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「国として種子法をなくしてはいけない」「歪んでしまった政策決定過程を正すことが必要」「種子法の廃止は『食料への権利』に対して悪影響を及ぼす。司法審査が必要」~6.3 種子法廃止違憲確認訴訟 証人尋問 2022.6.3

(取材、文・六反田千恵、文責・岩上安身 2022年6月15日アップ)

特集 種子法廃止!「食料主権」を売り渡す安倍政権

 2022年6月3日、「種子法廃止等に関する違憲確認訴訟」第7回口頭弁論が、東京地方裁判所103号法廷で行われた。午前10時から原告証人尋問が行われ、午後1時10分から証人尋問が行われた。

 裁判官は春名茂氏(裁判長)、横井靖世氏、下道良太氏であった。

 本稿では、午後に行われた証人尋問の報告をする。午前中の原告証人尋問、また終了後の報告集会については以下を御覧いただきたい。

 同訴訟は、種子法廃止は憲法違反だとして、全国の農家や消費者らが国を相手取り、提訴したものである。

 証人尋問では、順番に、山口正篤氏(元栃木県農業試験場)、鈴木宣弘東京大学教授(食料・農業・農村政策審議会委員)、土屋仁美准教授(憲法学・食品法ほか)が証言をおこなった。

 担当弁護士はそれぞれ、順番に、弁護団共同代表の田井勝氏、弁護団共同代表の岩月浩二氏、古川(こがわ)健三弁護士であった。

 山口正篤氏は、栃木県職員として、農業試験場で種子法廃止前の種子に関する一連の業務に携わるなどし、また、県OBとして種子法廃止後の県業務の実態を知り得る立場にある。山口氏は県業務の実際と意義を語り、種子法廃止後、国の主張とは異なり、県の業務が逼迫している実態があるとして、強い危惧を表明した。

 鈴木宣弘教授は、食料・農業・農村政策審議会委員として、国の農政の審議・決定プロセスに通暁されている。鈴木教授は、審議過程について、従来は農業の現場から声が上がり、それを農水省が受け止め、国会に送るという流れであったと解説した。

 しかし、TPPに関連するさまざまな改革が進められるなかで、規制改革推進会議からのトップダウンで行われ、農水省側が異議を唱えれば人事で報復を受けるといった実態があることを証言した。

 土屋仁美准教授は、日本国憲法25条「健康で文化的な最低限度の生活」と、世界人権宣言25条「十分な生活水準を保持する権利」等から「食料への権利」について解説した。種子法廃止の問題点として、従来の農家の存続が危ぶまれること、食糧の安定供給に懸念が生じること、種子の品質保持が危ぶまれることなどを指摘し、それらが「制度後退」にあたると論じ、司法審査を求めた。

 土屋氏は、50分にわたってパワーポイントを用いた詳細な証言をおこなった。

 被告・国側の反対尋問は、山口氏と土屋准教授の経歴確認などに留まり、実質的な内容に踏み込むものではなかった。

 詳しくは、記事本文を御覧いただきたい。

日時 2022年6月3日(金)10:00~12:00(原告本人尋問)、13:15~17:00(証人尋問)

山口正篤氏「国として種子法をなくしてはいけない、種子法を復活し、良い種子をつくる手助けをして欲しい」

▲「田植え」(撮影:Arttecture、PhotoACより)

 山口正篤氏は栃木県(作物部)の農業試験場の職員として30年間、地域に適した奨励品種の調査・選定、新品種の開発育成、原種・原原種の生産、農家へタネ生産の指導と審査を行ってきたと述べた。以下、山口氏の証言を要約でご紹介する。

 種子法にもとづいた県業務の実際について、山口氏は以下の内容を述べた。

 「地域にあった品種を調べ、奨励品種を選定する業務が、種子法にもとづいた最も重要な県の業務であった。県北であれば、寒さに強い品種を選定するなどである。南では、病気に強い麦の品種を選定した。

 新品種の開発育成では、栃木県県北地域に適した「ナスヒカリ」の育成に携わった。通常であれば、新品種の開発は10年程度だが、那須光の場合12、3年に及んだ。他県で育成された品種を栃木県に適合するかテストし、奨励品種として採用できるかどうかを確認する。

 米の品種は国が管理しており、それらが栃木県に適合するか試験をする。例えば、福井県で生産された「コシヒカリ」が栃木県に適するかどうかを調査する。

 奨励品種として採用された種子の原種・原原種を維持することも重要な業務であった。原種・原原種の生産にあたって、農家にタネ生産の指導と圃場審査と生産物審査を行っていた。圃場審査は年2回、生産物審査では、取れた種子の外観・汚れ、充実度、異品種の混合がないか等を審査する」。

 続いて、種子法が廃止されたことの弊害について問われ、山口氏は以下のように証言した。

山口氏「種子法にもとづく最も基本的な業務は奨励品種調査であった。その後、地域に適した新品種の育成も始まった。これは東北や関東のほとんどの県がやってきた。そして、しっかりしたタネをつくり、安く農家に提供するために、種子の生産も行ってきた。これらが種子法にもとづいた業務であった。

 種子法がなくなるということは、奨励品種調査や育成事業、種子の生産といった事業がなくなることを意味する。長く積み上げられてきたこれらの事業が徐々に失われていくという懸念がある。

 新しい品種の育成事業は、種子法に明記されているわけではないが、奨励品種の調査育成がなくなれば、こちらも徐々になくなっていくと思われる。

 最大の問題は財政である。これまでは種子法にもとづいて国から照例品種の選定調査などのための交付金が来ていたが、現職の栃木県職員に聞くと、種子法がなくなって国からの交付金がなくなったという。そのため、奨励品種調査などを実施する財源がないと、県の財政課から言われているという。したがって、事業を縮小せざるを得ない状況になっている」。

 田井弁護士は、「国は種子法が廃止されても、都道府県ごとに品種をつくれば良いというが、それはどうなのか」と質問した。

山口氏「財源がなくなり、奨励品種の選定調査など基本的な事業がなくなれば、その上に乗ってすすめてきた新品種の育成も難しくなる。職員も減ってくる。

 奨励品種の選定ができなくなれば、民間で『多収性』を売りにした品種が生産されても、それが栃木県に適合するかどうかをチェックできなくなる。土壌や気象の条件が異なれば、『多収性』を実現できない可能性もある。やはり、適合調査は必要であると思う。

 民間の参加も良いが、それが現場に適合するかの公的なチェックは必要である。そうしなければ、適合しない品種が地域に普及し、市場を独占すれば、生産性や品質、食味が落ちるということも考えられる」。

 田井弁護士は、「種子の生産に県が関与しなくなると、何が懸念されるのか」と質問した。

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