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すてきなペットにニャりたいニャ

「ホントに見た目も可愛いし、動き一つとっても愛嬌があるよなあ。」

三毛猫のレオは、鼻高々だった。
「オイラ世界一かわいい猫になって、都会のペット屋さんで大金持ちに飼ってもらうんだからな!」

「レオちゃんならなれるよ!」
「ホントに羨ましい!応援する!」


1-真似をする-



オイラ、本当はすごくなんかないんだ。
みんなはあんまり知らないだけで、”NyaoTube”で勉強してるんだ。

カリスマペット猫”ニャオ丸”の動画を毎日見て、ラジオ配信だって毎日聴いてる。ニャオ丸はオイラと同じ希少な三毛猫で、その愛嬌ったら本当に世界一なんじゃないかと思う。

だから、オイラはニャオ丸の真似をして勉強してる。
細かいところまでしっかり勉強済みさ。
例えば、鳴き声。
”にゃーお!”と鳴くんじゃなくて、”にゃあお!”となくイメージだ。

鳴き声だけじゃなくて、背中の丸め方や猫じゃらしでの”じゃらされ方”だって、完コピ。

自分にできないことは、まずは真似することからだ。
それがだんだん自分に馴染んできて、自分の能力になっていく。
オイラはそれを知ってるから、まずはとことんまで真似ていくんだ。

そのおかげで、この村の猫ちゃんたちには負けない可愛さと愛嬌があることには、自信を持てるようになってきた。

だから、こないだついに街のペットショップから声がかかったのさ。
夢を実現させられる第一歩だ。他のペットにも負けないぞ。
なんとしてでもオイラが、一番の大金持ちに飼ってもらってやる!


2-コピー品-



街のペットショップのバックヤードに着くなり、レオは絶望した。

「ウソだろ…。ほとんどが三毛猫じゃないか!
都会をなめてたのかもしれない…。」

”にゃあお!” ”にゃあお!”

至る所から、聞き覚えのある鳴き声がする。

みんな、ニャオ丸の丸パクリばっかりじゃないか。

街一番の人気ペットショップのバックヤードには
自分と同じように、ニャオ丸を真似てやってきた三毛猫で溢れかえっていた。

「オイラは才能があると思ってた…。でも本当は違ったんだ。

オイラと同じように、ニャオ丸をロールモデルにして、その一挙手一投足を真似しているやつばっかりだ。

ニャオ丸を知らないところで、ニャオ丸を真似すれば、それをオイラの才能だと思ってくれる。

オイラはそれを、自分の力だと錯覚してたんだ…。ここでは、オイラは何のアイデンティティもない同じコピー品…」

皆がニャオ丸を本気でコピーしているというこの”うすら寒さ”そのものに、レオは絶望した。

「オイラも、うすら寒い一匹…。」

レオは悲しくて泣いた。
「にゃあーーーーお!」
心の底から信じていた自分の能力が、ただ着ぐるみを着て得た力だった。

「オイラって、こんな鳴き声だったんだ…」



3-全力-


レオは、諦めなかった。

「この悔しさから逃げるな。考えろ。
そもそも、スターになる猫に、コピー品なんているわけないんだ。


“ニャオ丸の真似”という着ぐるみを着て80点くらいのパフォーマンスは出せても
“レオ”という120点の魅力は永遠に出ない。

スターとは、本人自身の潜在的な魅力が最大化して、それがオリジナリティとして華になっているヤツのことだ。

もはや、真似するのではなく、真似させるほどの魅力を持っていること…


そうか、まずは自分の魅力を知るべきだ。

そしてそれを増強する能力を、真似で補完することで、少しずつ”自分”ができてくるんだ。

くそ、考えれば考えるほど涙が止まらない…。
自分の無力を痛感させられる…。

逃げるな。”レオ”を知れ。”レオ”自身が持つ潜在的な魅力。
作った自分じゃなくて、本当のオイラを知る


閉店後のバックヤードの片隅。
腫れ上がった目からこぼれる涙を拭き取り、レオは母に電話をした。


「レオ、泣いてるのね。大丈夫よ」

「母ちゃん…オイラのいいところって、何なんだろう…?」

「そうやって、本当に自分の弱さを知った時に、自分の弱さを受け入れて、全力で泣けるのが、レオの良さじゃないの。

レオがいっぱい勉強してたのも知ってる。

それも、自分の弱さに向き合ってきた何よりの証拠じゃない?

悔しい時も、嬉しい時も、全力で鳴いてごらん。それがあなたよ。


「ありがとう、母ちゃん。オイラ本当の自分を、思い出せたような気がする。作った自分じゃない自分を知ってる母ちゃんに、聞いてよかった。」

電話を切るとレオは、自然と笑顔になれた。


満月の夜。一際大きい鳴き声が響いた。


「にゃあーーーーお!」


__おしまい

改(かい@3分で読める物語)




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