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たった3週間でフェイスシールドを開発・量産したFab×町工場。 ラヤマパックの社長にインタビューしました。

プラスチック加工の町工場がはじめた、フェイスシールド生産。

プラスチック加工の専用工場と専門技術を持つラヤマパック。今年3月から「具現化工場」という、相談・試作・製造のできるものづくり支援施設の運用も開始するなど、モノづくりの可能性も追求している町工場です。岩沢兄弟もブランド構築・空間づくりでお手伝いしました。

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そんなラヤマパックが、3月後半から構想をはじめ、4月15日よりオリジナルのフェイスシールドの生産と販売を開始しました。フェイスシールドは、顔面からの感染を防ぐ防護アイテム。新型コロナウイルス感染症の拡大するなか、医療現場において在庫不足が問題化しています。ラヤマパックではこのフェイスシールドを4月28日までに3,000点出荷。5月の連休明けにはさらに10,000点を全国の医療・福祉関連施設に納品する予定です。(ラヤマパック フェイスシールド販売サイト:コチラ

なぜ東京の町工場が、今まで生産してこなかった医療者向けの製品製造に踏み切ったのでしょうか。また、約1ヵ月という超短期間で製品化できたのはなぜでしょうか。岩沢兄弟が関わっているものづくり工場の展開を伺うべく、社長の羅山能弘さんにインタビューしました。(2020年4月28日 オンラインにて取材)

マスク不足が続く医療機関。プラスチック加工工場ができることはなにか。

そもそもラヤマパックが、フェイスシールドの生産を始めたきっかけは、3月23日頃のこと。新型コロナウィルス感染の最前線で働く医療機関でもマスクが不足しているという状況を知り、プラスチック加工会社としてなにか貢献できることはないか。と社内で議論を始めたそうです。

最初に思いついたのは、マスクのインナー。羅山社長のFacebook個人アカウントに試作品を装着した画像をアップし、友人たちにフィードバックを求めました。

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そんな中、たまたまテレビで、フェイスシールドが不足していて、使い回しているというニュースを羅山社長が目にしました。「フェイスシールドが1個2000円以上するというのを聞き、びっくりしました。」フェイスシールドはプラスチック製。もっと安く簡単につくれるのではないか。これは、プラスチック加工を専門とする自分たちの出番だと思い、試作をスタートしました。

公開データを活用、3Dプリンターで試作、Facebookでフィードバックを収集。SNSとFab機材をフル活用して、高速開発を進める町工場。

最初は、3Dプリンターによる試作もしてみました。とある3Dプリンターメーカーがフェイスシールドのデータ公開していたのです。しかし、出来上がった試作品にかかった時間は、1個につき3時間。3Dプリントでは、出力に時間がかかりすぎることがわかりました。

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「ものはいいが、1個つくるのに3時間かかっていては、全く供給が間に合わない。今困っている医療従事者の人たちに届けるためには、とにかく早く安く、大量に届けられる体制をつくらなくちゃ意味がない」と、考えた羅山社長。

知人の医療関係者とともに試作品を何度もテスト。構想から3週間で量産へ。

そこで思いついたのが、現在の「トムソン加工」を使った、「折り紙方式」のフェイスシールドでした。

トムソン加工とは、トムソン型と呼ばれる、抜きたい形に曲げられた鋭い刃のついた木型を使って形状を作る方法です。特徴は金型に比べてコストが安く、製作日数も短いこと。とはいえ、何種類も木型をつくるのは時間もコストも掛かってしまうため、最終的な形を決めるまでは、レーザーカッターを使って試作と検証を繰り返しました。知り合いの病院や薬局に務める人たちにも試作品をテストしてもらい、最適な形を検討していきました。

「とにかく、みんなでプロトタイプを試しました。これだという形ができてから、本番の木型をつくりました」

そして4月15日、構想から約3週間。プロトタイプをもとに、フェイスシールドの量産を開始したのです。

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無償で配るか、製品として売るか。持続性を考えて販売を決めた。

製品としてのフェイスシールドが完成した後、羅山社長が悩んだのはその流通方法でした。無償で配るべきか、製品として販売するべきか。

当初は、ボランティアで無償提供することも考えていたそうです。しかし最終的に現在の価格(10枚6,500円/50枚20,000円)で販売することに決めました。、それには、試作テストに協力してくれた医療関係者の方々からの意見もあったそうです。

「私は社会貢献として利益度外視でやろうと思っていたんです。ただ、テスト協力してくれた薬局や病院勤務の皆さんから、『あなたの社員を疲弊させないでください』と言われてハッとしました。実際、製品をつくり、それを梱包していく作業は非常に手間がかかるんです。また、この状況は長期戦になることも十分考えられます。そうしたとき、事業としての持続性を無視してしまうと、次第に自分たちが逼迫してきて、供給を諦めるタイミングが来てしまうかもしれない。大事なのは、必要な人に、必要な数、必要な期間、安定して供給できること。それを持続するための対価を得ることは大切なのかもしれないと考え直し、最終的に今の価格に決めました」

必要な人に届けることを優先し、改良を続けていく。

現在生産しているフェイスシールドは、手にとった人たちのフィードバックを得ながら、さらに日々改良を続けているそうです。

「100点満点の製品を目指していたら、時間がかかりすぎていま必要な人たちに届けられない。ここは、一定の批判を受けることも覚悟の上で、まず世の中に出して届けることを優先しました。受けた意見は真摯に捉え、改善していくことに努めています。例えば、今のフェイスシールドは組み立てづらいという意見も多かったので、より組み立てやすい仕様に変更しています。GW明けには新バージョンを提供できそうです。」

ラヤマパックでは、4月15日からフェイスシールドを生産開始し、28日現在までで3,000枚以上を出荷しました。出荷見込みまで入れると、5月の連休明けまでには10,000枚を超えるそうです。出荷先は、北海道から九州地方まで。薬局や病院、歯科医院や介護施設など。

「まだまだ困っている人たちはたくさんいます。例えば今後は、宅配業者や物流などで働く人達も必要になるかもしれない。」

こうしてラヤマパックは、オープンなネットワークとスピーディな試作を繰り返してものづくりを進めていく「Fab」の長所と、量産展開して安定的に製品を供給していく町工場の長所を生かした活動を現在も展開しています。

Fab×町工場に見る、ものづくりの未来。

たった3週間でアイデアからフェイスシールドの量産までを実現したラヤマパック。とてつもないことだなと感じました。

Fab文化の素晴らしさは、お互いにものづくりのアイデアをオープンに公開しあいながら、互いに高めあっていけることです。一方、Fabの弱点は、大量生産です。一人ひとりのアイデアを形にすることはできるけど、同じ品質のものを大量に生産し、安定的に供給していくことは得意ではありません。

でも、ラヤマパックは町工場です。大量生産と大量発送の実践知があり、ファシリティがあります。その工場の強みをもちながら、自らがFab文化にも飛び込んでいこうと「具現化工場」をつくり、FacebookなどのSNSをうまく活用し、アイデアを交換し、Fab機材を使いこなして試作スピードとコスト削減を実現。そして製品化につなげる。そういった仕組みがあることで、複雑な課題や日々変わる状況にも対応ができるわけです。

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これは、これからのFab文化の発展と、町工場の発展の両方に関わる可能性なのではないかなと強く感じました。これからのものづくりの未来には、Fab×町工場にヒントがありそうです。そして岩沢兄弟もそんな世界に引き続き関わり、応援していきたいと考えています。

具現化工場Web  / ラヤマパックフェイスシールド販売Web

岩沢兄弟 

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