見出し画像

随想 #1

 3年前の豪雨災害で、築百年をこえた木造2階建ての一階部分が床上浸水、台所、押し入れ、納戸と書斎が浸かった。多くの友人たちの支援で暮らせるようになった。家具や家妻の衣類。、本箱、机、台所電気製品のすべてなど多くの書物とともに失ったが、体は無事で、亡父母の遺品など、ある意味で今流行りの断捨離と大掃除にもなった。家を修復してくださった西山さんのおかげで今は普通の暮らしがもどったが、残った書物は物置につめこんでも片づかなかった。最近、近所の大工さんに、書斎にしている東の四畳半に押し入れにはめ込む棚と窓の下に横長の低い本棚をつくってもらった。西山さんに、床の間に頑丈な見本棚を転用した書棚をとりつけてもらっていたが押し入れの中の本が整理できなかった。近くの自転車仲間の青年が手伝ってくれ、押し入れの本を一旦出して、棚を据え付け本を整理した。流された机のかわりにしていた、古い裁縫机の足のしたにコンパネでつくった箱を置き、椅子にすわれるようにもなった。コロナの変異株が蔓延し、どこにも行けないから本の整理はゆっくりできる。

画像1

本を整理していると、手に取っていなかった本が次々と見つかる。昨日は中学時代からの旧友K君の「歴史の中の民法 ローマ法との対話」と「民法学入門」が出てきた。K君の金沢大学時代には本多町の下宿に一週間近く泊めてもらい犀川周辺から浅野川のあたりまで歩きまわった。この本は彼が仙台の大学で教えている頃、鶴岡から仙台にまわり、大学を訪ねたときにもらった。今年、東京の私学を退職したばかりのK君に電話してひさしぶりに長話をした。おたがいの家族の近況を話し、昔話もした。預託法が話題になっているが、国会に参考人としてよばれているという。2度目だそうでYouTubeで一度目を見ることができるという。仙台で「権利のための闘争」を書いたイェーリングの正義に固執する生き方や末弘厳太郎の地主と小作人の権利についての考え方などについて聴いたことを思い出した。彼の民法学入門の帯には「民法解釈学」が単なる条文操作の技術ではなく、多様な価値感や感情を持った生きた人間の営みを対象にしている「人間の学」であるということを常に意識することができるなら、民法学は、より味わい深い学習対象となるにちがいないという彼の言葉が引かれている。読者である初学者に語りかけるだけでなく、彼自らが「人間の学」としての民法学に情熱を傾けたのであると思った。彼が話しくれた自衛隊員合祀事件の最高裁判決の少数意見についてのことなど、すっかり忘れていた。ノーマ・フィールドの「天皇の逝く国で」とともに再読したいと思う。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?