通貨(あるいは国債)はどんどん刷れるか?

通貨発行権があるんだから通貨をどんどん刷ればよいと山本太郎が言う。それならアジア通貨危機は何故起きたのか。アジア通貨危機とは、1997年7月タイに始まってアジア全土に波及した通貨の大暴落だ。



当時、日本、台湾、フィリピンを除くアジアのほとんどの国々は、自国通貨とドルの為替レートを固定するドルペッグ制を採用していた。それまでドル安の影響で、各国通貨は比較的安定していた。タイなどASEAN各国は先進国から製造業が多数進出し、好景気と言うよりむしろバブル経済の状態だった。1995年、アメリカは経常赤字対策として「強いドル」政策に出た。ドルが値上がりするとともに、ドルペッグ制を取っていたアジア各国通貨も値上がりした。その結果アジア諸国の輸出は伸び悩み、資本家達はアジア通貨の価値に疑問を抱き始めた。



そこに目を付けたアメリカのヘッジファンドが、過大評価されたアジア通貨を空売りし、安くなったところで買い戻せば巨利を得ると思いついた。ヘッジファンドの空売りでアジア通貨は突然暴落し、各国は自国通貨を支えることが出来なくなった。タイ政府は通貨バーツを買い支えるのに必死の努力を費やしたがそれも虚しく、バンコクにある国家の金庫には、ついに金(GOLD)が空になったという。これを血まみれのバーツという。これによりタイ、韓国などいくつかの国が財政破綻し、IMF管理下に入った。厳しい緊縮財政を課すIMFのもと、国民は塗炭の苦しみを舐めた。



当時何処の国にも通貨発行権はあった。しかし通貨の価値が過大だと見透かされたことで上記の事態となり、紙幣は文字通り紙切れと化した。幾ら貨幣を刷っても紙切れではどうしようもない。



当時のアジア各国はバブル経済だった。好景気がバブルであることをヘッジファンドに見透かされてこういう事態が起きた。今日本は一部輸出企業を除けば不景気だ。それなのに政府はせっせと国債を刷って、もはや1000兆円にも達している。先日一時的に円が急落する事態があった。そのことはアメリカが利上げに踏み切ったからだと一般には言われているが、国内外多くの投資家が円の価値に疑問を抱いているのは間違いない。日本経済が全体として順調に成長していると考えている投資家はほとんどいないだろう。円は危ない、と見切りを付ける投資家は増えている。ヘッジファンドがそこに目を付け、円の空売りをしたらどうなるか。背筋が凍る思いがするのは私だけではあるまい。



通貨を幾らでも刷れるのはアメリカだけである。ドルが基軸通貨になっているからだ。しかし円は基軸通貨では無い。通貨発行権があるからと幾らでも円を刷れば(国債を刷っても同じだが)、アジア通貨危機の二の舞になるであろう。

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