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電波戦隊スイハンジャー#199 黙示録の始まり、煌めきの黄

第10章 高天原、We are legal alien!

黙示録の始まり、煌めきの黄

あの御方は我にとって
光であり
生きる指標であり
存在意義でした

かつかつかつ…
と彼女がヒール低めのパンプスの靴底で床を踏みしめる度にがコロニーの廊下に輝く足跡を点々と残し、やがてそれは光子エネルギー源となってコロニーのコア(核)に吸収される。

高天原先王イザナキ大王の抽出細胞と光子エネルギーの融合体である彼女が今着ている行幸用の臙脂色えんじいろのドレスから靴、装飾品に至るまで彼女が無意識に発するエネルギーを吸収してコロニータカマノハラに伝達するように作られているのだ。

いつもより丈が短く軽いドレスを着た彼女はご機嫌だった。久しぶりの行幸で傍らのウズメにしか聞こえないように鼻歌を歌いながら王室専用シャトルの昇降口に付いた時、

「お待ち下さい女王陛下」

と自分を引き止める声に立ち止まり、勾玉の飾りで束ねた銀色の頭髪をしゃらしゃらいわせて振り返ったアメノ王朝第85代目女王天照は、わずかに片方の眉を上げた。

「危急の用事でもないのに我を止めるか?ふうん」

と自分を立ち止まらせたアメノコヤネにわざと嫌味っぽい口調で天照は問いかける。

白銀の執務服に白いマント、右手には高天原族の王に直接意見出来る元老長の証である短い白杖を掲げたアメノコヤネはウズメ以外の側近を一時的に人払いしてから拝礼をすると…

「僭越ながら申し上げまするが、『後々のこと』について女王陛下は慣例通りに行わぬと仰せですか?」

といきなり慇懃無礼な質問をした。

「前にも言ったであろう?我は王配(夫)を持たぬし、子も生まぬ。後継は我が弟のオトヒコに決めた。それ以上何を求める?」

「では、もしもの時のために抽出子をご準備下さいませ。これは代々の王が必ず行うべき、と王室立法7条の1に明記されております」

女王と元老長の間に僅かな沈黙があった。それは数秒間の睨み合いだったが元老長の言うことは尤もだったので天照は「あいわかった」と幽かな溜息を洩らす。

「行幸から帰ったら抽出を行う」

と仰せになられたに女王に元老長が恭しく差し出したそれは、抽出用の長針と試験管。

「…今ここでやれと云うか」

「行幸の際に何が起こるかも分かりませぬので」

無表情でコヤネが告げると女王は再び「あいわかった」と言うと自らドレスの前をはだけて白磁のような肌や小振りな両乳房を露わにした。
そして受け取った針を己が胸骨の下から斜め上に向けて深く突き刺した。

針の先にとくん、脈動と熱さを感じたので
うむ、手応えあり。と女王が判断するとそのまま針を引き抜き、針先で輝く生殖細胞を培養液で満たされた試験管の中に収めた。

「宮中女官長立ち会いのもとこれで王位後継候補の抽出の儀執り行われました」

輝く試験管を収めた冷凍保存ケースを掲げて自ら服の前を合わせる女王から立ち去ろうとする元老長に
「ちょっと待ちなさいよ」
とマントの裾を踏んで止めたのは宮中女官長兼女王護衛のアメノウズメ。
私こそが天照さまの特別なのだ。
と言わんばかりに襟元から下腹までわざと切れ込んだ戦闘用ドレスを着て両乳房間にある渦巻状の痣を露出させている。
そのウズメが怒りで目を銀色に輝かせている。

「今度陛下のおみ肌を晒すような無礼をしたらその首飛んでるんだからね」 

そう言ってウズメは右手でひゅっと手刀を切る真似をしてコヤネの右頸部手前で止めた。

コヤネは薄く微笑んで一礼するとケースを手に足早に女王と女官長の前を辞した。

10年に一度の恒例行事である
素舞すまい
と呼ばれる高天原族の力比べ大会は武力自慢の出場者が他の出場者を捕らえて膝、胴体、手、頭部を地に付かせれば勝ち。という古来より伝わる極めて単純な競技である。

が、
宇宙最強の戦闘民族高天原族が体感15Gの高重力下で相手を追跡し合い、

退路を防ぐために家屋ほどの大きさの岩石を投げつけ合い、

互いの力の限りにぶつかり合う迫力は見たもの全ての血をたぎらせる程面白いので各選手に追跡ポッドを付けて撮影した画像が高天原族の配下の30星系に配信される程の人気イベントなのだ。

今大会が極めて重要なのは今年1800才の高天原族王弟オトヒコ王子が初出場なさっており、かつ最終決戦に残ってらっしやるからだ。

肌を保護するための羽の刺繍を施した銀色の戦闘服のオトヒコ王子がはしこくしぶとい黄色の戦闘服の相手の攻撃から逃れるために疾走はしり、その一歩ごとに脚が地面にめり込んで大地にひび割れを作る。

得物(武器)を使っての攻撃は禁止。

が試合の唯一のルールでありそれ以外は好きにしていい。
という事である。黄色い相手は容赦なくそこら辺で引っこ抜いて来た大木や大岩を振り上げてオトヒコ王子の前方に投げつけ、その度に大地が振動する。

マスクの下で笑った王子は目の前の落とされた巨大な障壁に怯むどころか前ならえ。の形で両手を組み合わせて衝撃波を放ち、悉く粉砕して出来た亀裂を走り抜けるのだ。

む〜…と業を煮やした黄色い相手は戦闘服の飛行モードを解除してから地上に降り立ち、障壁の横を全速力で走り抜けて「もういい加減決着を付けましょうよ」と王子の前に立ちはだかる。

二人が試合を始めてから48時間。この重力下では戦闘服の防護機能も限界だ。

よかろう、と王子は最後に残った決戦相手、アメノタヂカラオ将軍を前に立ち止まり、銀と黄色の戦士が正対するとふたりともやおらにヘルメットを取った。


「こ、これは今までの大会になかった光景です…!解説のタケミカヅチ将軍。選手がヘルメットを取るのは『あり』なんでしょうか?」

と実況役の高天原族女性オペレーターが隣の解説者であるタケミカヅチ将軍に尋ねると

「高天原族は宇宙のどんな環境にも耐えられる一族であり短時間ならばこの低酸素高重力の惑星でも『あり』です。というよりこれから本気を出すためにメットは邪魔でしょう」

「王弟殿下と最強を誇るタヂカラオ将軍の本気とは!?」

と煽るオペレーター。

見つめ合ってじり、じり…とにじり寄る若く美しい戦士二人。長い銀髪は重力でぺたりと背中に貼り付いている。

うおおおおっ!と掛け声を上げて先に王子に組み付いたのはタヂカラオのほうでがしっ!と肌がぶつかる音がしてオトヒコ王子とタヂカラオは広げた両手を組みあって膝から下を地面にめり込ませて力比べを始めた。

「こ、これは正式な素舞すまいの形…」

オペレーターが息を呑む横で高天原族最強を誇る二人が本気で戦えばどうなるのか?もしや。とタケミカヅチ将軍は試合ポッドから送られる生体モニタリングのデータを見ながら胸踊らせていた。

お互い真正面から握手するように二人は全力で押し合ってから10分近く経つ。王子とタヂカラオのこめかみには血管が浮き、戦闘服のあちこちが内側から膨張する筋肉で割れ始める。

やがて、口と目を大きく見開いて犬歯を生やし、高天原族戦闘形態に変じたタヂカラオの戦闘服の上半身が砕け散った。

「来たか…、お前の本気を待っていたぞ!」

こちらも戦闘服の背中を割って銀色のたてがみを生やし、同じく戦闘形態になった王子が力を振り絞りながら嬉しそうな声を上げた。

二人の素舞はまるで2体の直立する獣が組み合う様である。

「将軍、これは…?」

「いわゆる先祖返りです。高天原族はいわゆる母星で最強の動物、ラウ(狼にあたる)が進化して人型になった生き物。極限状態での戦闘下においてこのようなラウ化する事が宇宙開拓時代に時々あった。と文献には残っていますが…私も初めてお目にかかりました。驚いた」

うおおおおん!
わおおおおん!
と腰まで地にめり込ませて押し合う2人というか2体の長い素舞は体力尽きたタヂカラオががくり、と額を地に付け「…参った」と降参する形で決着が付いた。

緊張を解いた二人は徐々に獣型から本来の姿に戻って王子は疲労困憊のタヂカラオを地面から引き起こした。

途端に二人を取り囲んで試合を見守っていた数百もの観戦用クリスタル型パネルから、

王弟殿下ばんざい!
オトヒコ王子ばんざい!
タヂカラオ将軍よくやった!

と王子と右騎将軍の善戦を称える各星系からの歓声が沸き起こった。

試合会場の星から行幸用の宇宙船に移動したオトヒコ王子が姉の天照女王から花束を渡され、オトヒコ王子が撮影用モニタに向けてまだ1800才(地球年齢18才に相当)の天真爛漫な笑顔で手を振って歓声に答える。

その様子を執務が終わって自邸ユニットで寛ぎながらモニターで見ていたアメノコヤネは…

高天原族がこの銀河30星系からなる巨大国家を統べていられるのは宇宙創造神の子孫と言われる神秘性とそれを裏付ける圧倒的な戦闘力と、

星系民の王族への強い崇敬の念があるからなのだ。

この瞬間も第一王位継承者オトヒコ王子は全星系民の心を鷲掴みにしている。

後継である王子の支持が高いのはいい。
だが天照女王より支持が高くなるのも問題なんだよなあ。

「あなた、何をぶつくさ言ってらっしゃるの?家に居るときくらい執務の事を忘れてお休みくださいませ」

と彼の肩に手を置いてくれたの愛妻のワカヒルメ。彼女が持ってきてくれた器の酒を一口飲んだコヤネは「そうだな、非番の時くらいゆっくりしよう」とすっかり膨らんだ妻のお腹に手を触れた。

「もうそろそろ生まれそうだな。それにしても体に負担のかかる自然分娩を選ばなくとも…」

妻を心配するコヤネにワカヒルメは
「好きな殿方のお子がお腹にいる。という実感を味わいたかったのですよ」と柔らかい日差しのような笑顔で答えた。

アメノコヤネとワカヒルメ。

この夫婦は元老長と王族の衣装係という同じ王宮で働く者同士が惹かれ合って結婚し、結婚500年めにしてやっと自然妊娠で子を授かった。

それは性行為無くとも胸腺の生殖細胞から我が子を作る事ができ、人口子宮を使っての分娩が当たり前でそのため両性婚も自由な高天原族において極めて古風で珍しい夫婦のあり方だった。

あの頃
前時代的と呼ばれても妻の膝でまどろむ私は幸せだったのです。

たとえ長く続かなくとも。

後記
狼から進化した高天原族。リアリティ番組「ザ・大素舞決勝、オトヒコ王子(スサノオ)vsタヂカラオ」はこの日最高視聴率をマークした。
























































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