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自然保護って何かを考えた

先日、知人の誘いがあって野生動物対策の会合に参加してきました。野生動物といっても、私自身は詳しい人間ではありません。ではなぜ素人の私が呼ばれたかというと、知人の一言があったからでした。

以前、ここで今私が取り組んでいる利府トレイルプロジェクトについて書いたことがありましたが、その説明会に野生動物対策アドバイザーである鈴木さんが来られ、「この問題とトレイルはすごく親和性があるので今度の会合に登壇してほしい」と言っていただいたのです。(その時の記事はこちら)

私自身は寝耳に水で、そんな専門的な会合でど素人の自分が話しても…と気が引けたのですが、せっかく自分の活動を紹介する機会でもありますし、知らない分野を知れるきっかけにもなるので、快くお受けすることにしました。行き先は色麻町です。

野生動物対策の今

野生動物にとって、人間の里に降りてきたり、畑を荒らしたりするのは、別に悪気をもってやっているわけではありません。しかし、人間側からすると、やはり人間の命を危険に晒したり、せっかく自分が作った農作物などを荒らされるのは困ったものです。こういった被害は、人間と動物の住む境界があいまいとなり、棲み分けができなくなっていることが主な原因ですが、日本全国で問題になっている昨今においても、なかなか自治体主導で事に当たる状態にはなっていないようです。

今回会合に集まったのは7人。会場となった色麻町の担当課と前述した鈴木さん、そして色麻町を含む地域おこし協力隊のメンバー4人と私でした。ちいおこのメンバーは、色麻町以外だと、山形県の天童市、上山市、南陽市になります。このちいおこのメンバーが地元の農家や猟友会と連携し、柵を設置したり、休耕地の状況調査などを行っています。

ちいおこのメンバーがそれぞれの活動を発表した

聞くところによると、宮城県と山形県では、これで全部なのだそうです。つまり、宮城では色麻町だけ、山形だと上記三自治体、この四箇所のみが自治体主導で取り組まれている場所だと知りました。「意外とこじんまりした会合だな」「もっといろんなところが参加すればいいのに」なんて思ったのですが、そういう事情があったのでした。

ちなみに、それ以外の地域だと、農家から打診があったときに、柵の設置の仕方をアドバイスしたり、設置費用としていくらか補助金をつけるなどの対応をするのが基本で、あくまで野生動物対策の仕事は農家さんという立場のようです。この辺りのことは、HPでより少しだけ詳しく書いたのでこちらもご覧ください。

罠の設置から考える

さて、午前中の会合を終えて、午後はの設置でした。地元猟友会のメンバーと合流して作業を進めます。基本的に猟友会は農家の方でもあります。

罠の設置の様子。またとない経験をさせていただいた。

前述しましたが、彼らにとって、野生動物被害は現実的な問題です。せっかく作ったものが食い荒らされ出荷できなくなったなんていうことになったら生きていけません。そういう超具体的な問題として、彼らには突きつけられています。なので、食い荒らしに来る動物が罠に引っかかっていたり、何度も悪さをしていた相手をようやく見つけて銃で仕留めたりすると心から喜びます。良い悪いではなく、そのような世界で生きているのです。

自然保護とは何なのか

私は2020年にみちのく潮風トレイルを歩いてから、この三年間いわゆるトレイル業界に身を置いていました。国内に限らないことですが、トレイルはいわゆる自然保護を出発点としています。

日本の代表的なトレイルである信越トレイルやみちのく潮風トレイルは、どちらも故加藤則芳氏が提唱して始まりました。加藤氏は自然保護思想家です。北米で自然のウィルダネス(wilderness)を一番感じられると言われているジョン・ミューアトレイルも、自然保護思想家のジョン・ミューアの名にちなんでいます。とかくトレイルは自然保護思想と結びつくのです。

さて、この自然保護という言葉は非常にやっかいです。衣食住といった人間が生きていくのに必要不可欠なものはすべて自然を壊して成り立っているのですから、これを前提としない、あるいはこれから目を離す自然保護というのは、聞くに値しません。なぜなら自分の生活が自然を壊して成り立っていることを直視できていないのですから。

一方で、動物の乱獲やあまりにも開発が過ぎるといった場合は、自然保護という言葉が意味を持つようになるでしょう。結局、人間と自然というのは、その関係性の中で、どう開発と保護の折り合いをつけるかということが重要になります。開発が正義でもなく、保護が正義でもありません。そのバランスを取るのが人間の知恵であるべきなのですが、思想となるとそのどちらかに偏ってしまいがちになるのが人間の悲しい性です。

自然保護思想から見たとき、イノシシを撃ったり、山に柵を設けるのは許されることなのでしょうか。またウィルダネスの考えに立脚したとき、野生生物対策はどう見えるのでしょうか。自然保護を出発点とするトレイルは獣害対策を敵と見なさなくてはいけないのでしょうか。(続く)