見出し画像

声、高円寺に消え、やがて。

#はじめて借りたあの部屋

---

 大学進学を機に上京。1人暮らしに選んだ街は「高円寺」でした。

 当時、東京と言えば、新宿、渋谷、池袋・・・、山手線の駅名が浮かぶくらい。王様のブランチを見ては「どこだよ・・・」「ブランチ見た!って言いたいけど、今からは行けんわ。」とつっこむウブな男子高校生でした。

 大学の案内には、中央線、東西線、西武新宿線など推奨の沿線が載っていました。「西武ってライオンズかな?」「中央線ってなんか都心ぽい。」字面だけではチンプンカンプン。
 母親に「アパート探しを始めるから、東京の路線図貸して」と伝えると、「待ってました」という雰囲気で差し出してくれました(当時は時刻表が自宅にありましたよね)。両親とも上京を経験しています。20年以上前とはいえ、息子にアドバイスもしたいし、アパート選びも参加したい。そんな考えだったと思います。

 え~と…まずはじゃあ、中央線かな?あ、円じゃなくて中央を通るって意味なのか。

 中野・・・、高円寺・・・、ん?

 高円寺ってもしや?


 胸が高鳴りました。この街は絶対面白いぞ。なぜなら当時、カラオケでよく歌っていたGOING STEADYの曲に出てくる駅名だったからです。

画像1

「高円寺にするわ」(即答)
「え???なに?もう決まったの?こ、高円寺??」

 あまりの即決さと、意外な名前に驚いていました。高円寺が悪いというわけではなく「もっとよく見たら」と提案してくれましたが、私は「大学から近い」「学生に人気」「駅から少し歩けば想定の家賃もある」と、胸が高まった理由は言わず、それらしい理由で売り込みました。ネットで検索しても、

「ここ良さそう」
「う~ん、あ、でもこれは新中野だから。」

 という具合に、行ったこともない「高円寺」へ異常に拘りました。私が親だったら、執拗に理由を聞きたくなるだろうな・・・と思いますが、さすが男子高校生の母親。そこは詮索せず。

 現地の不動産屋さんに伺い、サクッと決まりました。だって、私は「高円寺」に住みたいというのが第一希望。ユニットバスだろうが、セキュリティだろうが、駅からの距離だろうが、いろいろ妥協できるわけです。もう1つのときめき、「ロフト付き」を見た時に「ここがいい」と即決しました。

 家電は、量販店の一人暮らし応援パック。洗濯機、掃除機、こたつ、そしてテレビ。今はテレビを買わない学生が多いかもしれませんが、当時は必需品でした。ちなみに厳密にはテレビデオ。

 入学式前に上京して、数日間。毎日が楽しくてしょうがなかったです。トイレットペーパーを買いに行くのも楽しい。地元の商店街は当時シャッター化していました。でも高円寺はどうでしょう。パル商店街、ルック商店街、そしてゴイステの歌でもでてくる純情商店街。もう、みんな元気。古着屋さんを回り、飲食店をリサーチし、日用品を購入していたら1日が終わる。すごいぞ、東京。すごいぞ、高円寺。入学式の頃には、既に服装はオール高円寺仕様でした。

 徐々に新鮮味が消えても、街を歩くことはずっと楽しかった。刺激的な学生生活、そして眠らない街を抜け、シーーンと静まった1Rのアパートに帰ってくる。

 親が仕送りしてくれて成り立っているのですが、当時は「自分で生きている」という実感でした。忙しなく動いている東京の中で、小さな城を構えて、私も生きている。冷えきったアパートの一室に帰る事に嫌悪感はなく、「自分だけの空間」という充実感がありました。

 同時に「自分ってちっぽけだなぁ・・」と感じたのも、このアパート。長方形の空間にポツンと座っていると、急に虫かごに入っているような気分にもなりました。自分が生きていようがいまいが、世の中に特に影響はない。小さな部屋でぼ~っとすればするほど、ネガティブでもポジティブでもなく、フラットに自分を見つめ直す時間が生まれました。

何したい?どうなりたい?

 モラトリアム期間に一人暮らししてよかったと思います。「始めて借りたあの部屋」を思い出すと、グレーで統一した家具と、冷蔵庫や換気扇の音、床の冷たさ。そして、20歳前後の悩める私が浮かびます。不思議ですね。記憶を1つ1つ並べると冷たい雰囲気なのに、私の中ではあたたかい記憶です。心の中で、温められたのでしょうか。

---

 当時のアパートは、まだあるのかな?

 ふと、そんなことを思い検索してみました。

 おぉ、嬉しい。ありましたよ。そこそこ築浅なイメージが、築29年。驚きましたが、私が上京したのも17年前だもんなぁ。

 外観は少し年をとっていましたが、部屋の中はリフォームされ、とてもきれいになっていました。まだまだ、彼も現役のようです。

 田舎者が一生懸命、都会に染まり、楽しんで。恥ずかしくもあり、でも、今の私のアイデンティティが育った場所でもあります。

 その後も、私のような「紛れ者の住処」として活躍しているのかな?

 はじめて借りた201号室。ありがとう。


---

銀河鉄道の夜 / GOING STEADY



お読みいただき、ありがとうございました。 FB:https://www.facebook.com/takayoshi.iwashita ㏋:https://ibc-tax.com/