パンチライン百科事典 p.6 -HUMBLE.-
過去投稿第5回目は現代ヒップホップ界きってのレジェンドMC、Kendrick Lamarの曲である。まずこの記事を読む前に前回の「John'sイチ押しLyrics Vo.5」を読んでいない人は是非そっちを先に読んでほしい。なぜなら前回と少し関連している部分があるからだ。
今回、取り上げる曲は2017年に彼がリリースしたアルバム、『Damn.』からのシングルカット曲、『HUMBLE.』である。この曲の中では、前回紹介したウィードの力を借りてラップをするBuckshotとは反対に、何も使用せずにラップをする彼の声を聴くことができる。さすが彼はGood Kid(良い子)として有名なだけあり、その主張には説得力がある。
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Kendrick Lamar - HUMBLE. 2:06〜
Watch my soul speak, you let the meds talk, ayy
俺の魂が喋るところを見ておけ、お前らは薬に喋らせておけ
2:06〜
Kendrickは、前回紹介したウィードの力でハイになってラップをするBuckshotのような、いわゆる薬の力を借りるラッパーを嘲り、自分は反対にそういったもの無しでラップができると主張している。単純に"let the meds talk"(薬に喋らせておけ)という表現に私は惚れた。私はこのような無生物主語構文と呼ばれる、英語においてよく使われる表現が非常に好きである。無生物主語構文とは人や生き物以外のものを主語として、まるでそれが意識的に動いているかのような表現をする構文だ。日本語における擬人法と近い表現である。つまり、こういった表現はいわゆる比喩であり、ヒップホップに限らず、作者の「文学的な賢さ」というものを分かりやすく感じることができる表現なのである。何か英語の詩を読む際にはこの無生物主語構文を意識して読んでみると面白いかもしれない。加えて、文末の"ayy"であるが、これにも実はかなり重要な意味がある。ただの合いの手ではない。この曲がリリースされた時期には、文末で"ayy"と言うだけでさも韻を踏んでいるように振舞っているラッパーがいた(押韻としては一応成り立っているが、全くクレバーではない)。その典型例がXXX Tentacionの『Look At Me!』である。
[Verse 1]
I'm like, "Bitch, who is your mans?" (Ayy)
Can't keep my dick in my pants (Ayy)
My bitch don't love me no mo' (Ayy)
She kick me out, I'm like, "Vro" (Ayy)
That bitch don't wanna be friends (Ayy)
I gave her dick, she amen (Ayy)
She put her tongue on my dick (Ayy)
Look at my wrist, about ten (Ayy)
Just got a pound of the boof (Ayy)
Brought that shit straight to the booth (Ayy)
Tommy my Hilfiger voots (Ayy)
She said, "Wan' fuck?" Bitch, I do (Ayy)
You put a gun on my mans (Ayy)
I put a hole in your parents (Ayy)
I just got lean on my ksubis (Ayy)
I got a Uzi, no Uzi, yah
0:13〜
Kendrickは今回取り上げたラインの周辺でパロディ的にわざと"ayy"と言いつつ、かつ"ayy"の前でもしっかりと内容のある韻を踏み一連のパンチラインの流れを仕上げた。もしかすると合いの手がここまでのパンチラインとなったのはこの曲が初めてなのではないだろうか。ちなみに以下がそのパートである。
Ayy, this shit way too crazy, ayy, you do not amaze me, ayy
I blew cool from AC, ayy, Obama just paged me, ayy
I don't fabricate it, ayy, most of y'all be fakin', ayy
I stay modest 'bout it, ayy, she elaborate it, ayy
This that Grey Poupon, that Evian, that TED Talk, ayy
Watch my soul speak, you let the meds talk, ayy
If I kill a nigga, it won't be the alcohol, any
1:57〜
さすがレジェントとしての風格を見せつけた貫禄のあるラインである。
P.S. 皆さんはなぜKendrick Lamarが本格的にラッパーとしての道を歩みだしたか知っていますか。実は彼と同じ地元コンプトン出身のレジェンドラッパー2Pacと夢の中で出会ったのがきっかけだと言われています。2PacがKendrickに夢の中で、「人々を感動させる曲を作る意味」や「それを途絶えさせてはいけない意味」を伝えたらしく、それに感動した彼はその2Pacの思いを受け継ぎ彼のファーストアルバム『Section.80』を作成したらしいですよ。実際にこのアルバムに入っている曲、『HiiiPoWeR』やViceのインタビューの中でそれについて語っています。まあ本当かどうかはわかりませんけどね笑 かっこいい話であるのは間違い無いですね。
written by じょん
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