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認知症の話2 感情は残る

認知症、とはなにかと考えると、やはりみなさん、思いつくのは「忘れる病気」ということでしょうか。

認知症の症状は大きく二つに分けることができます。

1つは"中核症状"。みなさんが思う、物忘れはこの中核症状の代表的なものになりますね。

つまり、中核症状というのは、脳の萎縮などによって生じる認知機能の低下、頭の中の変化のことです。物忘れ以外にも、日付や場所の感覚が乏しくなる、物と物の距離を正しくつかみにくくなる、思い出すのに時間がかかる、言葉が出てきにくくなる、といった変化があげられます。

もう一つの症状、というのが"周辺症状"と呼ばれています。

なにかというと、中核症状が頭の中の変化そのものだとしたら、周辺症状というのは、脳の変化+周囲の環境の影響で生じる症状です。

そして、周囲の人が頭を悩ませやすいのは、この周辺症状なのです。

例えば「怒りっぽくなった」「不安がって一日に何度も同じ内容で電話をしてくるようになった」「なんでも被害的に捉えるようになった」といったことはありませんか。

皆さんのお話を聞いていると、物忘れも困ってしまうけど、それ以上に認知症の方本人の感情の起伏やマイナス思考に対応することがすごく難しい、ということがよくあります。

周辺症状が生じる理由は様々で、体の不調ですとか生活リズムが乱れていることですとか、いくつかあげられますが、周囲の人の対応を変えることで改善されるものもあります。

ひとつ例にだしてみると「怒りやすさ」です。

中核症状として物忘れがあるので、よく同じことを聞いたり、何度も同じことを言うことがあります。

このときに、毎回周りが同じように答えればご本人は納得するのですが、それは、とても難しいことですよね。

同じやりとりをするって結構疲れます。
だいたいの人はぐったりします。
それでも容赦なく「○○って、どうしたんだっけ?」「○○しなさいよ」等々、同じやりとりを繰り返されれば、誰だって怒りたくなります。これってすっごく普通なことです。なので、周りの人も、怒りたくなっても自分を責めないでください。

多分、「もう、それさっきも言ったじゃん!!」「何回も聞いたよ!!」と声を荒らげてしまうことがあるかと思います。
ぐっと堪らえてつつも、ぶっきらぼうな答えていたり、もうそれ以上話したくなくて本人を避けることもあるかもしれません。

そうすると、認知症本人はどうなるかというと、とにかくびっくりしてしまうのです。

なぜなら、初めて言ったはずのことをつっけんどんに返事をされたり、身に覚えのないことを「さっきもやったでしょ!!」と怒られたり、なにも失礼なことをしたわけではないはずなのに、急に相手が余所余所しくなるからです。

びっくりするでしょうし、だんだん腹が立ったり、悲しくてたまらなくったりしてしまうのです。

そうすると徐々に周辺症状が生じるリスクが高まってきます。常に否定されたり怒られたりするストレスから「怒りっぽさ」が増していくのです。

周囲からしたら「忘れてしまっている」「思い込んでいる」ことが、ご本人にとっては現実なので、それを頭ごなしに否定したり怒ったりすることは、ご本人が傷ついてしまうことなのです。

何度も同じことを言われることに対して、どうすればいいか。

内容にもよるのですが、基本的には"否定も肯定もせず受け流す"ことが、周囲にとって一番楽な方法で、ご本人にとっても嫌な刺激が少ないと考えられます。

例えば「さっき、こんなことがあって困ってしまった」と何度も繰り返されるとします。

そこで「そんなこと起こってないでしょ!!」「さっきも聞いたよ!」と返すことは、ご本人への長期的な影響をみると逆効果です。

「そんなことがあって、困ってたんだね。」

その一言だけでも、大丈夫です。

過剰に相手を肯定しているわけでもなく、かといって否定もしていません。

ただ、ご本人の事実を受け取って復唱しているだけです。

それだけでも、ご本人にとっては「話を聞いてもらえた」と安心できるのです。

場合によってはそれだけでは対応が難しいことがあるかもしれませんが、基本的には、ご本人の世界を否定しないこと。

認知症になったからといって、なにもわからなくなるわけではありません。

誰しも同じように、感じる心は残るのです。

ご本人の世界を否定しないことは、ご本人の安心にも繋がりますし、周辺症状を助長しないという意味では、周囲のケアが劇的に楽になることがあります。

ご本人の話す内容が事実と異なる部分があったとしても、自傷他害などの問題がなければ、訂正する必要はありません。

少し、肩の力を抜いてみてくださいね。

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