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キリ® クリームチーズ導入の経緯

「これまで経験のないことに挑戦したい」
そう思ったのは、ふとした瞬間のこと。
普段の業務をただこなすだけではなく、何か新しいステージに進む必要があると感じていたのです。
僕の中にあった漠然とした思いが、昨年10月、「kiriクリームチーズコンクール」への挑戦を決意させました。

キリ® クリームチーズコンクールは、キリ®を使用した魅力的な商品をご提案いただく、プロフェッショナルのためのコンクールです。「キリ® クリームチーズの味がよく出ていること」を重要な審査基準とし、より多くの皆様にキリ®のおいしさが伝わるような魅力的な作品を期待しております。
今年はキリ®が日本で発売されて40周年を迎えます。また、今回より新たにデリカテッセン部門を設立し、お菓子の枠を超えクリームチーズの可能性を広げていただきたいと期待しております。

第15回キリ® クリームチーズコンクール

挑戦のきっかけは予期せぬものでした。Instagramをパラパラと眺めていたある日、偶然目に飛び込んできた「kiriクリームチーズコンクール」の募集。エントリー締め切りのわずか10日前。
「これだ!」と思う一方で、「間に合う?」
これまでコンクールなどやったこともない。そう、僕はコンクール素人。
感情が激しくひしめき合っていました。けれどもやっぱり、心の中で鋭い興奮が躊躇を貫きました。すぐにエントリーの準備を始めることに。

応募条件
作品にはキリ® クリームチーズを使用し、他メーカーのクリームチーズを使用しないこと。作品は未発表のもの、または、2023年に新商品もしくは新メニューとして発売されたもの。最終審査に進出した場合、10月4日(水)の最終審査及び表彰式に出席すること。商品の実現性・普及性・市場性・品質と価格のバランスも審査対象となります。

第15回キリ® クリームチーズコンクール

音速で作品を考え、試作を繰り返す。
20歳の新卒スタッフに「チーズの味がしないです」と指摘され、また試作を繰り返す。
納得のいく作品が出来上がると次は書類作成。写真はInstagramを頑張っていたので得意でした。
ケーキの断面図はイラストにしようと考え、自粛期間に購入した、iPad AirとApple Pencilの登場。当時、狂ったようにProcreate(イラスト作成アプリ)でお絵描きした経験がここで役に立つとは。
急いでローソン千代田富士見2丁目店で写真を現像。完成した書類は締切1日前に麹町郵便局から速達で郵送。

審査方法
最終審査では製作時間3時間内に、ホールケーキサイズの場合6個、プティガトーサイズ(ポーション)の場合40個を製作。
キリ® クリームチーズの味が良く出ていること。
書類審査
8月上旬 (8月下旬までに書面にて結果をお知らせいたします)
最終審査
①実技審査3時間 ②プレゼン2分・試食 プレゼン対象:パティシエ審査員

第15回キリ® クリームチーズコンクール

1ヶ月後、予選通過の電話を受け、ヒャッホーイwwwwwwwww。

書類選考を通過するために、写真の美しさやイラストの完成度が重要だと考えていました。選考において視覚的なインパクトは、第一印象を大きく左右するからです。
写真が美しく撮影されていれば、作品のディテールが際立ち、より深い印象を与えることができます。また、イラストが丁寧に仕上げられていれば、デザインの意図やコンセプトが審査員に明確に印象づき、制作への真摯な姿勢を伝えられます。
結果的に、作品そのものの魅力が最大限に引き出され、数ある応募作品の中から審査員は僕の書類を手にしたのです。おそらく。

書類選考通過にはしゃいでいた僕ですが、喜びも束の間。いざ実技審査に向けての準備に入ると、想像以上の困難が待っていました。
練習を重ねる中で、自分の理想と現実のギャップに悩む日々が続くことに。完璧に仕上げたつもりの作品も、時間内に作業を終えられない。普段やり慣れた厨房で間に合わないのに、審査会場で審査員に見られる中、間に合うはずがない。焦りしかありません。それでも何度も悩みながら練習を繰り返しました。材料の配合や手順を見直し、なんとか間に合わせようと必死に。

実技審査の会場と同じ環境を自分の厨房で作って練習する。

餅は餅屋。
コンクールに出場しないと幻覚症状が出てしまうコンクール依存症のパティシエを一人知っていました。彼とは共に働いたことがあり、現状を伝えアドバイス請うことに。そんなコンクール素人の僕を見かねた彼は、お店に来てセッティングを見直してくれました。時間配分のコツ、審査員の視点など、聞けば聞くほど役立つ情報が溢れていました。その後のLINEのラリーも日々、何時間にも及ぶ果てのないものでした。

僕:
「ボールの代わりにプラ容器使うのあり?
 洗い物しんどい、、、」

コンクール依存症:
「プラ容器にして捨てる感じですか?」

僕:
「そう!」

僕:
「エコじゃないけど」

コンクール依存症:
「新しいwやったことないですw時代に反してますが
 早いですねw帰る時も楽だし」

僕:
「中沢のドゥーブルと、うめはらのコンフィ
 容器がむっちゃあってちょうどいいの😆」

コンクール依存症:
「あーーそれはアウトです!笑」

コンクール依存症:
「材料のパッケージ系はアウトです!」

僕:
「シコリータッパーもダメ?」

コンクール依存症:
「タッパー買うのはいいけどそういう使い回しはNGですね」

コンクール依存症:
「企業ホテルは基本そういうタッパーの使い回し自体
 アウトなのであまり印象よくないです!」

僕:
「聞いといてよかった😆」

コンクール依存症:
「いやよかったです😂」

実技審査において効率を上げるために「洗い物を減らす工夫」について話し合っている様子です。実技審査では効率化が重要である一方、衛生面やプロとしての印象管理も同じくらい大切だと実感しました。効率だけでなく、審査員の目やコンクールの基準を考慮しながら準備を進めることが大切です。

教えてもらったiPhoneタイマーのラップ機能
工程ごとにラップを刻み、終了後確認してペース配分を調整することができます。

実技審査では、アテスウェイ (a tes souhaits!)、YUJI AJIKI、そしてホテルグランヴィア大阪のパティシエたちと対戦することになりました。。
これら名店の知名度は、ファッション界でのココ・シャネル、クリスチャン・ディオール、アレキサンダー・マックイーン。テクノロジー界でのビル・ゲイツ、マーク・ザッカーバーグ、ジェフ・ベゾス。エンタメ界でのNARUTO、鬼滅、進撃のような存在です。
圧倒的な影響力を誇り、誰もが認める名店からの精鋭たちでした。

エリートだらけ

僕:
「対戦相手決まったよー」

コンクール依存症:
「おーおーおーおー
  完全にあとは味ですねこれは」

僕:
「そう!」

コンクール依存症:
「ゆうじあじきとグランディアは
  まあその時の運ですね
  アテスウェイは確実にうまいもの
  作ってきますね」

コンクール依存症:
「グランディアもコンテスト慣れしてますね」

コンクール依存症:
「アテスウェイ2人も出るのか」

コンクール依存症:
「すごいですねw」

コンクール依存症:
「あとはその時の審査員の好みも
  あるので運ですねw」

コンクール依存症:
「キリのチーズ味がちゃんとでてたら
  勝てます」

僕:
「・・・」

そんな名だたるパティシエたちと肩を並べて競うことは夢のようでした。同時に強烈なプレッシャーも感じました。彼らは業界で長年のキャリアを積み重ね、数々の実績を残してきたプロフェッショナル。対して、僕は初めてのコンクール。たくさん練習を重ねてきても、やはりその名声に圧倒されてしまったのです。
けれど、僕が大切にしていたのは「これまで経験のないことに挑戦したい」という想い。名店のパティシエたちと対等に戦う機会を得たことで成長できると信じ、全力を尽くすしかありません。

審査会場の日本製菓専門学校

いよいよ本選当日。緊張と興奮が入り混じる中、僕は実技審査に臨みました。審査会場はまるで大舞台に立っているかのような雰囲気。作品を作るだけではなく、一つひとつのアクションが審査の対象になる、そう感じました。

審査員は業界のトップに立つ著名な3名のシェフたち。僕が学生の頃からその知名度はすでに高く、多くの影響を受けてきました。
シェフたちの技術や美学は当時から憧れでしかなく、出版された書籍も手元に揃えて熟読していたほど。そのシェフたちの前で、自分の作品を評価してもらうことになるなんて、当時の自分では想像もできなかったことです。
俄然気合が入るのでした。

持ち込み機材の一部

実技審査会場は普段の厨房とは全く異なる環境でした。
中でも苦戦を強いられたのはオーブンです。いつも使っているコンベクションオーブンではなく、慣れない平釜オーブンを使用しなければならなかったこと。事前の打ち合わせで、僕を含めコンベクションオーブンを使用したい選手が定員を超えたため、僕は他の選手にそれを譲りました。「これで勝った方がカッコいいだろ」という安易な考えで。浅はかでした。
普段オートマ車を運転しているのに、マニュアル車に乗せられて運転を求められるようなものです。温度の調整に苦戦、生地が全然焼き色つかなくて驚きました。思うように進まず焦りが募る中、手探りで作業を続けることに。
ちなみに僕はベテランペーパードライバーです。

競技に真剣なベテランペーパードライバー

通常の倍の時間かけて生地を焼き上げると、さらに競技中、思わぬアクシデントが発生しました。持ち込みのキッチンスケールがまさかの電池が切れ、計量ができなくなってしまったのです。こんなことある?
予備など用意していないので、審査員たちに悟られないよう計っているふりをしてしのぐことに。内心は焦りでいっぱい、その状況をなんとか冷静に対処し、目分量で調整しながら作業を続けました。このようなトラブルも、予期せぬ場面での対応力を試される試練と解釈しました。

完成した作品
本当はタルト生地に大きなが穴が点在していましたが
カメラマンさんにお願いして編集で修正してもらいました

実技審査終了。3時間の審査は体感3分でした。目まぐるしく時が流れ、あっという間の出来事でした。何より無事、時間内に競技を終えたことにホッとしました。
束の間の安堵の後、いよいよプレゼン試食です。どのような反応をいただけるかと期待していましたが、審査員は厳しい表情。そして、コアントロー(オレンジリキュール)のジュレについて「辛さが強すぎる」と指摘をいただきました。このジュレは濃厚なクリームチーズのアクセントとなり、全体のバランスを取るための大切なパーツだったのですが、裏目に出てしまったようです。この指摘にショックを受けましたが、ジュレを取り入れた意図がうまく伝わらなかったのだと反省し、冷静を装いプレゼンを続けました。その後もコアントロージュレのような辛口コメントが続きましたが、怯むことなく最後までプレゼンをやり遂げ、なんとか全ての審査を終えることができました。
評価が期待通りでなかった悔しさは残りましたが、これも成長の過程だと自分い言い聞かせ、審査会場を後にしました。

表彰式の会場は恵比寿のウェスティンホテル東京。
審査会場と表彰式の会場が別々に用意されていることからも、このコンクールの規模を実感しました。小さなイベントではなく、格式と歴史のあるコンクールなのだと。
審査会場から各々移動して会場に向かいました。タクシーで向かう選手もいましたが、僕は一人電車で向かうことに。審査会場の上野毛駅から恵比寿駅までは30分。落ち込む時間が必要でした。道中足取りは重たく、乗り換えの中目黒駅に着くと、ホームのベンチに腰を掛ける。10分ぐらい。日比谷線に乗り換えると恵比寿まで一駅。あぁ、億劫だ。

会場に着くや、松本浩之シェフとばったり遭遇しました。業界の大御所である松本シェフは、このコンクールのデリカテッセン(惣菜)部門の審査員長を務めており、僕にとって雲の上の存在です。僕のお店に足を運んでくださったことがあり、その際に少しだけお話ししたことがありました。軽く挨拶を交わしながらも、心の中では緊張が走りました。結果発表前でしたが力を出しきれなかったことを伝えると、励ましの言葉をかけ鼓舞してくださいました。その言葉に救われたのです。
表彰式まで少し時間があり、控え室で他の選手たちと雑談をする機会がありました。全員、今朝顔を合わせたばかりの初対面でしたがすっか意気投合。コンクールの準備の苦労話や裏話、エピソードをたくさん聞かせてもらいました。同じ目標を持つ仲間たちとの交流を通じて、刺激を受けると同時に多くの学びがあり、有意義な時間を過ごすことができました。いつの間にか沈んだ気持ちもすっかり開き直り、心が軽くなっていく。

各部門全員集合
貴重なお話をたくさん聞かせていただきました

いよいよ結果発表の時間がやってきました。審査員の総括を聞きながら、心の中では最優秀賞、銀賞、銅賞のいずれかが発表されるのを待っていましたが、案の定、これらの賞には選ばれませんでした。力及ばず。

しかしその後、新たに設けられた「Z世代が選ぶベストスイーツ賞」のサプライズアナウンスがありました。会場もどよめき、「なにそれ?」みたいな空気。これは今回のコンクールから新たに設けられた賞なのだとか。「Z世代が選ぶベストスイーツ賞」は、3校の専門学校から選ばれた学生の精鋭たちが、各部門の作品を試食し、一番美味しかったものに投票して決定される賞です。

なんと、ここで名前が呼ばれ賞に選ばれました。

嬉しさと同時にほっとした気持ちが込み上げる。自分のこれまでがなんとか形となり、評価され、感謝の気持ちでいっぱいでした。

興味深かったのは、他のファクトリー部門、デリカテッセン部門では審査員が選んだの上位入賞作品とZ世代が選んだ作品が重複していたのですが、生菓子部門では一致していなかったことです。
審査員の選定と若い世代の評価が明確に分かれていたことで、自分の作品が持つ独自の魅力が際立った気がして自信を持てました。

生菓子部門 最優秀賞
生菓子部門 銀賞
生菓子部門 銅賞

僕:
「いやー、ダメだったー!申し訳ない!
  入賞ならず」

コンクール依存症:
「いやーおーー疲れさまでした!
 他の方のケーキ食べれましたか!」

僕:
「食ベたよ、キリの味してたわ!」

コンクール依存症:
「自分のやつよりキリ味でしたか!?」

僕:
「完全にキリの味だった!
  1位はブルーベリーで、2位はレモンとハチミツ
  キリを押し上げるフルーツの使い方してた。
  完敗。」

コンクール依存症:
「川村シェフと泉シェフに言われた💦
 アルコールきつすぎ、パーツ詰め込み過ぎ
 キリコンクールのケーキじゃないって。」

コンクール依存症:
「どでかい収穫ですね
 うまいまずいではなく
 キリのケーキを作らないといけない
 どのコンテストでも
 同じことなので
 次は勝ちますね😎🤩」

僕:
「2年後またやろっかな、、、」

コンクール依存症:
「やりましょ」

戦利品たち

コンクールに挑戦することは、自分の技術や創造力を試される貴重な機会です。しかし、それ以上に心がけたいのは、準備期間中の取り組み方や周囲との協力体制。
どうしても個人の挑戦という側面が強くなりますが、それでも日々の業務はチームで行っています。コンクールに向けた準備をしていると、自分の作品や練習に集中してしまい、通常業務がおざなりになりになることも。業務が自分のせいで滞ったり、他のスタッフに負担をかけてしまうことは絶対にあってはいけません。これまで以上に丁寧に確実に行いたいところです。
そして、周りのスタッフの協力と理解があるおかげで、自分の練習に時間を割くことができていること、挑戦できることを決して忘れてはいけません。

よい経験をさせていただきました
アルカンスタッフ様、ベル ジャポンスタッフ様、関係者の皆様
ありがとうございました

主催の株式会社アルカン公式サイトです。こちらに各部門の結果が詳しく掲載されています。
上位入賞者のレシピもダウンロードできるようです。是非ご覧ください。

僕が頑張っているInstagramです。遊びに来てください。


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#パティシエ
#クリームチーズ


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