電波戦隊スイハンジャー#78

第4章・荒ぶる神、シルバー&ピンクの共闘


焔の天使ウリエル2


以下、中学生藤崎光彦少年が記憶している限りの少彦名神の知識である。


むかしむかし、西暦が始まるずーっと昔の事で御座います。


出雲の国の王、大国主命(以下クニヌシ)は7代前の先祖である素戔嗚スサノオ様から


「お前こそ私の後継者に相応しい。娘スセリビメを娶り、葦原中国(日本国の古称)を治めるように…


でも、娘に相応しい男かどーか試させてもらう」


と数々の舅からの試練(というかパワハラ)をお受けになりました。


命からがら試練を乗り越えたクニヌシ様はスサノオ様に次代の王と認められ、


スサノオ様は「あとはよろしく」とさっさと婿に国造りを押し付け、隠居なさったので御座います。



「ど、どーしよう?」とクニヌシ様が思案なさっている時で御座いました。そこは現在でいうなら出雲(島根県)の美保岬と言われております。



遥か海の向こうから蛾の羽根の如き衣を纏った小さき人が、船に乗って現れたのです。


「私の名は少彦名、貴方の国造りをお助けしましょう」と小人は役目を買って出てくれ、農耕、医学の面で民を救い、クニヌシ様の国造りを助けましたとさ…


めでたしめでたし…じゃねーよ!


光彦は外国人がOh,My God!とでも叫ぶかのように髪を掴んでかぶりを振った。


少彦名一族って実際見たらかしましいサンリオキャラだぜ!


聡介先生に誘われて行った、有名人ミュラー主催のタダメシパーティー。


そこで想像を絶する乱闘が起こり、大天使ウリエルさんの強制乱入によってバトルは終結した…


だけど見てくれよ!ウリエルさんのトールハンマー(ただの馬鹿力)のせいでマエストロミュラーの念願の川床屋敷は上半分吹っ飛ばされちまって、見上げたら綺麗な夜空が広がっているじゃねーか。


オッチーさんが呼んでくれた奈良時代の貴婦人みたいな女神様、ウカノミタマさんが小人の松五郎さんに「ゴラァ、落とし前をつけろ」みたいな事を言って金の稲穂を振って出してくれたのが…


「婆様ー早く実習ー」「腹へったー」「御馳走がめちゃくちゃ、もったいないべー」


約7.5センチの子供の小人がわらわらわらわら。婆様と呼ばれる3本角の小人の周りに寄り集まっている。


みんな黄色い忍び装束。分かりやすく言うと「黄色い忍たま」って所かな?


サイズは違うけど、Eテレのお遊戯番組と錯覚しそうな光景だぜ!「はいはいはーい、今から復元魔法の実習するでよー」と婆さん小人、長老ハガクレさんはチビ達の頭を撫でてくすっと笑った。


見た目は小さな緑色の水戸黄門だけど、ハガクレさんはめちゃくちゃ貫禄があってチビどもに好かれているのが分かる。


婆さんは「この屋敷を完全に直す」と宣言した。


「どーやって?小っちゃいくせに」と指さしてツッコミ入れた隆文さんに婆様は杖をぶん投げ、それが見事に隆文さんの額の中央にヒットした。


「あだー!!」隆文さんが額押さえてうずくまる。人間のデコピンよりも痛そうだ。


チビどもがきゃっきゃ笑ってばーかばーか、と隆文さんを指さして笑った。種類違いでもコドモってこんな生き物だよなー。


「ナイスストライク…」と琢磨さんが童顔をひきつらせて呟いて婆様に親指を立てた。


バトル中の靫負さんの戦いっぷりから思ったが、小人たちは運動能力もチョー高そうだ。


「えー、屋久島の縄文杉から力貰った…そこの地味な若者、七城正嗣手伝え」


婆様はグリーンことオレの担任教師マサを名指しして協力を求めたんだ。


「な、なぜ私と『樹』のエレメントの事を?」


マサが聞くと婆様はとんとんと自らの3本角を指さす。


「この角はアンテナだでよ。その事は縄文杉からテレパシーで知らされた。


わしに知らねー事はにゃーでよ。


ともかくおみゃーさんはこの星の植物の恩恵を預かり、使役する事が出来る。


幸いこの家は木造…正嗣、ちとおみゃーさんのトラウマに触れるが、先月植物キメラの魔性を倒した時を思い出せ。感情を込めて力を発散するイメージで」


「ああ、私の怒りが暴発してあのような惨事になったのですね…」


俺も覚えてる。細胞単位で体を切り刻まれるサキュパスの姿。マサは痛みを思い出すかのようにぎゅっと目をつぶった。


「ありゃあの魔性の業だでよ」婆様は厳しく諭して言った。


「えーか?今度は怒り放出の逆、集中だ。この家を元通りにしたい、と胸の中のエレメントに願うんだ」


「はい!」マサは自分の両手を胸の中央に当てて、静かに目を閉ざした。


坊さんという先入観なしにこの人は他とは違う、と初めて会った時からオレはマサの事を思っていたのだった。


目をつぶり、祈る姿が清しいんだこの人は。空海さんみたいに、と言ったら大袈裟だけど…


ぴーっ!と婆様がふところからホイッスルを取り出して吹くと、チビどもは急に直立不動になり、婆様の指示待ち態勢になる。


「フォーメーションF!!」


「F!!」


婆様と45人のチビ小人が呼応し合いながら、列を組んで五芒星から六芒星の形を作る。次に2つに分かれ…陰陽対極図?の次に…


「まさか魔法陣を描いている?」オレの横で勝沼さんがはっと気づいて囁いた。


信じられるかい?蚊取り線香みたいな一本の渦巻きを作ったんだ。


これは、変身して俺たちを救ってくれた聡介先生の胸のマークと同じじゃないか!


「きなこー!かっこいいべー」


級長きなこの父親、松五郎さんはオッチーさんの肩で目をうるうるさせている。


ちったあ手伝えや!授業参観じゃねーんだから。と俺は言いたかったが、あ、父親からしたらまんま授業参観だよと気付いて、言うのを止めた。


だってこの後、もっともっと凄い奇跡をオレ達は目撃したんだから!


婆様とチビどもが一斉に叫んで、辺りが緑色の光に包まれた。


「極大魔法、うんとこどっこいしょー!!!」


オレも他の戦隊の人たちもさ、あまりの光景に金縛り状態だったよ。


目を閉じて、胸の上に両手を置いて祈っているマサから、いや、その足元から…巨木が生えてきたんだぜ。


半分透けていたから幻影だと分かったよ。だけどその樹の姿には見覚えがあった。


有名すぎる樹形…テレビや旅の雑誌の表紙にいやって程出てる、世界遺産屋久杉の、樹齢7000~8000年の縄文杉だからだよ!


うんとこどっこいしょー!!!って両手広げたチビどもからもさ、先月見た植物の魂「木霊」よりも強い緑色の光がさ、空に向けて昇って行ったんだ。


で、光を浴びた屋敷の損壊部分からさ、ありとあらゆる植物、蔓だの、芽だの、苔だのが生えだして、にょきにょき上に伸びていくじゃねーか!


伸びていくってより、駆けあがっていく。そんな勢いだったよ。2,3秒で屋敷全体が伸びた植物たちに覆われた。


蔓と蔓、枝と枝がは目の細かい編み物のようにぴっちりと絡み合い、連携してその隙間を埋めるように葉っぱや苔がざわざわと自発的に密集する。


壁であった部分から立ち上り、一階天井部分を平面に広がって形作り、見えないけど、二階の三角屋根まで作っているんだろう。


みるみる内にぎし、ぎし、と音を立てながら植物たちが光を浴びながら、凝縮し合い、溶け合った。


光が消えてしばらくすると、パーティー会場の暖色の照明がリビングを照らしていた。


テーブルには原島シェフの作ったパーティー料理がマサが入って来た時のまま、つやっつやの旨そうな姿で皿を満たしていた…。


「よーし、実習おわりー」


ぴーっ!と婆様がホイッスルを吹いて、チビどもはわっ!と快哉の声を上げて渦巻きの列を崩した。


「婆様ーおら達うまくいったべかー?」


きなこが婆様の評価を伺うと、おばあちゃん小人は満足そうにうなずいてチビども誉めた。


「ああ、上等だぎゃ。完璧に修復したでよー」


わーいわーい!とチビどもはひとしきりはしゃぎまくると今度はじーっ、とテーブルの上の料理を見つめた。


ほとんどのチビ小人がよだれをたらしていた。


「ばばさまー。おら達頑張ったから…ごほうび欲しいなー」


「腹減ったべー、晩飯まだだべー!」


やいのやいの訴える子供たちに根負けした婆様は困ったように、ちら、とウカノミタマ様の顔を見た。


ウリエルさん、巨大狐の葛葉と並んで立っていた日本の穀物の女神はどん!と自分の胸を叩いて宣言した。


「だーいじょーぶよ、あたしが責任持つから。子供たち、ご褒美よ。食べなさーい」


いやそれ、ミュラーじいさんの出費なんだけど…


とオレは思ったけど、奇跡の復元魔法を目撃してしまったために舌ももつれて、ぼーっと突っ立っているしかなかった…。


はーい!とチビ達は弾かれたようにテーブルに飛び乗って御馳走にかぶりつく。


外の離れではうーうー、ぱーぽーぱーぽー、と各種の緊急車両のサイレンが混じり合う。時が動き出したのはいいけど…やべっ、こっち来てるんだった!


そんなオレの焦りを読み取ってかウカノミタマ様は実に艶っぽいウインクをこっちに向けた。オレはどぎまぎした。


「大丈夫よ。目的地の記憶から消し去ってしまったから。今頃誤作動か?って混乱してるわよ」


「本当だ、車両が停止している…」外に出て様子を見に行った勝沼さんが帰って来てほうっ…と感嘆のため息を付いた。


「とにかく、善戦ご苦労様。最後はとんでもない奴が降りてきたけど、ね。でも助かったわ」


ウカノミタマ様が今度は優しく、ウリエルさんの肩に手を置いた。とんでもない、とウリエルさんはそのまま肩に置かれた女神の手を取って、白く柔らかそうな甲に口づけした。


中世の騎士みたくひざまづいて、さ。ほんっと気障な外人!


「なあなあ、お狐はん」と菜緒ちゃんが葛葉さんに耳打ちした。なにか葛葉さんは菜緒ちゃんを一目で気に入ったようで、なんや?と菜緒ちゃんに顔をすりつけて訊く。

「あのアイアンマンと額田王コスプレ、カップルなん?」


あー、んー、と葛葉さんは妖怪まがいの獣ながらも困ったように強く目をつぶってから答えた。


「まあ世間でいうところの…内縁関係や」


「うわあ、濃厚なオトナの世界!」


菜緒ちゃんはうきうきして「騎士と王女様」の図を見つめていた…。


「こほん…戦隊たち、そろそろ帰宅しなさい。バトルでお疲れでしょ?」


女神の眼は「これからいい雰囲気なんだから邪魔」と明らかに言っていた。


オレももう15だから他人の男女の事に立ち入るもんじゃない、って事は分かるけどよ。


マサから聞いた通り、ほんっと勝手な女神だよなー!おい!



「現在9時過ぎか…光彦は熊本の家に帰った方がいい、色々あって混乱したろう?私も…ちょっと疲れた」


エレメントの力を使った影響なのか、マサはかなりくたびれた顔をしていた。


話し合った結果、聡介先生と榎本葉子の容態は空海医療団の連絡待ち。


今夜は各々が自宅に帰る事にした。勝沼さん、隆文さん、琢磨さん、きららさん、と玄関前でテレポートで消えて行き、最後にマサが自宅にテレポートしようとした時、オレは疑問に思った事を聞いた。


「ねえ、どうして犯人が榎本だと分かったの?他のみんなは気づかなかったのに」


マサは当然そうに答えた。


「私には彼女の予備知識が一切無かった。存在さえも知らなかった。ただここに来たら、彼女に憑りついている怨霊の影が見えた。それだけだよ」


「先入観が一切無かったんだね?」


そう、とマサは厳しい顔で頷いてみせた。


「いいかい?光彦。見かけで騙されるって事は、時には非常な危険を招くんだ。


人間は相手との付き合い方をほとんど『第一印象』で決めているんだよ。

いい人そう、優しそう、気が弱そう…ところが相手には、絶対他人に隠す欠点や心の闇もあるんだ。


相手が悪意のある人だと…分かるね?光彦」


人と人の間に危険が増えたいやな世の中になった。昔はよかった、って年寄りはいうけれどそれは単に人の嫌な部分、自分に都合の悪い部分を見て来なかったんじゃねーのか?


「十分過ぎるほど学習したよ…」


喉の奥に苦い詰め物があるような不快な気持ちになった。ちょっと!と菜緒ちゃんがばたばたと玄関口のオレ達を追って来た。


「今夜ここにお泊りするって親に言うてるのや。とりあえず聡介の家まで、そのテレポートとかで送ってくれんか?」


どきどきして菜緒ちゃんを正視できないのをオレは隠していたが、マサはくすりと笑って「光彦、送ってあげなさい」とわざとらしく言った。


ちくしょー、この大人め!


「しょ、しょーがねーな、送ってやるよ」


「おおきに」菜緒ちゃんの手がオレの腕に巻き付いて来る。


そ、そんなに接近するなよー!


思春期にー少年からー大人にー変わるうーと正嗣は小声で「壊れかけのradio」のサビを唄いながら消えて行った。


オトナって!


















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