電波戦隊スイハンジャー#33

第三章・電波さんがゆく、グリーン正嗣の踏絵

弘法大師の大秘術3

さあ、行くがよい。神々に選ばれし戦士たちよ!!

空海の心の声が6色の戦士たちに届いた。

「はいっ!」

「あの大鎌に刺されないで下さい、心を喰われます。髪の毛に気を付けて!!」

敵の魔性を取り囲むように着地した全員がグリーンの言葉に無言でうなずいた。

上空の穴の入口から、緑色の木霊の光がグリーンとシルバーの体全体を包み、体内に入って来る!

「疲れが癒えていく…木霊の力ってすげぇな…」

「ええ、それどころか覇気がみなぎってくるような…お言葉に甘えて休みましょう…」

「人質の身を考慮しつつ、今から一斉攻撃する」

自称参謀のブルーが指示した直後に両手のレーザーガンでサキュパスの髪全体に向けて連射した。

「うわぁっ、あの青いやつめちゃくちゃ撃ってくるぞ!あぶねぇっ!」

「ブルーの射撃能力はピカイチです。味方には当てません」

レッドがとんぼ返りをし、両手の鎌に電流を流して敵の髪を焼き切る。

「喰らえっ、敏鎌とがま戦法、風雷ふうらい!!(今思いついた技名だべ)」
ちっこい頃から稲刈りで鍛えた鎌技を思い知るがよい!!

「とりゃあああっ!!」
イエローが連続テレポートを利用した居合切りでうごめく髪をたたっ斬る!!

「脅威の4枚深剃り刃、『フローズン・ブレイクダンス』!!」

ホワイトのブーツ底からスケートエッジが現れ、両手の「広島名物合格しゃもじ」と両手足4枚の刃で踊りながら襲い掛かる髪を乱れ斬りにしていった。

「あの白いねーちゃん戦闘力ハンパねぇな!」シルバーは嘆息した。

「きゃはっ、ばっさり斬ったわよ、月に変わってお仕置きっ、ちなみにこの手つきはフレミングの法則よ!」

ホワイトはイメトレの成果の決めポーズを付けた。

嗚呼、ホワイトさん…相変わらず天然ぶりが眩しくて素敵です…。

イエローは剣をふるいつつも、ホワイトの雄姿に見惚れた。

「お主…呆けておるのか?」

イエローの心を読んだサキュパスがついツッコミを入れてしまった。

あの白いねーちゃん、ホントに大丈夫か!?

シルバーは前言撤回した。

時間にして4,5分の間に、4人の戦士はサキュパスの髪のほとんどを刈ってしまった。

おかっぱ頭にされた道化姿の童子が、鎌を持ったまま、蒼ざめて棒立ちした。

「ようし、HP、МP回復。俺たちもいくぜ」

「はい」

シルバーは銀色の杖、「喧嘩上等」を、グリーンは不動明王剣「倶利伽羅くりから」を、それぞれの色の光でギラつかせた。

「ええいっ!総攻撃などさせぬぞ!!」

サキュパスが自分の周りにバリアーを張った。

シルバーが思いきり杖を振り上げ、己の真空波を乗せてバリアーに斬りつける。

ぶんっ!!と空を裂く音が穴全体に響く。

「真空剣にバリアーが効くかよ!」

巨大な裂け目と共に、サキュパスの紫色のバリアーが2つに割れた。勢いで童子の顔面中心に切り傷が真横に入る。

傷自体は浅かった。サキュパスは自分の顔の傷に手をやった。黒い血液が、どくどく流れ出す。

「人質を返せ」

自分ににじりよってくる銀色の戦士の姿に、サキュパスは生まれて初めて「恐怖」という感情を覚えた。

「ま、まま待て!!我とそなたらの力で、世界にはびこる狂ったマスター(教祖)どもを殲滅しようではないか…

カルトが滅び、真っ当な信仰のみが残る…

人間が正しく生きる理想郷を作るのだ!…はは、ははは…」

それが、夢狩りサキュパスが、この世に生まれた目的なのだ。

それこそが、我を作った「マスター」が与えてくれた使命!!

自分の言葉に、サキュパスは酔いしれた。

童子の額が、細い光の帯で打ち抜かれた。

額の中央と後頭部から黒い体液が噴き出す。

「詭弁を弄すな、悪党」

ブルーがレーザーガンを構えたまま、怒りをこめた口調で呟いた。が、敵は倒れない。

「頭部は急所ではないのか!?」ブルーはたじろいだ。

「いいや、今の一撃で前頭葉を破壊された。もう超能力は使えない…見ろよ」

シルバーの言葉と共に、敵の大鎌を覆っていた紫色の光が消えた。

そして近藤兄妹を閉じ込めていたバリアーも消えた。

光彦は眠る妹を抱きかかえて逃げようとするが、サキュパスの鎌の刃先が目の前にある…

「武器はもう心を喰えないタダの鎌だ…

選べよ。人質を返すか、このまま俺たちにフルボッコにされるか」

シルバーがずかずかとサキュパスに歩み寄る。他のメンバーも、じりじり詰めてサキュパスを包囲した。

ええい!ならば…サキュパスは人質の子供たちに鎌を大きく振り上げた。

マサ!光彦は妹をと自分の頭を庇った。

「おまえ、俺のiphoneの曲口ずさんでたな。UKロックが好きか?」

「え?」サキュパスが一瞬、シルバーを見た。

「今だ!グリーン、思念波を放て!!」

ぐわあああぁっ、とグリーンの思念波がサキュパスを襲い、魔性の心は空になった。同時にシルバーの右手から真空波の輪が放たれる。

ぎゃあああーーーっ!!!

穴の底の中央で、両腕を切り落とされたサキュパスがのたうちまわる。

穴の側面に突き刺さった大鎌。その柄には童子の両手が握られたままであった…。

光彦は妹を抱きかかえて、目の前にいたシルバーの胸に飛びこんだ。

「よく頑張った。子供たち」シルバーは輝く両腕で光彦を抱きしめた。

「ありがとう、シルバーエンゼル…」

「シルバーでいい、エンゼルが付くとファンシーな感じで嫌だ」

この人、自分の呼ばれ方が気に入ってないんだ…光彦は吹き出しそうになった。

「とどめだ、グリーン。サキュパスの急所の心臓を貫け」

え?グリーンはひーっひーっと激痛で泣き叫ぶ童子を見た。

殺せ、と?

自分が握る倶利伽羅、龍が巻き付いた刀身の、緑色に輝く武器を見た。

子供を、殺せと?

グリーンの心は大きく動揺した。剣を持つ両手が震える。

「こいつは悪意ある者に創られた、ヒトと植物のキメラ体だ。

相手の心を破壊し、殺すでことしか生きられない哀れな生き物だ…

正嗣、破邪の剣で殺せ」

光彦がグリーンを見ようとするのをシルバーが強引に止めた。

「見ないでやってくれ」マサ?

仏の教えで生きてきた私が、子供を、殺せと?

グリーンはためらった。

出来ない…!!グリーンは剣を下ろそうとした。その時である。

よくも御山を汚したな、魔性。この島に、悪しき思考を広めようとした罪、赦さぬ。

聞き覚えのある声がグリーンのの脳内に響いた。

…この声は、エレメント『木』をくれた縄文杉!!

赦さぬ、赦さぬ…赦さぬゆるさぬ…

おびただしい木霊の緑色の光が穴の中に飛び込み、サキュパスを包む。

そして、サキュパスの全身が幾千を超える木の枝で貫かれた。

あーああああああーーーっ!!!

めりめりと、サキュパスの体が内側から細切れに裂かれる。

植物学者であるブルーは推察した。

エレメント『木』はおそらく植物を活性化させる力…

グリーンの感情のゆらぎでエレメント『木』の力が暴発し、植物とのキメラ合成体であるサキュパスの中の、植物細胞が活性化したのだ!!

サキュパス。アメリカで2つのカルト教祖と信者を28人殺し、来日して10人のネットユーザーを精神崩壊に追い込んだ悪鬼…

だが、生きたまま、全身を内側から裂かれるこの様は…あまりにも惨くて見ていられない!

これが因果応報…なの?

光彦は目の前のサキュパスに起こった惨事が信じられなかった。

グリーンとシルバー以外のメンバーが全員顔を背けた。

眼球から、鼻腔から、気管から…ゆっくりと身を裂かれる。

サキュパスは意識を失うことも許されず死ぬまで激痛に苛まれ続けるのだ。

こ…ろ…せ…。

唇の形が、そう言っていた。残った片目で、サキュパスはグリーンを見た。

赤い光は失せて、緑色の瞳から涙が流れた。

「殺せーーーっ!!」シルバーが叫んだ。

殺すことも…また、救いだと知れ。その者が望むなら…

その声はシルバーが発したのであろうかどうか。

グリーンが見たシルバーの背後に、不動明王像が見えた。

あぁ、ご本尊様。お大師様よ、これが、金剛杵だというのですね…

私のゆく道というのは…

「光彦、見ないでくれ」

光彦はうなずいて、シルバーの胸に顔を埋めた。シルバーが子供たちを強く抱きしめる。

サキュパスを貫く枝の束の隙間から、ピンク色の動く心臓が容易に見て取れた。

グリーンは頭上まで剣の柄を振り上げ、刃先を、深く心臓に突き立てた。

サキュパスの左目の瞳孔が大きく開く。もがく力が消え失せ、サキュパスはまぶたを閉じて絶命した。

大罪を犯した者の死に顔は安らかであった。

そして、サキュパスの骸が急速に炭化して、空中に散った。骸を裂いていた小枝も、倶利伽羅の刀身も消え、地面には木製の五鈷杵だけが転がっていた。

声にならない叫びを、グリーンは出し続けた。

月の光がグリーンのゴーグルを照らした。

ゴーグルの下の正嗣の眼から、涙が幾筋も流れていたのを光彦は見た。

マサ、泣いてる…。

何処からか、子供の歌声が聴こえた。

「祇園祭りのわらべ唄だ…」ブルーが言った。

雷除け火除けのお守りを うけてお帰りなされましょう

常は出ません 今明 明晩ばかり

御信心の御方様は うけてお帰りなされましょう

ろうそく一丁献じられましょう

厄除け粽 うけてお帰りなされましょう

ろうそく一丁献じられましょう …

地に刺さった鎌が月の光に照らされる。
切断された幼い両手がにぎられたままの…

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