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EP001. 髪切ってさらに可愛くなったね

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日曜の夜は寝る前に、翌朝着ていく服を準備するようにしている。

朝目覚めると、濃いめにコーヒーを淹れて、ピカールの冷凍クロワッサンをオーブンで焼く。身支度を終えたらバルコニーへ出て、眼下に広がる公園を眺めながら朝食を楽しむ。

それが私のモーニングルーティーン。

と言うのはあくまで理想。
月曜の朝はいつも寝坊してしまう。
朝食は摂らずにメイクだけなんとかしてギリギリのバスには乗れたけど、今日も漏れずに遅刻寸前。
バスを降りると全速力で走って職場に駆け込んだ。

「おはよう!」

あ、先輩。
彼はイケメンで社内でも人気の先輩。憧れの先輩。
この先輩だけには女性らしい自分を見せたいのに、慌てて出社したときに限って毎回出会ってしまう。

「おはようございます!」

照れ隠しに元気よく返事をした。

「あれ?髪切ったの?」

そうだった。
昨日はいつものヘアサロンで、あの女優さんに似せたヘアースタイルにしてもらったんだった。朝のドタバタですっかり忘れていた。

「あ、はい! 分かります?」

「もちろん、すぐに分かったよ。」

先輩は微笑みながら、落ち着いた声で言ってくれた。

髪の変化に気付いてもらえたなんて。
でもそう思うと、とたんにどう思われているかが心配になってきた。
良い印象をもってくれてるのだろうか?

「あのー。似合ってます?」

なんてことだろう。
苦し紛れとは言え、とんでもないことを聞いている自分に気付く。

「髪切ってさらに可愛くなったね。」

びっくり!
想像もしていなかった言葉に、私はもう舞い上がるしかなかった。
憧れの先輩に「可愛い」なんて言ってもらえた!

先輩はそんな私を置いてミーティングルームへと消えて行った。

「お褒めいただきありがとうございます。」

先輩には聞こえない声で呟きながら、その嬉しさを最高の笑顔に込めて、見えなくなった先輩の背中に向け、そっと投げた。

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