機長と医者

さーて、喧嘩を売るぞ。


私は過去数え切れないぐらい飛行機に乗った。しかしコックピットを覗いたのは1度しかない。モスクワからの帰りに乗ったアエロフロートの運転室のドアが開いていたのだ。それはもう随分前だったが、その当時ですら欧米の飛行機であればデジタル機器が並んでいるはずの所にメーターやら何やらが並んでいて、これは怖いなと思った。思ったが、その時私はそれについて異は唱えなかった。どうせ私にそのメーターの意味は分からなかったからだ。結局の所そのイリューシンとかいう飛行機は、旧式のメーターを搭載していたが無事にモスクワのシェレメーチェボから成田まで飛んで着陸した。私がコックピットに入っていてとやかく言う必要は無かったのである。



通常、飛行機の客席と操縦室の間の扉は厳重に閉じられており、乗務員以外の出入りは禁じられている。それに異を唱える乗客はいない。世間には飛行機オタクというのがいるが、彼らにしても飛行機に乗る際操縦室に入ってあれこれ自説を述べることはないだろう。



ところが何故か医療医学となると、人は突然ネットや家庭の医学を漁るとそれが分かると思ってしまう。取り分け手に負えないのがネット、中でもSNS、その中でも特にYouTubeの情報を漁る人々で、彼らは一切医学の体系的学習を受けていないにもかかわらず、ネットで有名人がこう言った(例えば医者でも医学者でもない有名タレントや経済人がこう言った)、YouTubeで誰かがこう言っているというのを真に受けて、ワクチンは人類を滅ぼす陰謀だとか、コロナは中国が放った生物兵器だとか、ありとあらゆる珍説を真に受けてしまう。



こう言う、あまりにカッとんだ馬鹿馬鹿しいトンデモ説を真に受ける人は、絶対に説得出来ない。この手合いは、飛行中の飛行機のコックピットに乗り込んでいって、機長に「その操縦桿はもっと強く引け」と言っているのと同じである。機長はそのような乗客を強制的に排除する権限を持つが、医者にそれがないのというのはどこか間違っているようにも思われる。

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