東日本大震災復興事業の真相

高山義浩先生がパキスタンの開発援助について感動していたので、それはパキスタンでは良いことですが、日本に適用していい話ではありませんと申し上げました。

ご存じのように私は一時石巻市雄勝地区で医療活動をしました。人口4千人の集落が津波で一気に流され、1200人にまで減りました。見渡す限りの荒野です。そしてそうした光景が、東北地方太平洋沿岸数百キロに渡って拡がったのです。

そこで日本がやった復興策は、もはや誰もいなくなった土地に巨大な台地を作り、高さ8メートルもある堤防を作り、絶対誰も戻らない土地に首都高かと見まごうばかりの高架道路を建設したことでした。私が雄勝に赴任していた頃はその大工事の真っ最中で、東北沿岸一帯が工事現場でしたが、今はその工事も終わり、誰もいない台地と車一台通らない高架道路が無人空間に拡がって、既に雑草に覆われ始めています。

結局あの復興工事で美味い汁を吸ったのは中央のゼネコンとそれにぶら下がった下請けだけです。台地を作ろうが、高架道路を作ろうが、もうそこは人が住む土地としての条件を喪失していたのです。

中央のゼネコンとそれにぶら下がる連中は甘い汁をたっぷり吸いましたが、金は天から降ってきたわけでは無く、復興税という増税と赤字国債で出したのです。要するに、国民が被ったのです。震災を格好のネタにして、国民から大企業が金を巻き上げて全く無意味な巨大工事をやりたい放題やったというのが震災復興の真相です。

もっと細かく具体的な事情を指摘すると、雄勝では地区全体でたかだか十数名しかいない小中学生のために二つあった学校を放棄してわざわざ新しい学校を作り、たった2,3人しかいない児童のために保育園を作り、1日4人しか患者が来ないのに新しい診療所を作りましたが、先生もご存じのように結局診療所の医師常駐は放棄されました。あのとき石巻市の健康部長に、「雄勝に医師を常駐させる意味は無い」と直接告げたのは私です。結局私が言ったとおりになりました。今全国の都市圏では子供を保育園、幼稚園に入れることが出来なくて多くの家庭が途方に暮れているのに、石巻市雄勝地区ではたった2,3名の幼児のために新築の保育園があるのです。これを矛盾、不合理と言わずしてなんと言えばいいのでしょう?

要するに、人口がどんどん減少していくのですから、今日本がやらなければならないのはパキスタンの逆、つまりインフラを全国津々浦々にバラバラと無計画に整備するのでは無く、逆に拠点拠点に集中させ、公的インフラを整備して人間が居住する区域とそれ以外を分けることです。何をどうしてもそこに集落が存続できる基本条件が無いところは思いきって整理し、荒野に高架道路やぺんぺん草に覆われた台地を作るのを直ちに止め、公共サービスを有意義で機動的に稼動させられるようにしなければ、この国の将来はありません。

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