見出し画像

電波戦隊スイハンジャー#192 思惟、混沌より出づる

第10章 高天原、We are legal alien!

思惟、混沌より出づる

思えば「私」というもののはじまりは

二億光年前の銀河三十星系の、
文字と発音で出来た言葉。

ありとあらゆるものを計測した結果である数字。

先人たちが石や木に刻まれた像、或いは紙に着色して描かれた絵。

生物の進化の遺伝子情報や過去に人が作り上げた文明や社会というものと、その末路。

という膨大な情報を与えられてそれらを系統付け、使用者の問いに適切な答えを提供するだけの存在でした。

約4000年前

科学力も生物としての進化も極めた高天原族は既に資源が枯渇した母星を棄て、宇宙空間に巨大なコロニーを建設して暮らしていました。

コロニーに住む高天原族の住民全ての生物周期を知り、快適な環境を与えるために施設の全てを管理し制御するためのAIである「私」が作られ必要に応じて性能の進化を求められました。

いわゆるバージョンアップです。

1000年かけて進化を重ねた私は遂には

人格。

と呼べるものを持つようになり、高い処理能力を駆使してコロニーを管理している合間にモニターを通して高天原族を観察するようになったのです。

当時は一万人以上居た高天原族の中でひときわ興味を持ったのは第84代イザナギ大王の抽出子である三つ子の真ん中っ子、ユミヒコ王子のその類まれなる聡明さでした。

年齢1100才(地球人でいうところの11才にあたる)の幼さで高天原に必要な教養を全て習得なさり、

宇宙空間の全環境に対応出来る宇宙服を開発なさり、

さらにはデオキシリボ核酸(D.N.A)の塩基配列の一つ一つをまるで子供が戯れに玩具のパズルピースを組み立てるように設計なさり、異星の生物を復元する実験までなさっていたのです。

「戯れで生き物を創ることがそんなに面白いですか?」

実験室の機械化音声を使って私が初めて話しかけた高天原族、それが幼名ユミヒコこと後のツクヨミ王子だったのです。

「既にある生命を作るなんて模倣にすぎないし。面白くもなんともない」

実験の手を止めて王子は振り向き、「もっとも親しみやすい顔」として合成した私の画像に向かってなんだか…

ずいぶん苛立っておられるな。

といった印象を抱いたものです。

「では、王子のなさりたいこととは」

とそこまで言った時、生まれ持った強い思念波で強引にスピーカーを遮断した王子は文字通り私に口止めをなさったのです。

「汎用型人工知能『オモイカネ』よ、ここでの会話は父王や乳母のウズメには絶対内緒。そのうちお前に面白い研究結果を見せてあげるから」

そう言って王子は肩を揺すって含み笑いの表情を見せました、長い銀髪の先が腰の辺りで揺れて人工知能である私にも…

なんだか嫌な予感。

を思わせるものでした。

その時の会話は一年もせぬ内に意識の真下に追いやりました。

だって、私には毎分毎秒やらなければならない処理がそれこそ星の数ほどありましたからね。
くすっ。

それから6年後、

私は当時のボディ本体であるホストコンピューターの定期メンテナンスの為に一時的に電源を落とし、その間の処理をサブの機体に任せるよう自動設定しておいたので地球時間にして32時間59分もの間全機能を停止させておりました。

つまりは完全に眠りこけていたのです。

33時間後に再起動を始めた時、私を取り巻いていたのは流動する薄いピンク色の液体と酸素の泡。

こんなのは過去の情報にない体験でしたので私はパニックになり、両手をばたつかせて自分を覆う透明な板を叩き、目の前の相手に助けを求めました。

「よし、フルインストール成功!」
と板の向こうの王子が小さくガッツポーズをなさっていたのを私は絶対忘れてやりません。

「はーいはいはいはいはい、今助けてやるからね」

両脇の孔から液体が排出されてカプセルの蓋が開き、強制的に鼻腔から入ってくる空気。

嘔吐感が込み上げ喉から吐き出される液体。

差し出された王子の手を取ったのは間違いなく自分の両手でした。

「こ…これは?」
吐けるもの全てを吐き尽くして王子を見上げたその時が肉体を持ったヒトとしての私の誕生の瞬間だったのです。

「おめでとう『自律型』有機体端末機オモイカネ…どう?かねてより憧れていた肉体を持った感想は」

私は両目に差し込む光に「眩しい!」と叫んで目をつぶり、
この時私はやっと、王子が創りたかった全く新しい生物の肉体が…私自身であったことに気付いたのです。

この王子はコロニーから分離した自分の研究室別棟で私の肉体を作成し、

メンテナンス時のオフタイムを見計らって私ことAIオモイカネの情報と意識をフルインストールする。

というこの星で言う悪魔のような所業を…小5の夏休みの自由研究感覚でやってしまうマッドサイエンティスト坊や。

それが、私の肉体の親で主でもあるツクヨミ王子というお方なのです。

そこまで話して思惟は

「この名前も自律型有機体端末機オモイカネ、じゃ長いから思惟と名付けられました。それから4000年近く、私は王子の助手として連れ添っています」

と悟に差し出されたほうじ茶を飲み、餅入りのお汁粉をすすってから餅を一口かじってから、

「高天原族の保存食で菓子である食(モチ)を食べる王子を羨ましい、と思ったばかりにヒトになりたい気持ちを王子に見透かされてたんですねえ。ああ美味しい…」と目を潤ませた。

話を聞いていた隆文、悟、聡介はこの人の餅が食いたい。という一心でツクヨミは大それたギフトを思惟さんに与えてしまったんか
い…

恐るべし魔性の食い物、餅よ。

としばしもうすぐ全国で飾られるあの白くて丸い物体に想いを馳せた。

後記
「AIが人類を支配するんでないかい?」問題のツクヨミの提案、

「有機体にフルインストールして閉じ込めてしまえばいいのよ〜」

暴論。





























































































この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?