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電波戦隊スイハンジャー#202 辛苦みつつ降りき・前

第10章 高天原、We are legal alien!

辛苦たしなみつつ降りき・前

愚かで冷たくて残酷で

過ちを繰り返し続けて歴史から学ぶことを滅多にしなくて

常日頃苦しみと怨嗟を吐き続けうさを晴らすることで辛うじて一日を生き延び、或いは自ら人生を破滅させる…

か弱き人間たちよ。

今そなたが思い描いている取り返しのつかない事を実行しようとする前に

せめて我の過ちの話を聞いてはくれぬか?

豊葦原瑞穂国スサノオ大王

その前にちょっと…待ってくれよ!

「憑依体野上聡介から何か訴えたい事があるそうです」

という思惟からのアナウンスが会場に響く

(まったく自我の強い奴だこと、ちっ)と余計な舌打ちまで拾って。

スクリーンは眠りに落ちたオトヒコ王子の意識の漆黒から急にこちらを見据える聡介自身の顔。

「今すぐに処置を行わないと取り返しがつかないことになる。みんな、12月夜の屋外テーマパークでこれ以上野ざらしで映画見てると風邪引くかもしくは肺炎になっちまうぞ!
早速屋内に移動すべし。以上」

と身勝手に画面が消えた途端、2億光年前の王家のドラマを見ていた観客は自分達が真冬の北関東のテーマパークという過酷な環境に長時間置かれている事実に気付き、

「そーだべ!勤務時間外で風邪引いて嫁さんとお腹の子にうつしたくねえっ」

「せやせやー!未来のソリストのノドここで壊して誰が責任取ってくれるんや!」

と皆まるで決議で荒れた国会の如く怒り舞台際まで詰めよったその時、

「ポチっとな。でーし」

と少年天使メタトロンが手元のリモコンのボタンを押すとステージから六列めの客席の背後が左右から壁に覆われちょうどステージと客席が半球型のドームで覆われる形となる。

「ぱっぴっぴっぴっぴっ、このTDL(東京伝統ランド)お大尽コースオプションの全天候型特設ドームへようこそ。ドクター野上の心配は杞憂でーし」

と笑う双子天使にドームの存在を知っていた悟を除く観客たちは、

そんなこと開演前からやってくれよ…

とやっと暖房が効き始めたドーム内でようやくダウンジャケットやコートを脱ぎ始め、ホットドリンクのおかわりをして人心地ついてから客席に身を沈めた…。


ああ緊張する。
「お前が即位したら嫌でも世話になる元老との親睦を深めるためだ」
と姉上が仰せになられても…

別に直接間接に自分に何か失礼をした訳でもないのにオトヒコは幼い頃から元老長アメノコヤネが苦手であった。

目の前の卓の上には好物である焼菓子フックレ(蒸しパン)とカロン星産の茶が器の上で湯気を上げている。

いつもなら数秒で腹にいれてしまう癖に今の自分はこいつの前では王弟殿下。という立場上自分の右斜め前の席にいる元老長夫婦の前でお上品ぶって殊更緊張していた。

「そういえばワカヒルメはもうじき産み月ではないのか?」

と優雅な仕草でお茶を啜る天照はすっかり膨れきった元老長の臨月の妻にいたわりの言葉を掛け、ワカヒルメはそれに応えていつもは伏し目がちだった目を上げ、
「大丈夫でございます、いつ如何なる時でも医師に来て貰える態勢は整っていますから」
ときっぱり言い切って毅然と答えた。

あの大人しく淑やかな衣装係が変わったものだ。

と天照は大きく目を見張った。

実はこのワカヒルメ、結婚前は女王の衣装係にして最も寵愛を受けていた天照の元恋人であったがいつしか元老長に想いを寄せるようになりそれを察してくれた女王に、

「我は来るものは拒まず去るものは追わない」

と交際終了の許可とまだ独身の元老長との交際の橋渡しまでしていただいた過去があった。

極めて俗な言い方をすれば元老長は女王陛下から下げ渡された恋人を妻にしたのである。

女王と元老長、その妻は女王の元恋人。

という卓を囲む自分以外の男女三人の関係全てを知っているオトヒコは自分が元々恋ひとつした事が無いからか、

1900才(地球人年齢19才)という実年齢の割には幼くて潔癖な性分からか、

正式な結婚をせず
王配を持たず
来る娘は拒まず
去る娘は追わない

という姉女王の恋愛生活を…

ぶっちゃけ乱倫じゃね?

と思っていたし、たとえ相思相愛だったとしても下げ渡された女王の元恋人を妻にして夫婦揃ってお茶会の場にいて平気な顔で「自然分娩は滅多に無いことなので心配で仕方ありません」と妻を身遣る元老長の事も…

実は何もかも気に入らないし受け入れられないのだ。

という自分の本音に気付いたオトヒコの筋緊張はピークに達し、

「ちょっと、小用のために席を立ちます」と言おうと立ち上がった瞬間、

びきっ!

と両手首の制御装置にはめられた青い石が音を立てて砕けた。

護衛のウズメがいち早く我の異変に気付き、両腕を切り落とそうと剣を振りかざした事までは覚えている。

力を暴走させてしまった我は

まずは手から放った衝撃波でウズメの片腕を切り落とし、

その余波が不幸にもワカヒルメどのの心の臓を切り裂き、

我を中心に卓も床も割れ、外観が巨大な円盤型であるコロニータカマノハラの半円を割ってしまい陰圧で外周エリアに居た数百人の民を宇宙空間内に放出させてしまった取り返しのつかない事態になったのを知ったのは拘束されて数週間も経ってしまってからの事であった。

我の脳裏から消えないのは
すでに事切れた妻を抱いて泣くアメノコヤネと、

「大丈夫…私は不死身ですから」
と切断された右腕から血を噴き出しても主を慰めるウズメの声と、

布でウズメを止血しながら自ら封印の証である首輪を外し喉元にある渦巻状の痣を露にし、両目を銀色に輝かせて我に向かって

「おのれ、我の大事なもの二人を奪おうとするとは乱心したか!?オトヒコ!かくなる上はお前に…」

死を賜る。

と本来滅多に使わない言霊使いの能力を発揮なさって我を処刑する事は覚悟していた。

しかし、

「お待ちください陛下!!」
愛妻の死という自分の最大悲しみさえ堪えて自分の首輪を外して女王と同じ渦巻状の痣を露出させて己が言霊で姉の呪詛を封じたのは…

元老長アメノコヤネだったのだ。

後記
スサノオ最大の過ちとトラウマになった出来事。


































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