隊集めて会議できないか?こっちは全員参加できる」
「分かりました、メンバー達に知らせます。
ちなみに、琢磨君は『こっち』のメンバーですからねっ!」
「君はよくこんな時に余裕かませるな」と哲治は軽く声を立てて笑った。
夜9時、エンゼルクリニック会議室に集まった戦隊と隠のメンバーたちは、そこに2人の先客を見つけた。
2メートルの長身をメタリックオレンジの甲冑に包んだ焔色の髪の男と、
まるで絵に出てくる額田王みたいな奈良時代の貴婦人の装束に身を包んだ美しい女性。
「お久しぶりね戦隊の皆さん。そして初めまして、隠の皆さん」
「ウカさんと…ウリエルさん!」
7人の若者たちを無理矢理ヒーロー戦隊に仕立て上げた穀物神、ウカノミタマと破壊天使ウリエル夫妻の登場である。
「やっとヒーロー戦隊司令官のお仕事が出来ますので、わたくしわくわくしておりますのよ」
スサノオの娘ウカは瞳をきらきらさせて少女みたいに微笑んだ。
後記
久しぶりに司令官にして元凶ウカノミタマ神登場。
リアルな悪って胸糞悪い上にドラマや映画のようになかなか消えてくれないんでし👼
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