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EP004. 出産よく頑張ったね、お疲れさま

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「…い…痛いぃ…」

こんなのとても我慢できないよ。

「これが…陣痛なの…?!」

まるで全身のエネルギーが子宮から溢れ出しているような凄まじい痛みだ。
世の中の妊婦は、みんなこんな痛みに耐えているのか?

出産の心得は病院で教えられていたからイメージはできていたつもりだったけど、実際に経験すると想像以上の痛みにどんどん不安になってくる。陣痛の間隔が短くなってきたので、たまらず病院に電話した。

「ベッドを準備しておきますので、落ち着いてご来院ください。」

急いでタクシーを呼び、夫に連絡した。

「産まれそうだから病院に行くね。」

転職したばかりで仕事が大変な時期なのに、彼はすぐに駆けつけてくれるという。私には出産に立ち会ってくれる人が彼以外にいないからだ。

実家にはもう何年も連絡していない。結婚以来一度も。
両親の反対を押し切って入籍し、結婚式は挙げていない。
「いつか自分たちが成長し両親に認めてもらえたら挙げよう」と彼とは話しているが、きっとまだまだ先のことだろう。

そんな経緯があったので、彼の両親ともうまくいっていない。私をかばった彼も両親と疎遠になってしまった。

そういう訳で私たちは孤立している。でも後悔はない。愛する人と結婚できたし、間もなく新しい命も誕生する。孤立している分、心の繋がりが強い。親とはうまくいってなくても、この上なく幸せだ。

いつ陣痛が起こっても大丈夫なように必要な荷物は準備していた。
私は荷物を持って、痛みに耐えながらも迎えに来たタクシーに乗り込んだ。

病院までは車で15分ほど。
途中で一度陣痛が来たが、何とか耐えて病院まで辿り着いた。

ほどなく彼は現れた。
大波のように一定間隔で襲ってくる陣痛に苦しむ私を優しく介抱してくれる。
お腹や背中をさすってくれるが、実は全く効果がない。彼が悪いわけではなく、それほど辛いのだ。
でも彼の思いやりに癒され、痛みの中でも心は落ち着いていられた。

そうこうしていると分娩室に運ばれた。いよいよ出産だ。
繰り返す痛みと分娩室の雰囲気に、落ち着いていたはずがまた不安が増して来た。彼はすぐ横で私の手を握ってくれている。
繰り返しとてつもない痛みが襲ってくる。

無我夢中でいつ産まれたのかも分からない。
ただ間違いなく想像を絶する痛みだったことだけははっきり覚えている。
後から聞いたのだが、先生の話では安産だったらしい。
難産だったらどうなっていたんだろう。

産まれてきたのは男の子。私たちの長男だ。
看護師さんが抱いて長男の顔を見せてくれた。

真っ赤な顔をした男の子。お猿さんみたい。でも、死ぬほど可愛い。
自然と笑みが漏れる。見れば見るほど愛おしくなる。不思議な感覚だ。

「出産よく頑張ったね、お疲れさま。」

我が子を見つめて微笑んでいる私の手を握り、優しく頭を撫でながら彼は言ってくれた。

その言葉で疲れが吹っ飛ぶ気がした。
大変な思いをして出産した甲斐があった。
いろんな事があったけど、孤立しているかも知れないけれど、大切な家族が一人増えた。仲間が増えた。

「うん、私、頑張ったよ。そばにいてくれてありがとうね。」

いつかきっと親たちと分かり合える日が来る。

「私たち、胸張って幸せな家族だと言えるようになろうね。」

その日を夢見て、家族三人で幸せを積み上げていこうと二人で誓い合った。

それにしても本当によく泣く。
とても元気で大きな泣き声。
そんな大きな泣き声だけど、幸せな未来を見ている私たちには心地良かった。

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