6.「農地や農道を外国人・外国法人に売るのは違法」なのか?
この章は少し真面目に書きます。私自身の情報整理と学習を兼ねています。
退屈かもしれませんが、よろしければご一読ください。
「日本人ですら簡単に取得できない農地や、市という公的機関が所有する農道を、外国人が買えるなんておかしい。違法行為や裏取引があったのではないか」
という意見を聞きます。
正直言いますと私も、農地はともかく市の道路を外国人に売却できるというのは、かなり意外に感じました。
この件について調べていて見つけましが、こちらの平野秀樹氏(農学博士)の解説記事や公務員総研の記事が、法律に疎い私でも比較的わかりやすかったので紹介します。
GATS(サービスの貿易に関する一般協定)
WTO(世界貿易機関)の加盟国はGATSという協定を遵守して国際取引をするよう決められています。
すごくざっくり簡単に言うと「商取引をする際には、自国民と他国民を差別することなく、平等に扱う」ということです。これは政府など公的機関も民間人も同じです。
WTO加盟国である日本ではこの協定に基づいて、外国人相手の場合も日本人相手のときと同じように、条件さえクリアすれば土地の売買は合法的に行えます。
WTOの加盟国は164カ国・地域、世界の大半が加盟しています。非加盟なのは北朝鮮のような閉鎖的な国家や、モナコやツバルといった小規模国が自国経済保護のため加盟を避けている例があります。
ただし、多くの国では協定内容をそのまま履行しているのではなく、軍事基地周辺などの土地購入を規制するなど「安全保障上の必要があれば外資への差別待遇を例外的に認める国際法上の規定」を適用した運用をしています。
上記のデータは2020年頃の記事のものであり、日本も2022年9月に重要土地利用規制法が施行されているので状況は変わっています。
そして農地についてはというと、フランスなどのように一定の条件があるものの、絶対に買えないというわけでは無いようです。
個人的には、日本もイギリスのように「土地の最終処分権を政府に帰属させる」という法整備はありだと感じます。きっと左翼の野党は猛反発するでしょう。
もし仮に日本が、外国人というだけで「農地の購入を一律制限する」となると、上の表では自由主義諸国の他の国の「△」よりも厳しい内容となり、中国の「×」に近づくことになり、自由主義社会の不興を買うことになると思います。そのような主張には私は参政…賛成できません。
農地法
農業委員会
とはいえ、「日本で農地を買う」ということは、外国人はおろか一般の日本人ですらほぼ出来ないことです。
それは、農地を売買・取得する際には、各自治体にある農業委員会の許可を得る必要があるからです。
当然ですが、農業をするといって購入後、マンションを建てるという非常識な使い方をされてはたまりません。そういった悪用を防ぐための制度です。
農業委員会を構成する農業委員は、その自治体内の農業者の中から、議会の同意を得た上で首長が任命します(以前は選挙制でした)。つまり、地元農家が「農地を買いたい」という人の申請内容を審議し、売買の許可を決定するしくみです。
これによって、土地の値段としては割安な農地が簡単に大量に売買されることを防ぎ、地域の農業基盤が著しく損なわれることをにブレーキをかけるのです。
具体的に、農地取得の許可を得るためにどのような要件があるかといえば、簡潔にまとめると以下のとおりです。
申請内容でこれらのことが認められれば、誰でも農地は取得できますし、それは外国人でも同じです。
ただし。
「誰でも」とは言いましたがそれは法律条文の建前でして、現実には、その地域に他所からやってきた人間がいきなり「農業やるから土地を売ってくれ」と言っても、審議する農業委員=地元農家の信用が得られなければ難しいと言うものです。
そのため、移住者が地域の草刈作業などに参加したり、地元農家で数年間研修を受けるなどして地域に溶け込んでから、親しくなった農地地権者のお墨付きをもらい申請するのが一般的です。
農地所有適格法人
前出の5項目のうちの4、「農地所有適格法人」とはなんぞや。
以前はこの項目は「農業生産法人」という名称でしたが、2016年の農地法改正で改められました。次の要件に当てはまれば、農地を取得できる法人と認められます。
これは概要なので、細かい規定については農林水産省のPDFを参照してください。
簡潔にまとめると、農業従事者など「農業関係者」が過半数の議決権を持ち、重要な使用人(農場長等の現場権限者など)が1人以上農作業をしている法人には、農地を取得する資格があるという仕組みです。
例えば、海外に住んでおり、出資はしたが一度も来日して農業に従事しない「出資のみの者」の議決権は、決して「農業関係者」の議決権を超えてはいけないのです。
ある政治団体関係者の情報
ここで、西条市内である政治団体支部の代表者がこの法人の議決権について述べた情報を参照します。
ここに書かれていることの真偽や、どうやってこの人物がE社の株式の内情について知り得たのかは定かではありませんが、51%の方に議決権がない、という状態ではそもそも農地所有適格法人になっていません。農業委員会の総会に於いて「農地所有の適格性も確認」されていたことと矛盾します。
さて、どちらが正しいのか。
私は、行政の側は勿論ですが、選挙で公人にならんとする政治団体関係者の方にも、その情報の真偽の程を詳らかにして頂く必要があると思います。
用途を廃した農道(法定外公共物)の売却プロセス
さて、農地は地権者たる民間人から売買で取得できますが、農地の周辺に張り巡らされた農道はどうなるでしょう。
これは農家が自分の農地の一部を歩いていているうちに道になったものでなければ、いわゆる里道という、市町村が管理する土地、「法定外公共物」になります。
参考までに、今回の農園の中の筆毎の旧農地境界を見ていただきます。
細かい農地がモザイク状に入り組んでいます。オレンジ色の線は農地境界ですがその全てが農道というわけではありません。
今回、農地の部分を全て地権者から買い上げたことにより、その農地の間を縫って走っている農道は道路としての役目を終え、「農地と一体化して利用しないと価値がない土地」と判断されます。そうなると、農道に接する隣接地の所有者に自治体が売却することは、農地を管理する土地改良区や周辺地権者の同意があれば合理的な対応と言えます。
随意契約は適切か
今回、「農道を一般入札にかけず随意契約にしたのは違反」という意見も見かけました。
西条市の規定によれば(第33条)財産の売払いは30万円を限度に随意契約は認められています。
もし30万円を超過した場合は(第33条の2)行政側は随意契約による締結をしなければならない理由を明確にする必要があります。
今回のケースでは、既に周囲の農地を一体の土地として利用する目的で購入した農業法人があるにも関わらず、その中に取り残された「農道として機能しない農道」を、複数の入札者を募って競争入札することは非合理的と判断されるだろうし、万が一農業法人以外の者が農道の土地を専有することになれば新たな紛争を生む可能性があります。
総合的に判断すれば、随意契約が適切であると、行政は判断したのでしょう。
ともかく、今回の件で唯一私も「これはどうなっているのか」と真相を知りたいところは、このあたりの行政執行の進め方です。市の説明があることを期待します。